酒井博史さんの移転地、西区24軒のお店に行く。
今日が開店ということだったが、まだまだ片付いてはいない。
クレーン車で運んだという活字印刷機械、鉛の活字がとにかく納まって
これから細い片づけがある。
最初にお母さまが明るいお顔で迎えてくれ、ぽつりと”引越ししてよかったわ”
と呟いたのが印象的だった。
南西向きの角地で、陽射しが暖かく明るい。
2階は住居で、こちらもまだ引越しが済んではいないが、
職住一体で無駄がない。2万位違うという。
地下鉄駅にも近いのだが、この地域はエアーポケットのような処だ。
道幅も車社会の道幅ではなく、床屋、美容室、クリーニング店、寿司屋と
生活の匂いがある。
何よりも西を見ると正面に三角山が見えるのがいい。
古い道の証拠である。
24軒という地名もそうだが、集落のプリミテイブな薫りが漂う。
判子と活字屋さんという生活スタイルが、この街角にはすんなりと収まるのだ。
向かいの空き地に10階建てマンシヨンが建つらしいが、ベースにこの雰囲気
がある限り、非等身大の街とは充分戦える事だろう。
逆に酒井博史の生き様がこれからより先鋭に問われる事なのだ。
近くの懐かしいような喫茶店で珈琲と軽い昼食をとり、明るい表情の酒井さんと
別れ、時計台ビルで最終日になる故村岸令子さんの作品を見に行く。
市庁舎に近く時計台の観光客で賑わうこの界隈に着くと、時間の流れが違う。
人も建物も直線的に動いている。時間の幅もそうである。
賑わっているのだが、滞留する岸辺がない。
菫の花のような村岸令子さんの作品は、花壇の中のように思え、
落ち着かなかった。
あの街は流通の場である。死者もまた、流通の一環、一部のものでしかない。
休日の一日、この他にも動き回ったが、場所によって歩行のリズムが違い、
疲れたなあ。
空が狭く、直線に切り取られ、人も建物も道も指示性に強制されている。
目的を曖昧にたゆたう事は、許されない遮断性がある。
街を少し抜け植物園のある界隈に近付くと、急に空が広がり時間が
緩やかに回復する。
視界の周囲に被さっていた直線の圧力が消えたからだ。
見知った人には誰も会わず、風景だけと対話していた所為だろうか、
バイクを停めて声をかけてきた知人にも、上の空の自分がいた。
街に行く時はやはり、背広で身を固めた方がいいな。
*エレガントピープルJAZZライブー9月19日(土)午後6時~
:仲西浩之(as)小板橋智(g)絹川信二(b)有山睦(d)
*藤倉翼写真展ー9月22日(火)-10月4日(日)
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503