2010年 04月 30日
藤谷康晴さんが来て、吹き抜け壁の作品を消去する。 こうして彼の札幌発表最後の作品はこの壁で生まれ、 この壁に塗り篭められ消えた事になる。 私には心なしか、彼の顔が柔らかに見える。 終了後あまり言葉も交わさず、しばらく珈琲を飲み別れた。 音楽は、高臣大介さん愛聴の「STARTING OVER+エレフアントカシマシ」 ♪さあ~頑張ろうぜ!と声が流れていた。 ロックは珍しいね、と藤谷さんが呟いていた。 壁にペンキを塗っている間、ケンちゃんの置いていったハイローズを流していた。 何故かこの日はロックだなあと思ったのだ。 サウンドとともに、言葉に元気があるからだ。 5月21日から始る大阪A&ADギヤラリーでの個展への門出である。 4年前テンポラリーとともに始まり、この札幌を出て行く門出である。 ふたつのスタートとしてこの場があった事を、誰よりも我々は理解していた。 だから札幌最後の作品が壁に直に描かれ、永遠にこの場に塗り篭められ た事実も、無言と同じ意味があるのだ。 私は知っている限りの大阪・京都の友人・知人の住所を記し、彼に渡した。 未知の土地、未知の人たちに全力で作品を差し出すが良い。 春、旅立ちである。 濡れた地面がひたひたと音を立てる。 寒からず小雨。 朝、琴似街道を抜け円山へ。 古い街道の道幅が心地よい。 往時には馬車と人が行き交った道である。 南円山公設市場、通称なんまるに寄る。 野菜が豊富で、地物が多い。珍味もここ独自の仕入れルートが揃っている。 何を買う訳でもなく、季節を感じて一周する。 ここからさらに道は伸びて、もうひとつの市場、円山市場へと繋がるのだが、 そこはもう最近閉じてしまった。 市場を繋ぐ街道は市場を喪い、さらに寂れている。 地下鉄駅が主役となり、マダムやレデーイが集う円山クラスという名の ショピングセンターが出来ている。 Class-階級・等級。 円山classとは、多分上級階層を暗黙に示唆するのだろう。 市場がクラスになり、なにが変わったのか。 歩く道から、車の道へ。それだけは間違いない。 もし近代と現代の界(さかい)があるとしたなら、そこには間違いもなく 車の存在がある。車とは同時にガソリン・石油エネルギーの事でもある。 馬力から石油力へ。 インフラとしては進歩であり、発展なのだが、そこで喪失していくものは なんと人間的で固有性に満ちた世界であるのか。 道も物も人も、地物の土の顔をしているから。 円山村が円山クラスとなって、タワー系のマンシヨン群の街となり、 市場が消え、街道も忘れられた寂れた路地となった。 道の界(さかい)は消え、街道は朽ち、消去されてゆく。 利便性万能の量数収納ビル群が空を直線で覆い、 界(さかい)は線引きとなる。 クラスで分離されるのだ。 しかし忘れてはならない。 白く塗り篭められた見えない沈黙が、この街、道にも存在する事を。 我々ができ得る唯一の事は、その記憶を奪還する事である。 これは懐古ではない。回顧でもない。 それは見えない界(さかい)を、時間の保水力として満たす事である。 その事においてしか、産業経済軸の過剰なるインフラに対峙する軸心はない。 藤谷康晴さんの遺した白い壁に向かい、そんな事を思っていた。 *「交差線」4人展ー5月18日(火)-23日(日) *阿部守展ー6月1日(火)-13日(日) *西牧浩一展ー6月18日(金)-20日(日) *「三角写場(仮題)」3人展ー6月22日(火)-7月4日(日) *イシマルアキコ展ー7月6日(火)-11日(日) テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2010-04-30 13:57
|
Comments(2)
|
アバウト
カテゴリ
以前の記事
2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 お気に入りブログ
リンク
その他のジャンル
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||