2010年 01月 05日
朝ふっと、甦った光景がある。 見知らぬ街を歩いている自分である。 それは取り残してきた自分を取り戻す為 ある人の家を探している遠い自分なのだ。 相手はもう私から遠くへ旅立とうとしていた。 それを阻止し、自分自身を取り戻さねばならない。 未知の街を探し歩くかっての自分の姿が 俯瞰するようにして甦った時、なにかがストンと見えた気がした。 何も変わっていない。そう、あれから今もきっとそうして歩いている。 そんな気がしたのだ。 正月3日。新琴似の賀村さん宅へ新年会に行く。 麻生駅で中川潤さんと待ち合わせ。 向かう地下鉄の中は比較的空いていて、ケイタイ片手に若い女性が 画面チェックに余念がない。 そのうちふっと顔をあげ、知り合いの顔を見つけ声をあげた。 ”アケオメ!”そして”コトヨロ!”。 何年か前に聞いた事がある省略コトバである。 ケイタイと地下鉄の風景に相応しい。 賀村さん宅へは3年ぶりだろうか。 円山北町退去の際、多くの荷物をこ自宅に預かってくれた人である。 そしてその荷物を運んでくれたのが中川さんだ。 このふたりは恩人であり、終生の友人である。 3人で会うのも久し振りで、奥さまの手作りの料理をぱくつきながら話が弾む。 昨年暮の目黒美術館「”文化”資源としての<炭鉱>」展の話がきっかけで、 賀村さんが新琴似の泥炭の話をした。 この辺は泥炭地でよく地中から泥炭を掘り、燃料にしたという。 掘った後の穴に水が溜まり危険だったと話す。 私にはそんな記憶はない。石炭といえば、槐の石炭だったからだ。 さらに賀村さんが続けて言う。 俺には札幌といえば、新琴似だ。他の札幌はない。 唐牛さんが話していた月寒の草原といい、今は札幌と一言で言うけれど それぞれの固有の記憶の札幌があるのだとあらためて思う。 私には草原も泥炭の記憶もない。あるのは時計台の鐘の音が響く札幌 である。二条市場生まれの中川さんとは4,5町位しか離れていないけれど もその記憶には相違がある。 場所場所の固有の生きてきた記憶。 その記憶の保水力はそれぞれの色が違うのだ。 泥炭と槐炭のように蓄積された記憶の地層の相違がる。 地下鉄の中で交わされていた省略流行コトバ。 このもう前に流行っていたなと感じられるような、保水力の薄いコトバと 対極にあるように賀村さんの話を聞いていたのだ。 正月4日目。 網走から佐々木恒雄さんが来る。 昨年漁師の家業を継ぎ、ひとシーズン漁に明け暮れた。 明るい表情でその経験を語る。 昨年1月沖縄へ移住したチQさんとふたり展をし、ふたりは南と北へと 別れた。今チQさんも一時札幌に帰郷しているから、今夜会うという。 数時間ここで話しているともう、先週彼の個展を終えたばかりで今、こうして ここにいるような気になる。 ふたりで顔を見合わせ、そうと話した。 1年間は消え、繋がる時間がある。 この時間は新旧で消え去る忙しい時間とは違うものだ。 途切れぬ流れのように連続する時間である。 確実に時は過ぎているのだが、俯瞰するようにゆったりと流れる連続 がある。 与件は変化はする、しかし変わっていないものもある。 正月朝に見た明け方の記憶の風景。 見知らぬ街を歩く人。 その人を宙から見ていた自分はどちらも自分である。 東京、札幌、円山北町、北大斜め通りと、 自分を取り戻す歩行は、今も変わらない。 *森本めぐみ展「くものお」-1月13日(水)まで。am11時ーpm7時。 月曜定休。 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2010-01-05 13:00
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