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テンポラリー通信

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2010年 09月 22日

福寿草の母ー谷口顕一郎展(4)

特別にオープニングパーテイを謳った訳ではないが、
夕方から人が集まる。
谷口さんと彩さんの人徳というものであろう。
会場中央に吊られた作品を囲むように、車座になって宴会が始る。
私は奥の部屋で、佐佐木方斎さん、まるちゃん、谷口さんの父上と話す。
谷口さんの父上とこうして酒を酌み交わし話すのは初めてである。
お酒が回るにつれ谷口父上の舌は滑らかになる。
顕一郎の事は何でも聞いて下さい、私しかもう知らない事が沢山ある。
ランボーだった高校時代、まるちゃんの顔を見てこう言い出した。
まるちゃんの通うO短期大学は女子校で、家にも近くそこを覗きに行った
事などと話し出した。
私は大方のランボー時代を本人から聞いて知っていたので、
その事を思い出し笑いが止まらなかった。
こうした話はもう母上も亡くなったので、私しか知らないと念を押す。
そのうち今回の作品の事で、私が床の焦茶、作品の黄、壁の白の絶妙な
適合は、彼の北体験・春の福寿草と土の色ではないかと話すと、谷口さん
は大いに感心してくれた。
そしてふと思い出しように、亡くなった顕一郎さんの母上が一番好きだった
花が福寿草だとぽつりと呟く。
しかし、と話を繋ぎあの作品の形は花ではない。昆虫ですよ、と言う。
私は顕ちゃんのお母さんが福寿草を好きだった事は初耳で、その偶然に
不思議な感動を覚えていた。
北の大地の記憶とともに彼の母の記憶も入っていたのだ。
ひとつの色彩の選択にも個人的な理由がある。
そんな厳粛な気持ちがした。
さらにあの凹みの形象をずばりと昆虫だと喝破した父上の指摘にも
説得力がある。
花のたおやかな形象ではなく、昆虫の動的で暴力的な躍動性が
彼の選ぶ傷痕・凹みの形象には確かにあるのだ。
ランボー・昆虫の攻撃性、そして母上が愛した福寿草の黄。
これが谷口顕一郎の両側面である。
さすが父子である。
息子の本質的な基底部を見抜いている。
最後まで息子の至らなさを詫び、末永くよろしくという姿勢を崩さず
頭を下げる父上であった。
まだまだ一人前ではないという父の視線に、何よりも深い父親の愛情を
私は感じていた。そして同時にオランダの国の文化事業に異国人である
彼が登用された此れほどの実績を現実にしながらも、なお手綱を緩めない
親としての誇りと揺るぎない愛情の存在を、そこに感じてもいたのだ。
オランダ司法省関連の新ビル落成と博物館の完成の時には、一緒に
オランダまで彼の作品を見に行きましょうか、と父上と話した。
息子の作品の2年後の晴れ舞台。
ささやかな札幌からの応援団として、私も父上と一緒にそこに立ち会えれ
ばいいと思っていた。
父上が帰られた後も宴会は続き、二次会は宇田川洋さんの居酒屋で終る。
ここはここでKさんの涙が印象的な優れて作品論に関わる遣り取りがある。
いい作品は、いつもこうした波及する人の心の襞が素晴らしい。

*谷口顕一郎展「凹みスタデイ♯19」-9月21日(火)-10月3日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休・休廊。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2010-09-22 12:03 | Comments(0)


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