休廊日の昨日、皮膜のようなビニールのフイルターが取り除かれ、
作品が床から立上がり正面壁に飾られる。
会場3分の2以上を占めていた半透明な囲繞地が無くなり、
作品がすっくりと立っている。
画面下から上に向かって蜻蛉のように白い飛行機が無数に飛び、
中央上部に描かれた、赤いおかっぱの少女が両手に保つ暗藍色の
舟は、地平線あるいは水平線のようである。
下に重なるように描かれた真っ赤な芥子のような花と、上部に浮かぶ赤い
少女との間を横一文字に仕切るこの暗藍の舟のようなものは、
実は認知の浮世、認識の世間の現実そのものでもあるのだろうか。
製作中奈落の底を見下ろすように作品を見ていた時に、舟のように見えた
ものは、こうして壁に立上げると、これはもう舟ではなく、水平線もしくは
地平線そのものを持ち上げ溶解している燦光の刻そのもののように見える。
地と宙を分つ境界の溶暗する地平線もしくは水平線。
その界(さかい)を解き放ち、溶解する太陽の光の力。
女性がかって太陽であった時のような、原初的でプリミテイブな曙光が宿って
いるかのようである。
休廊日の前夜、今村しずかさんのギターと唄のソロライブは、まだ皮膜のよう
なビニールの覆いの残されたままの会場で行われた。
聴衆は吹き抜け上部の回廊に腰を下ろし、作品を眼下に見ながら、同じく
吹き抜けの一角で演奏する今村さんを聞いたのだ。
今思うとあれはまるで、天の岩戸の前の祝祭でもあったかのように思える。
その今村さんとライブを企画した有山さんが演奏機材の搬出にちょうど見え、
展示を手伝ってくれる。
そして展示を終えた後、作品の前でしばし見惚れているふたりがいた。
この前で飲むしかないなあ、と有山さんが呟いた。
そして正月頂いた日本酒を作品前で飲む。
ああ、やっとこの場所にも新年が来た。
年を跨いで奈落の底を蠢くように繭の皮膜の中で制作していた囲繞地が解け、
今作品は輝いている。
今朝は晴れ、陽光の中で新鮮な時が過ぎている。
*森本めぐみ展「くものお」-1月17日(日)まで。am11時ーpm7時
:作品完成で13日から今週日曜まで期間延長致します。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503