立体切り絵のSさんとコトリさんは初めて会ったにも拘わらず、
共通の友人が偶然にいて、昼から話が弾んでいた。
そこへ歌人の山田航さんが来る。
名刺代わりにSさんが赤い海老の切り絵を切り、山田さんに渡した。
山田さんは吃驚して喜んでいた。
コトリさんとSさんが帰った後、詩人の高橋秀明さんが来る。
今日ここで会う約束のふたりである。
現代詩人の論客と、現代短歌人の論客が初めて会う。
話は最初ぎこちなく高橋さんの山田さんへの質問という感じで始った。
少し緊張ぎみの山田さんが、ぽつりぽつりと応える。
世代でいうと親子程も違うのだが、同時代の視線はその年齢差に関り無く
話は進む。
ふたりが会うことになる切っ掛けは、山田さんの新聞寄稿の文章を高橋さん
に私が見せた事から始る。
高橋さんはこれを読んですぐ、山田さんに会いたいと言い出したのだ。
今私が友人として最も信頼している硬派の詩人高橋秀明は、
今から10年程前すべての役職を捨てた後、一冊の詩集を出す。
「言葉の河」というこの詩集は、翌年先鋭な批評精神を保つ詩人に贈られる
小野十三郎賞を受賞する。
現代詩の賞の中でも、H氏賞や中原中也賞とはまた一味違う賞である。
高い批評精神を保つ硬質な詩人が受ける賞なのだ。
また現代短歌の短歌評論賞と角川短歌賞のふたつを昨年同時受賞した
山田航さんも、優れて批評力ある硬派の歌人である。
このふたりがこうして相見えるのは、なかなか心強い事である。
この出会いから、何事かが静かに船出を始める。
批評を軸として、本質的なものへの視線が同時代の視線として
手綱を取る行動が始ればいい。
最初ぎこちなかった会話も次第に滑らかになる。
世代の違いも互いの相違が、ある種の敬意に代わる。
傍にいて、そんな気がした。
高橋さんに詩集「言葉の河」を贈られて、山田さんは嬉しそうだった。
すぐには中を読まない様子に、その感謝が表れていた。
これはきっと、家に帰ってからじっくりと頁を捲るに相違ないからだ。
短歌とか詩とかジャンルの問題ではなく、美術も含めて本質的な
論を試みるべき時なのだ。
その本質論への視線なくして、表層的アートごっこはもういい。
群れたり、デザイン的衣装に走ったり、自らの際(きわ)も弁えず、
物質主義のグローバル化に流される国際化風潮に歯止めをかけ、
生きている場と時代に真正面から向き合う哲学が必要な時代である。
出品者数だけを誇示するかのような、群れた陳列展を国際展の予備軍
化するかの如き閉じた文化状況は打破されなければならない。
個の垂直軸を鍛えなおさなければならない。
かって吉本隆明が喝破した<もっと深く絶望せよ>という寸言は今も
状況として変わらないのだ。
ふたりの優れた論客の出会いが、さらなる波動へと深まる事を
私は私なりにこの場を通底して熱く地熱たらんと思う。
閉廊近く太田理美さんが来る。
展示の見直しを本気に考えてきたようだ。
地に這うみみずの配置が明日までには変化するだろう。
夜太田さんをひとりにして帰宅する。
*「空・地・指」3人展ー秋元さなえ・太田理美・森本めぐみー
3月23日(火)-4月4日(日)am11時ーpm7時:月曜定休。
*藤谷康晴展「ANALOG FLIGHT SAPPORO→」
4月13日(火)-25日(日)
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503