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2009年 10月 28日
何時の頃だったろうか、小さい時の記憶に母の髪がある。 近くのパーマ屋さんで、髪を染めパーマをかけて帰って来た母がいた。 その髪を見て、父と祖父が文句を言ったのだ。 母は少し涙ぐみながら、みんな似合うといってくれたのに・・と元の黒髪に 直しに行った記憶である。 明治時代創業で老舗だった店の女房には似合わないというのが、その時の 父や祖父の感覚だったと思う。 その後父も祖父も亡くなり、札幌は市街地再開発の大波で変わる。 その頃母は、月に一度は洋服を仕立て、女実業家として活き活きとしていた。 住い兼用の古い店舗は取り壊され、大きなテナントビルとなり、道外の有名 テナントの社長さんとの付き合いも多くなっていったからだろう、服装も髪も おおぴらに外目を意識して変わっていったのだ。 中島公園近くで生まれた印鑑屋さんのSくんが、言っていた事がある。 遊園地や野球場のあった頃の中島公園は、大きなコンサートホールや 道立近代文学館が出来てから変わった。 何かよそよそしい場所になったと。 キタラは確かに最新の音響設備を整え、コンサートホールとして立派な施設 である。しかし公園としては、外目を意識した気取ったお高い敷居の象徴とも なったのである。 内から滲み出る固有のものではなく、外目を意識した要因からできる街。 それは多分札幌だけではなく、大なり小なり日本の都市各地で起きている 風景であるだろう。 母のあの髪形の変貌も、きっとその時代の前兆であったのだろうか。 しかしそれを抑止する父や祖父の札幌もまた喪われていったのだ。 黒澤明の映画「白痴」には、そうなる以前の近代札幌が映像として残されている。 中島公園の池は、冬スケートリンク場として市民が滑り、夜祭りとしてスケート で滑る仮装カーニバルの様子も映っている。 夏の夜は公園内で外にスクリーンを張り、臨時映画館にもなったという。 スクリーン裏の映像を見て子供たちが喜んで遊んだとも聞いた。 今は廃校になったあけぼの小学校を始め、この地域には多くの小学校があり ススキノを控えて独特の街の空気があった下町である。 人口はその頃の4倍以上にもなったが、この地域は今人がいない。 いわゆるドーナツ化現象である。 人が増え街が沈む。真中は空虚となる。夕張とは対極の空白である。 その空白は立派だけれど、そこ固有の味はない。 大向うを意識した外目の味である。美食だけれど、飽きる美味しさなのだ。 家庭内で食べるレストランの味だ。 今は外食が家庭の味を売り物にして、内食が外食化している。 母には母の固有の人生があって、子供の目線だけで母の人生を見るのが 勿論すべてではない。 しかし私に母の髪の記憶は、札幌の今に繋がるパーマだったような気がして 想い出すのである。 パーマの小さな諍いの後、料理教室に通った母の料理は、それまで見た事 のないものだったのをふっと思い出すのである。 その最初の印象だけが鮮明である。それを味として覚えている訳ではない。 覚えているお袋の味は、違うものだ。 ストーブの上で焼いたニシン漬のニシンの味だ。 懐古で閉じる訳ではない。 時間の保つ保水力が、風景を創り、味を創り、街を創り、 記憶を創ることを思うのだ。 土地地域の保つ固有の内的要素の熟成する長いスパンを捨て、 外的要因で短時間に構成されてきた現代を思うのだ。 *斎藤紗貴子展「明日への自由」-10月27日(火)-11月1日(日) am11時ーpm7時 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2009-10-28 13:21
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