雨が外の音を消してくれる。
雨音だけの静かな日。
風も加わって、時折り激しく雨音が吹きつける。
そんな中、美術評論の長老吉田豪介さんが訪ねて来る。
ズボンが濡れている。
中へ招き入れ、熱い珈琲を淹れて出す。
ドイツ滞在中の谷口さんを、文化庁に推薦してくれた恩人である。
谷口さんがいそいそと会場で自分の作品説明に余念がない。
その後満足そうな笑顔の吉田豪介さんに奥で、砂澤ビッキの昔話を伺った。
私がビッキのキメンシリーズが好きだというと、眼を輝かし
その時代の色んな話をしてくれた。
夕方家族で食事の約束があるという谷口さんが、少し早めに帰った後、
広島での展示を終えたガラス作家の洞爺の高臣大介さんが来る。
入れ違いを残念がる高臣さんだったが、作品はゆっくりと見ていた。
ちょうど来た日章堂の酒井博史さんと久し振りに会って、最終日に
もう一度ここで会おうと約束していた。
最終日酒井君と大介さんとの久方ぶりのヂュエットが聞ける気がする。
多分ケンと彩さんからは、中島みゆき「糸」のリクエストが
あるに違いない。
最終週の日曜日に向けて、谷口展のカウントダウンが始ってきた。
昨日彼と話した言葉、”まだやっと一週間、濃い日が続くなあ、”だった。
ともに十数年前の場所から経験してきた時間が、濃くコンデンスされて
この一週間に集約されてきた。
そんな気がするのである。
作品もまたそんな時間を凝縮するように、深化し存在している。
谷口顕一郎の札幌時代を良く知る知人・友人たちが、その変化を
彼の人生そのものと同じように立ち会っているのだ。
その感覚こそは、百の言葉にも勝る実の批評である。
他の場にはない故郷ならではの、彼の故郷の声なき声、
無言の批評なのだ。
その事を他の誰よりも一番深く感じているのは、本人であると思う。
故郷は甘えるところではない。
優しく包んでもくれるが、誤魔化しは効かない場所である。
良くも悪くもあるがままの今の自分と向き合う場所である。
作品以外の直接性は、山の裾野のように深く重い。
*谷口顕一郎展「凹みスタデイ#19」-10月3日(日)まで。
am11時ーpm7時。
*昆テンポラリー展「札幌の昆虫を素材に」-10月12日(火)ー24日(日)
:谷口顕一郎・森本めぐみ・河田雅文・文月悠光・山田航。
綜合素材提供:木野田君公氏「札幌の昆虫」著者。
企画:熊谷直樹。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503