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2010年 03月 17日
少し体調を崩して、吐き気がした。 休廊日は一日自宅で、どぼ~ん。 日曜夜から壁のペンキ塗りで展示後の修復をしている宍戸さんの 様子を見に行く事は出来なかった。 火曜日は、帰省中のSさんとその友人Yさんと一緒に琴似川下りを 約束していた。 何とか気力を奮い起こし、待ち合わせ場所の円山北町バス乗り場に行く。 二人が揃って、お寺裏の路地から歩き出す。 気温が上がり、ぬかるむ道を健脚のふたりと共に快調に歩く。 歩くと次第に体調は回復する。 途中雰囲気ある、私の好きだったひなびた家もいつしか新しくなっていた。 この庭にはいつも福寿草の黄色い花が、春一番に咲くのだ。 路地の風景、家も様変わりして以前に歩いた時の風情はない。 やがて細い路地は、通称ロスアンゼルス通りと呼ばれる大きな道路に出る。 かって正面に消防署、洋館、幼稚園が並び、その裏はOさんという人の 馬と牛の小さな牧場があった。 真ん中に琴似川が流れ、右岸が十二軒通り、左岸が赤坂通りと呼ばれて いたという。 赤坂通りには、大きな赤坂さんという地主の家があり、同名のマンシヨン、 アパートが建っていた。そこから地主の名をとってそう呼ばれたのだろう。 十二軒通りには古びた墓石が一基あり、家名はなく南無阿弥陀仏と刻まれて いる。これは、愛馬を悼み建てられたものと聞いた。 十二軒集落があった時代の人と馬の愛情の記憶である。 さらに手前にあった洋館には、品の良い初老のご主人がいて、 隣の幼稚園児の人気者だったという。 この風景は、この地域がかって保っていた時間が、周囲のファミりーレス トランとは異なった近代の薫りとして漂っていて、好きな風景だった。 しかし今は、ブライダル産業系資本が造ったというM美術館がでんと建ち、 その裏の牧場も道となりその面影はない。 唯一馬の墓石だけが今もひっそりと、山桜の木の下に佇んでいる。 この民間美術館は海外・道外の高名な美術家を招き展示しているが、 この場処の風景が保つていた固有の時空間には無神経である。 こうした流通意識構造だけの箱もの空間は、他国産の物品を陳列する 都心のショピングビルと同じ意識構造に拠っている。 生産者の現場の視線がないからである。 先月訪ねた網走の佐々木恒雄さんに聞いた話を思い出す。 それは、年に一度必ず漁師たちが山に行って木を植えるという話だった。 漁場を守る為漁師たちが行っている、もう恒例の行事なのだという。 自らの漁場を維持し守る為に、海の内なる風景を大切にする。 この生産者の視線は、漁の乱獲、海の荒廃の経験から学んだ行為と思う。 第一次産業の漁業者のこの視線を、文化を標榜する美術館の視座に 少しも感じられないのはどういう事か。 外からの流入ばかりで、海が富養化し自生力を喪失したように 陸の風景もまた富養化し荒廃するのである。 そこ固有の風景の呼吸、風景の岸辺を、漁師が山に行き木を植えるように 取り戻さなければならない。 自らの生活の場、その海の為に山へと行く。 この本質的なコンテンポラリーの視座もなく、コンテンポラリーアートを標榜 する愚を、荒廃した琴似川宮の森風景に思うのだ。 おりしもまた、近代美術館、芸術の森美術館、彫刻美術館という三つの大箱 を使う多数の陳列展のフラヤーが届く。 相も変らぬ主語なき形容詞だけの大展示会である。 ひとつの箱に30人近くひしめき合うだけの、量数誇示のコンセプトだけが 目立つものだ。 これも流通の都市構造から一歩も出ない意識構造に依拠している。 自らが生きている場の風景との対話・交流の磁場は、箱モノの中に収納され 薄められ、陳列があるのみではないのか。 個々の作品が保つはずの磁場は相殺され、陳列・並列のパルコ式名店 パックになるだけだ。 この企画には、いわば生産者の側の磁場がないのだ。 漁師が海を再生する地場意識に劣る文化意識である。 地場が荒廃しているという認識すらないから、そうなるのである。 群れれば何とかなるという甘い意識しかそこには見えない。 12軒通り、24軒、八軒と旧集落名の痕跡の残る琴似川の道を経て、 短い川下りを終え、テンポラリーへ着く。 美味しい珈琲を飲まそうとシャッターを開けると、宍戸優香莉さんがいた。 日曜日の夜から連続して、壁の修復に努めていたようだ。 疲れきった表情をしている。 日曜から月曜日朝まで徹夜という。 この場に賭けた真っ直ぐな勢いそのままに、壁一面に直に溢れた痕跡を 一生懸命に元の白壁に修復していたのだ。 これは彼女の個展の結果の後始末である。 しかしそれは、有名無名とか年齢ではなく、場と向き合う全身全霊の個展 の結果の事なのだ。 数十人の箱陳列展などより、はるかに真摯なひとりの表現者の場の格闘 があると私はその時感じていた。 誰と群れる事もなく、ひとりで作品を通して多くの人と向き合い、多くの反応 を全身で受け止めた。 そういう場であったと思う。 その場を十全に使いきり、今3日かけて修復している。 どんなに立派な道であれ箱であれ、そこに心の風景が希薄な陳列に過ぎ ないものは、見る者はもとより、作家本人にも、ただの流通があるのみ なのだ。 十二軒通りの苔むした小さな馬の墓石の雄弁さは、何よりもその事実を 広い道路、立派な美術館に比して物語っていたと思うのだ。 宍戸優香莉さん、ご苦労様でした。 19歳全力のいい個展でした。 *「触れるー空・地・指」3人展ー3月23日(火)-4月4日(日) am11時ーpm7時:月曜定休・休廊。 *藤谷康晴展「ANALOG FLIGHT SAPPORO→」 4月13日(火)ー25日(日) テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2010-03-17 16:36
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Comments(4)
誰もが言いたくても言えない言葉を発信してらっしゃって、いつも驚きながら読ませていただいています。表現することの本質はいつも表現することを意識できているかにあるのではないかと思っています。集団的な「量数誇示のコンセプト」は人によっては表現することのきっかけを生み出すことはあっても「真摯なひとりの表現者の場の格闘」とはなかなかなりませんね。そういった事を一人一人表現者の自浄作用に任せることはもう無理なのかも知れません。私も一人の表現者としてその陰を濃くしていないかと不安になります。
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nishikawaさま>誰もが言いたくても言えない言葉・・ではないと
思います。位置がちょっと違うだけでしよう。 お馬の墓石の位置と立派な道路、建物の位置の視座の 相違です。そこに、さっぽろをどう見るかの視点が加わって います。漁師が目の前の自分の生活の海をどう見るかと 同じなのです。荒廃を感じない感受性こそがすべてです。
こんにちは!この度はありがとうございました。中森さんもお疲れさまです。また個展やりたいな~と思うのでその時はよろしくお願いします!素敵な、かけがえのない時間をありがとうございました。またお会いしましょう。
宍戸さん>コメントありがとう!次の挑戦、楽しみに待ってますね。
何十人に少しもひけを取らない立派な個展でした。 |
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