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テンポラリー通信

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2010年 04月 01日

風甘くー夢界(ゆめさかい)(28)

東京へ行く人、札幌に来る人。
4月に入ると人の動きがある。
文月悠光さんが、中原中也賞に続き、
九州の丸山豊記念現代詩賞も受賞との報がある。
すごいねえ、18歳の処女詩集。
今頃東京でどうしている事やら・・。
いい時に東京へ発った、そう思う。
ただ、札幌にいた時に書いた詩という事も忘れないでいて欲しい。
今、場は変わっても心の奥にさっぽろがある。
札幌の風土がある。そして石狩がある。
そのさっぽろがどう彼女の中で熟成していくか。
遠く離れて見えるものがある。
その時が本当の故郷であり、精神の母胎として原風景である。
世間という小さな地域社会を脱して、今大都会東京にいるのは、
それだけでも僥倖である。
このままもし札幌にいたなら、文化集(たか)りで滅茶苦茶よ。
快挙だなどといって、周囲にもみくちゃ。
北広島市在住の美術家のO氏が、港千尋氏とともにヴェネチェア
ビエンナーレに代表出品が決まった時、甲子園の高校野球優勝と
日本ハム日本シリーズ優勝と重なり、北海道三大快挙だなどと喜んでいた
美術人もいたようだが、こうした地域ナショナリズムの陥穽は、
かって太平洋戦争中に当時優れてモダニストと思われた人が、英国の戦艦
撃沈に諸手を上げて国の快挙だと喜ぶ姿と、あまり変わらないものがある。
当時その姿を目撃した詩人鮎川信夫は、それなりに尊敬していたこの
モダニストに対し、深い絶望と哀れみの目で回想していた。
コンテンポラリーアートを声高に論じていたはずの人が、小さな地域
ナシヨナリズムに酔って、北海道の誇りだなどと諸手を挙げる。
文月悠光さんもそうした渦に巻き込まれず、今は東京。
もっともっと広い場所で、本質的に札幌・石狩人であって下さい。
森鴎外が遺言で遺したように、「岩見の国の住人、森林太郎として死す」
そんな国=故郷をこれから本質的に位置付けて欲しいと願う。
つまりは世間と故郷は、必ずしも本質的に同一ではないという事だ。
世間という流動的な価値観の社会は、時に易々と故郷を捨てより大きな
相対性に組するものである。
また時に易々と、故郷を世界の中心であるかの如き心の鎖国・自己中心に
陥るものである。
この本質を喪失する陥穽に対し、心の軸心を鍛えて<石狩の国の住人>
と言い得る真の故郷をとエールを送る者だ。

岩見沢に生きる3人の展覧会もあと3日となる。
3日土曜日夜は、今村しずかさんのソロライブを予定している。
今年1月初のソロを披露し、それまでの3人グループから自立した
今村さんのここでは2度目のライブである。
彼女の声が響き、3人の<触れるー空・地・指>の視座空間は
さらにいかなる深みを湛えるか、今から楽しみだ。

*「触れるー空・地・指」3人展ー秋元さなえ・太田理美・森本めぐみー
 4月4日(日)まで。am11時ーpm7時。
*藤谷康晴展「ANALOG FLIGHT SAPPORO→」
 4月13日(火)-25日(日)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2010-04-01 12:22 | Comments(0)


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