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テンポラリー通信

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2010年 03月 11日

強風吹くー夢界(ゆめさかい)(10)

アラスカ帰りの青年が不意に訪れる。
アラスカの光を表現したという版画を見せてくれる。
カヌーで川下りをしてそこで初めて電線に違和感を覚えたという。
今は市内某大学傍の川近くにテント張って生活しているという。
生れは十勝とかで、笑顔が屈託ない。
こういう人は自由気ままに生きて、自然を賛美するタイプで
今しばらくふらふらとあちこちを放浪するのだろう。
往相はあるが、還相の過程が薄い。
インドへ行ったり、チベットへ行ったり、異国を体験して
行きっ放しのまま、戻り道を見失い勝ちの人が多いのだ。
沖縄にもそんな人がいた。
北海道から来たというので聞くと、札幌中央区出身と言い、
日本画をしていて、酒場を手伝っていた。
私は彼に聞いた。中央区って何処ですか。彼は答えた。
藻岩山の方です。
それなら伏見とか旭ケ丘とか山鼻とか、もっと正確になる。
当たり前のように中央区とかいうデジタルな故郷表示に何の疑いも
持たない人間が、沖縄へ行って何を感じとる事が出来るのだろうか。
他国へ行くのはいいが、足下の故郷をしっかり見詰める眼線がない。
日本画・札幌中央区・沖縄。このアンバランスは一体何だ。

アラスカ帰りの青年が去った後、今度はやはり不意に釧路から来た
ばかりという青年が来る。
今年教育大岩見沢校に入学したと言う。
釧路の名喫茶店「ジスイズ」の小林東さんの紹介という。
初めての故郷脱出で、新しい世界への期待に目が燃えている。
音楽青年のようで、美術にも興味があるようだ。
色んな事を貪欲に吸収したい気持ちが、態度に表れていた。
その熱意に誘われるようにどんどん話すと、その度に
彼の両手が指揮者のように踊る。
これは心で話を音楽に置き換え聞いているから自然にそうなるようだ。
閉廊後一緒に食事に誘う。
幼い頃に能を見て感動したと言う。
聞いている内にあちこち跳んでいるようだが、基本は熱い音楽青年で
ムラギシを思い出した。
早速本を見せると、これは釧路のジスイズで見ていたと言い、買うという。
明日もまた来ますといって別れた。
明後日再び釧路へ帰り、4月から岩見沢で下宿生活が始る。
この束の間の札幌で真っ直ぐここに来ると狙いを定めて、訪ねて来て
くれたのは、何故なのだろうか。
そんな気持ちが何故とは分らずとも伝わる熱さが私を饒舌にした。
そして彼の音楽情報は心を躍らせるものがあった。
今度はそのCDを持って来るという。
楽しみにして待つことにする。

宍戸優香莉展もあと3日。作家と同世代の人たちも多く賑やか。
宍戸さんは、森本めぐみさんの個展時初めて来た時と比して
ずっと柔らかくなり、楽しそうである。
森本さんの個展に来て明日への勇気を貰い、
次に来た時は彼女の絵を一点買う決心をし、
さらに次に来た時にはここで個展をする決意をした。
この三段跳びを経て今この個展会場に居る訳で、
その勢いが短期間に集中する事が心の若さなのだ。
さらには個展に関りなくここを訪れる人たちと交感する機会も多くなり、
ますます心が開いていくのが分る。
<むすんで ひらいて>
このタイトルは文字通り、宍戸さんの心の在り様でもあるのだろう。


*宍戸優香莉展「むすんで ひらいて」-3月14日(日)まで。
 am11時ーpm7時

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2010-03-11 12:14 | Comments(0)


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