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テンポラリー通信

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2010年 10月 14日

風の羽・昆虫伽藍ー秋のフーガ(9)

秋晴である。
晴天を見上げると、未練が出る。
自転車に乗りたい。
自転車なら何でも良いという訳でない。
感覚が覚えている乗り心地というものがある。
サドルの位置とか、ハンドルの感触とか、体が覚えている感覚
があるのだ。
晴れた空を見て、女々しく未練がましく思うのである。
いつもより早く起きて歩行の毎日。
これはこれで良いのだが、時にふっと風を切る感覚が甦る。

文月悠光さんの展示中の詩を読む。

 「十九年も一緒だったのに、
 自分の心臓が蝶とは気づかなかった」

という一節が印象的だった。

 (咲かねばならぬ
 (産むためだけの

 蝶は触角から蜜にのまれていく。

心臓と蝶を重ねて女性へと変身してゆく19歳の心の変化が美しい。
山田航さんの恋の生活詠と比べると、その相違もまた男女、経験差
の現在が投影されていて興味深い。

 ただ羽化を信じてゐたりカンテラを掲げて都市といふ巨樹を見る

 虫のやうな暮らしとおもふアパートの一室灯し身を寄せあえば

ふたりの現在が昆虫を通して、文字のイメージに転写されていく。
美術家は昆虫の形態からイメージを広げ、文字の人は言葉を紡いで
昆虫のイメージを広げている。
河田雅文さんの絶妙の展示構成により、文字のイメージは視覚的
表現も獲得して、心に反芻するように空間に満ちている。
密度の高い展覧会ですねと、昨日最初に来た画家の人が呟いた。
見る人の角度が、文月的詩語だったり、山田的歌文だったり、木野田蒐集
の昆虫の形態だったり、森本的部分の造型だったり、谷口的絵画だったり、
河田的映像だったり、その都度アクセスする入口が多彩なのだ。
標本箱に収納された昆虫の希少性を閉じて見るのではなく、昆虫をキーと
して見る者は自由にはばたく、イメージの翼・羽根を得るのである。
空間は小さいながらワンダーランドと化して、秋の昆虫伽藍、祠(ほこら)
のようになった。

*昆テンポラリー展「札幌の昆虫を素材にして」-10月12日(火)-24日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。
 :谷口顕一郎・森本めぐみ(美術)・河田雅文(会場構成・映像)
  山田航(短歌)・文月悠光(現代詩)
 :素材提供・木野田君公「札幌の昆虫」(北海道大学出版会)
 :企画・熊谷直樹
 :企画協力・札幌市博物館活動センター・テンポラリースペース

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2010-10-14 12:50 | Comments(0)


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