2010年 04月 08日
藤谷さんが展示を一旦終えて帰った後、宍戸優香莉さんが来る。 明日入学式を迎える釧路のY君とここで待ち合わせという。 釧路ズイスイズの小林東さんの紹介で先月訪れて以来だ。 話に興奮すると、両手を体の前で指揮者のように振る。 昭和20年代の天才ヴァイオリニスト渡辺茂夫を紹介してくれた音楽通だ。 今年19歳、宍戸さんと同じ年齢だ。 若い人がキラッと見せる感性に教示される。 渡辺茂夫とい天才少年ヴァイオリニストの、存在すら知らなかった私には Y君の情報は貴重であった。 実は今日CDを持って来ているのです、といってY君は2枚組のCDを出した。 早速聞いてみる。 キーシンと同じように少年の身体に在る自然力が、どんどんと曲をこなして 演奏が力強く進む。 情緒に流れず、むしろドライに感じるくらい、ぐいぐいとヴァイオリンが鳴る。 寡黙にみんなじっと聞き込んでいた。 数曲を聞いてから、Y君にキーシンを聞いてみる?と聞いた。 聞いた事がないので、聞きたいという。 キーシンの最初の鍵盤打撃が、天から降る雨滴の最初の力強い澄んだ 一撃のように打ち下ろされ、演奏が始る。 Y君の体が、小刻みに揺れてくる。 私は例によって曲の合間合間に、ここは谷間の渓流、平野の緩やかな河川 、伏流水、梢の下の泉、やがて海岸近くへとか勝手に注釈する。 最終章オーケストラとピアノの嬉々とした旋律・鳴動が、河と海の合体の ように聞こえて演奏が終った。 Y君に感想を聞くと、手だけではなく全身を動かしたくなったと言った。 いつか存分に体全体を使って、ふたりで人目を気にすることなく 聞いき込んでみたいと思った。 まあ傍から見れば、マンガだろうけど。 自然と人間とか自然と社会とか対峙的に設定する近代とは、 対立概念の弊害があって、このふたつの間の回路を閉ざしたきた のではないだろうか。 キーシンや渡辺茂夫といった少年には、その間の分断・分離がない。 ふたりの楽器はこの時、このふたつの分断を繋ぐ回路そのものである。 人間の保つ内なる自然と外界とは、この楽器という回路を通して 美しく往還するのだ。 この回路そのものが、演奏という界(さかい)の保つ美しさである。 近代文明がインフラの発達・進化で喪失してきたものをリパブリックし 再生する力を、大きくは文化力というのではないのか。 生と死を究極の分断として、人間社会は多くの大なり小なりの分断を 保っている。 それは分類に始まり、区別・分別・差別の社会を生む。 このデジタルな線引き格差を如何に克服するか。 ふたりの少年の演奏はそんな思いを啓発してくれる。 音楽の世界に止まらず、普段の付き合いにおいても先回の<触れる> 3人展で8歳の結音ちゃんの示した2時間半の作品批評もまた然りである。 言ってしまえばY君との出会いもまたそうした時間の内に在る。 もっといえば、展覧会そのものもそうした時間の集約である。 作品という純粋回路から、自他の内なる自然の回路が解放される。 Exhibition(展覧会)の<Ex>とは、正にその外へ、前にという回路 のExである。 日も暮れて、仕事を終えてS君やMさんが来る。 藤谷さんの一部展示された会場で、最後に民族音楽の島々の音を聞き ながら、ポリネシアの島人たちの素朴な声と楽器の音の回路に 身体を揺らしこの日のささやかな5人の再会と出会いの時間は終った。 *藤谷康晴展「ANALOG FLIGHT SAPPORO→」 4月13日(火)-25日(日)am11時ーpm7時:月曜定休。 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2010-04-08 14:20
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