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テンポラリー通信

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2010年 07月 29日

エルムの声・幻想ー森の記憶(19)

旧山下邸前庭に立つ一本の大木。
この樹は藤倉翼さんの撮った写真の大きなひとつのテーマともなっている。
初めてこの旧山下邸を訪れた昨年夏、私もこの樹の存在を意識していた。
古い家屋の内部も勿論素晴らしかったのだが、居間の和室から縁側越しに
見えるこの樹の姿は何故か充分に、借景として意識させられるものだった。
横谷惠ニさん構成全方向のヴィデオ映像で、この家屋の内外を隈なく見る事
も興味深いものがあるのだが、一枚の大型写真が前庭のこの樹も含めて
ただ静謐に撮られているのを見ていると、様々な事が思い浮かび見飽きない。
この写真の主役は、多分木造平屋のこの家とその前に立つこの樹の存在が
大きいのである。
樹の種類にそれ程詳しくない私は、この樹の種類を図鑑で調べてみたいと
いつも思っていた。
山下邸の方に聞いても詳しくは分らず、昔からあったのでという答しか得られ
なかったからだ。
それが唐牛さんの立柱の素材を運んでくれた園芸家の方が思いかけず、
ひょいとその答えを教えてくれたのだ。
この樹はハルニレですよ、という事だった。
その答えを聞いて、瞬間ざわっとするものがあった。
エルムだ!、ここにもエルムが在る。
この間「札幌・緑の運河エルムゾーンを守る会」を提唱し、伊藤邸の前庭を
植物園ー清華亭ー北大構内と結ぶ札幌の掛け替えのない風景の文化遺産と
して高層ビル化の破壊から救う運動を呼びかけようとしている時、その主役には
札幌を象徴する原生林エルム(ハルニレ)の存在があったのである。
6月阿部守さんの徹の作品を展示した時も、清華亭の庭のエルムの大木の
傍らに阿部作品を設置しようという動きがあった。
この試みは残念ながら、地産地消を唱える地元美術家群団がネックとなり、
九州の作家の作品は挫折を余儀なくされたのだが、阿部守の柔らかくも強靭な
作品を呼び寄せようとした動機には、清華亭の文化財の建物ではなく、この庭に
立つ一本の巨木の存在があったのである。
米国人ベーマー作庭の優れた和洋折衷の清華亭庭に立つエルムの巨木の
傍に、鉄の阿部作品を置いてみたいという最初の発想があったのだ。
それからエルムの声がずっと届いている。
物言わず同じ場所に立ち続けている巨木たちの点在が、時に人を介して
時に写真を介して、繋がる線の声を届けて来る。
そんな気が今するのである。
先日自宅から持って来た父の青春時代に描いた遠い時代の絵の森までもが、
この巨木のエルムの緑色の頭に見えてくるのだ。


*唐牛幸史展「REPUBLIC」-7月27日(火)-8月15日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休・休廊。
*西田卓司展「ワーキングフロー」-8月24日(火)-9月12日(日)
*谷口顕一郎展ー9月21日(火)ー10月3日(日)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503
 

by kakiten | 2010-07-29 12:39 | Comments(0)


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