2010年 01月 26日
寒波来る。昨夜から冷え込む。 頭に帽子、首にマフラー巻いて出勤。 日中でもマイナス6度の予報。 この寒気の中で、ふと亡くなった斎藤紗貴子さんこと、 斎藤千穂さんの愛と修羅を思っていた。 父上の轢逃げ死に対する社会への構造的な闘い。 トラック運転者に止まらず、会社の日常的な営利追求の体質。 さらにはその事実を容認してきた監督官庁の国との闘い。 父上への愛とその後の修羅は、長期裁判という闘いで続けられた。 そして20年近く共同生活をしていた同居人との裁判沙汰。 これもまた困難な訴訟の場で闘われた。 さらには、晩年の弟さんとの母上の生活を巡る裁判と彼女の人生の 後半は、いわば最も近しい人との修羅の連続であったと思う。 そしてさらにこの修羅と軌を一にするように、この近しい人たちへの 濃い愛があったとも思える。 2008年12月と2009年10月の2度に渡ってテンポラリースペースで 開かれた彼女の個展は、携帯カメラによる写真展である。 そのタイトルは一回目が「キャノンは、ない。携帯がある。」 2回目は「ニコンは、ない。携帯がある。」だつた。 キャノンとニコンというカメラの王道に携帯というカメラの日常を対峙 するこのタイトルに今、斎藤さんの愛と修羅の生き様を見る気がする。 <何々は、ない。これがある。>と断言する読点と句読点の置き方。 キャノンやニコンというカメラの王道と今日常的な携帯カメラの対比。 この精神の在り方に、彼女の生きた全共闘世代の残り香をも感じるのだ。 これは権威に対する反権力の姿勢である。 父・夫・弟。これら最も親しく近しい人を巡る骨肉の争い。 最も愛する者、それゆえへの修羅。 この対比の激しさが、このふたつのさりげない個展のタイトルにも 反映されていると思える。 一回目の個展では、空間に紐を張り巡らしその紐に 洗濯バサミで写真を挟み、吊り下げ展示した。 二回目の個展では、風船に写真を吊り下げ宙に浮かべ展示した。 日常の泡のように作品は、ぶらぶら、ふわふわと会場に浮遊していたのだ。 しかし、会場にはその緩い構造とは正反対の牙のようなものが、 空間に漂っていた気がする。 ぶらぶら、ふわふわ、とした浪漫的な日常浮遊性とは真逆の激しい理想性 とも思える希求の精神である。 それは愛とも思えるし、高い理念とも思えるものだ。 キャノンとニコンとはその高い理念性の仮の表象に他ならないと思える。 激しく父を愛し、激しく夫を愛し、激しく弟を愛していた。 そしてそれゆえにこそ、激しく修羅の道に身を置いていたのだと思う。 純粋に愛するがゆえにからこそ、曇りある不純・濁りには鋭く対決したのだ。 あの<ぶらぶら、ふわふわ>の会場構成には、そうした牙が隠されていた。 日常をそこまで突き詰める精神(こころ)の在り様は、きっと息苦しく辛い もうひとつの濃く凄まじい日常が深く潜んでいたに違いない。 この日常に対峙する緊張感が、死の直前に着想された「天空の・・」 という大規模な舞台構想へと上昇した時、日々の苦悩から解放された 夢の世界へと彼女の心も昇天しつつあったのではないだろうか。 最初のスタッフ会議で何人かの人からその非現実性を指摘され、 その後落ち込んでいたと聞く。 私が聞いた斎藤さんの夢。 海を渡り小さな島で、愛猫と好きな人と一緒に暮らす話は、 最後叶わなかった舞台にきっとそれは夢の島のように描き、賭けていた ものだったのかも知れない。 この時激しく対峙していた日常の精神は、最後に上昇して夢の島として 非日常の天空の宙(そら)の舞台を想い描いていたのかも知れない。 そしてその時激しく生きた日常の蹉跌は綻(ほころ)んで、 自らがゆく<天空へ>の道を用意していたのかも知れないと思うのだ。 理念的現実と日常現実との軋みは、もう上昇する夢の舞台、夢の島へと その苦しみを消去してゆく。 <きっと息苦しかっただろうに・・・>と 異なる党派に属する恋人に呟いて死んだ奥恒平のように、 ある断念の後の優しい<出立>がこの時もう用意されていた。 そんな気がする。 愛と修羅の結末は、果たしてそれで、いいのか。 そう死者に問う自分が今いる。 *「大野一雄頌ーみちゆき」展ー1月27日(火)ー2月12日(金) am11時ーpm7時:月曜定休・休廊。 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2010-01-26 13:43
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