人気ブログランキング | 話題のタグを見る

テンポラリー通信

kakiten.exblog.jp
ブログトップ
2010年 10月 19日

雪虫の飛ぶ晩秋ー秋のフーガ(14)

雪虫が飛んでいる。
明るい陽射しの中を、白い冬の前触れ。
命と季節の移り変わりが、紅葉した木、雪虫、枯れてきた蔦の葉と
繋がって見える。
見えない空気すら秋冷を帯びて、皮膚に伝える。
明治前までこの感覚はさらに深く、魂の声のようにも見えていたのだろう。
そんな事を感じさせるコラムに昨日出会った。
「蝶と蜻蛉」と題されたコラムである。
慶応2年(1866年)生れのその人の祖父にあたる人は、病が重くなり
最後に妻にこう伝言したという。

 子の事は心配するな。私が蝶になり、蜻蛉となって護る。

死者の魂が蝶となり、後戻りしない蜻蛉を「勝ち虫」として兜の前立てにした
時代の人の話である。
人が昆虫に、魂の関わりとして仮託し表象され得た世界を、私は美しいと思う。
人は小さな虫を通して、大きな世界と繋がる回路を保っていた。
違いが分別として分類・差別するのではなく、見えないものの表象として
繋がり感じる心を、普通に大切にして保っている。
それでなければどうして、今際の際に愛する家族に遺言として蝶や蜻蛉を
持ち出す事が出来るだろうか。
蝶や蜻蛉の舞う姿を見て、見えない魂の表象を感じ、風の音にも秋の深まりを
感じた人たちの感性の方が余程宇宙的ではないだろうか。
雪虫の音もなく乱舞する姿を見て、来る冬の気配を感じながら、
今回の昆テンポラリー展は、今喪われつつある人間本来の感性を
少しは刺激し、甦らせるものがあると思っているのだ。

*昆テンポラリー展「札幌の昆虫を素材にして」-10月24日(日)まで。
 am11時ーpm7時。
 :谷口顕一郎・森本めぐみ(美術)・河田雅文(会場構成・映像)山田航(短歌)
  ・文月悠光(現代詩)。
 :素材提供・木野田君公「札幌の昆虫」(北海道大学出版会)。
 :企画原案・熊谷直樹。
 :企画協力・札幌市博物館活動センター・テンポラリースペース。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2010-10-19 12:08 | Comments(0)


<< 幻の山ー秋のフーガ(15)      泪の考察ー秋のフーガ(13) >>