雪虫が飛んでいる。
明るい陽射しの中を、白い冬の前触れ。
命と季節の移り変わりが、紅葉した木、雪虫、枯れてきた蔦の葉と
繋がって見える。
見えない空気すら秋冷を帯びて、皮膚に伝える。
明治前までこの感覚はさらに深く、魂の声のようにも見えていたのだろう。
そんな事を感じさせるコラムに昨日出会った。
「蝶と蜻蛉」と題されたコラムである。
慶応2年(1866年)生れのその人の祖父にあたる人は、病が重くなり
最後に妻にこう伝言したという。
子の事は心配するな。私が蝶になり、蜻蛉となって護る。
死者の魂が蝶となり、後戻りしない蜻蛉を「勝ち虫」として兜の前立てにした
時代の人の話である。
人が昆虫に、魂の関わりとして仮託し表象され得た世界を、私は美しいと思う。
人は小さな虫を通して、大きな世界と繋がる回路を保っていた。
違いが分別として分類・差別するのではなく、見えないものの表象として
繋がり感じる心を、普通に大切にして保っている。
それでなければどうして、今際の際に愛する家族に遺言として蝶や蜻蛉を
持ち出す事が出来るだろうか。
蝶や蜻蛉の舞う姿を見て、見えない魂の表象を感じ、風の音にも秋の深まりを
感じた人たちの感性の方が余程宇宙的ではないだろうか。
雪虫の音もなく乱舞する姿を見て、来る冬の気配を感じながら、
今回の昆テンポラリー展は、今喪われつつある人間本来の感性を
少しは刺激し、甦らせるものがあると思っているのだ。
*昆テンポラリー展「札幌の昆虫を素材にして」-10月24日(日)まで。
am11時ーpm7時。
:谷口顕一郎・森本めぐみ(美術)・河田雅文(会場構成・映像)山田航(短歌)
・文月悠光(現代詩)。
:素材提供・木野田君公「札幌の昆虫」(北海道大学出版会)。
:企画原案・熊谷直樹。
:企画協力・札幌市博物館活動センター・テンポラリースペース。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503