2009年 08月 08日
明日の沖縄行きを断念する。 体調が今ひとつという事と、お盆で坊さんが来たり、時間がぎりぎりに なって余裕がなくなったからだ。 昨夜豊平ヨシオさんに電話。那覇空港で待ち合わせの東京のOくんにメール。 コザのチQさんに電話。初めて会う予定だったサトマンさんにメール。 それぞれからまずは体調整えてと、優しいお言葉を頂く。 とりわけOくんとは、2月沖縄で会い、今回再び豊平さんの作品の前で 再会を楽しみにしていただけに、申し訳ない気持ちが大である。 ・・ムリして沖縄でお会いする方がよほどつまらなかったでしょう。 妙な言い回しで恐縮ですが、この度の判断、ご連絡に敬意を表します。 ・・赴くのが私ひとりですが・・私として心持は変わりません。 ・・・・・ 半年前あなたが私と豊平さん、私の素顔と沖縄の素顔を繋いで下さったように 今度は私が中森さんの夢を繋ぐお手伝いをしたいと思います。 Oくんのメールはどこまでも素直で心優しいものだった。 2月の澄んだ沖縄の青い空と海。その青に潜む無名の多くの哀しみ。 豊平さんのひたすらな百余点の亀裂を有する作品群は、豊平さんの個と しての垂直な一点であり、その個としての哀が、心の深部においてOくんの 哀を撃ったのである。 ヒロシマに先立つ沖縄戦の悲劇という歴史的形容を超えて、ひとりの心の 垂直な立抗が触れた無名の海原。 その優れて無名な普遍性の内に、Oくんと私、豊平さんとの邂逅があった。 <私>というささやかな状況が、作品として結晶された時、<私>は個として 自立し、ある共同体、真の公共として響きあうことがある。 それぞれ私的には、生まれも育ちも年齢もすべてにおいて接点なく、 分類され得る人間が、何故こうも切ないまでに響きあえ得るのか。 それは、作家が表現した<哀>という坑口、その結晶の一点である。 いつか「白地」に「青」を浮かべて「眺め」たいですね ・・・くれぐれもご自愛ください。 札幌での再会を思わせてOくんのメールは終っていた。 そういえば、偶然同じ姓をもつO氏が先日の「被爆墓石」の 新聞記事に顔を出していた。 ー広島で30年近く被爆石の凸凹を写し取る「フロッタージュ」技法で作品を 作り続けてきた北広島市在住のOさんは・・・ と紹介されているが、このさり気ない住いの記述に皮肉な<ヒロシマ>を、 私は感じていたのだ。 侵略戦争の近代日本の原点ともいえるのが、北海道という場の位置である。 先住者を旧土人とよび法律的にも差別していたのはごく最近まであった事実 である。その開拓という名で札幌を中心にアイヌモシリ(人間の静かな大地) を侵略した事実を、端的に示すものが地名でもある。 アメリカ大陸でも同様だが、ニューイングランド、ニュージャージイと欧州の 移住者の出身地を表意する地名がその証である。 <ヒロシマ>というヒバクシャを象徴する地名の以前に、この<北広島>という 地名が示すものは、移住した出身地名を表わしている。 ある時代まで、本州を内地といい、満州や北海道は外地であった。 ここは紛れもなく近代に於ける<外地>開拓という美名の侵略地でも あったのである。その歴史的事実を象徴するノースヒロシマという地に住む 人間が<ヒロシマ>で被爆した墓石を前に地域で活用法を考えたいと話す 矛盾・皮肉・皮相をなんとも言えない気持ちで読んでいたのである。 極めて私的な夫婦墓石という存在を、極めて公的なものとして扱うその <私>から<公>への痛ましい径庭をこそ、作家は個として感受し表現す べきではないのか。 私がはじめて訪れた沖縄で感じたものは、戦争の悲惨を伝える日常を 公的に語ることではなく、私的にその抗口を深め、個として開く真の公的とも いえるある普遍性の存在である。 悲惨の遺物を公的に転がす事と、真の公的普遍は似て非なるものである。 2月沖縄本島南部地区を案内してくれた豊平さんは、さまざまな悲惨の歴史 の場に何も言葉を発しなかった。 ただ遠くにあるある崖が見えたとき、ぽつりと言っただけだった。 あそこからたくさん人が身を投げて・・。 きっとあそこは、戦争の死者の記憶が到る所に潜んでいるのだ。 墓石すらない無名の死者の記憶がである。 死が日常に無名のままにある。 そこでは悲惨な死は、今だ閉じた私の内にこそ多くある。 *テンポラリースペースアーカイブス展ー9日(日)までに延長。 am11時ーpm7時 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2009-08-08 13:36
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