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テンポラリー通信

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2010年 05月 14日

ふたつの自然(続)-青き繁みに(12)

ふたつの自然とは何かと、問う声があった。
どちらも自然ではないか。
あえて言えば、社会化した自然と天然自然とでも言えるだろうか。
野菜と山菜の相違の様にである。
整備された山道を歩けば、何となく自然を満喫した気分にはなる。
しかしそこは二次林か人工林であることも多い。

 彼らは山の自然はいい、昔もこんなだったのだろうかと話し合っている。
 カラマツの林にしても自然林だと思っているようなので彼らの話につい
 立ち入ってしまった。
 ぼくはこのあたりの樹林帯には手つかずの自然などなく、
 ここは明治以来今日まで徹底的に乱伐されたところで景観は今とは
 まったく異なっていることを説明した。
 伐採後放置した後の二次林か人工林でしかないことをつけくわえると
 みな興ざめした顔になった。
                (早川禎治「傷ついた自然の側からー手稲山紀行」)

以前備前焼の作家が来て逗留した事がある。
彼は山中に窯を持ち自然と共に生きているという。
せっかく北海道に初めて来たので、自然を味わいたいというので、
当時近かった円山原始林へ行ったらと薦めた。
よしでは、と言って夕方に出かけ夜帰って来た彼は蒼ざめて言った。
何かが違う、備前の山とは違って恐ろしかったと言う。
きっと備前の山は、乱伐や伐採でないにせよ、遠い昔から人間の手が
入っている。いわば人間化した里山のようにあるのだろう。
アイヌ語でキムは、<生活圏の一部としての山>をいい、ヌプリは
その圏外に聳える山をヌプリと言ったという。

知里真志保「地名アイヌ語小辞典」ーkim:里または沖合いに対して云う山。
・・・「爺さんが山に柴刈りに行った」などという時の「山」の観念に当る。
従ってこのkimは聳えることができない。
それがnupuri「山」との差である。

現代は、この<差>と呼ぶ界(さかい)を取り壊し、
さまざまな形で山から山を奪ってきた。
製紙工場の材料に森は乱獲され、二次林人工林となった。
天然記念物として早くから保護された円山には、その原始林が残っている。
その山中の気に触れて、かの備前焼の作家は驚いたのである。

早川禎治さんが一年かけ徹底的に検証した千メートルを超える手稲山は、
本来ヌプリであった山と思うが、近代から現代に至るまでその自然は
破壊の極にまで及んでいる。
しかしここにも二次林、人工林は生い茂り一見すると自然のようにも
見えるのである。
しかしその実体は、大規模な遊園地、スキー場、ゴルフ場によって
ほとんどが改変されている。
明治の製紙工場の乱伐に始まり、昭和の冬季五輪の会場となって
この改変は決定的なものとなる。
そして我々現代人は、kimとnupuriのふたつの「山」の界(さかい)を
ふたつとも破壊してきたのだ。
<聳える>凛とした<山>を無くし、<聳えることのない>優しい<山>
を生活圏に隷属させて今の我々の生活がある。
岩手生れのKさんが熊野の自然に驚き、備前の陶芸家が円山の原始林に
蒼ざめたものとは、この<山>の差、界(さかい)であっただろう。
鳴き声の煩いスピッツという犬の種類が、いつの間にか鳴き声の煩くない
品種に変えられたように、自然もまた改変されペット化しているのである。
大規模地下通路と原始林がこの街の売り物であるなどと、アートを標榜する
国際展を招致する条件に上げているゲージュツカもいるようだが、
ここでいう原始林もまたペット化した自然の謂である。
<聳える>事と<聳えることができない>事の<差=界>を喪った「山」を
内に抱えて、我々はいわば社会のインフラと化した自然を生きている。

このところの季節外れの寒気は、自然がそう簡単に人間化されない事を
地球が本気で告げ始めているのかも知れない。

*「交差線」4人展ー5月18日(火)-23日(日)
*梅田マサノリ展「マニノ・アル・シツナイ」ー5月25日(火)-30日(日)

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 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2010-05-14 14:00 | Comments(2)
Commented by kuma at 2010-05-15 01:43 x
watakusi ha hokkaido no hotondo no yama ha mitemo kyouzame desu

masite nouti toka sato-yama toka toka midori ga areba kore wo sizen to iu hito ga rikai dekimassen
Commented by kakiten at 2010-05-15 12:26
kumaさん>ひょつとして、kumaさんとはヒがつくkumaさん
ではnainodeshouka。


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