ペンキ塗り完成。打ち上げで飲む。
お父さんとの仕事の差を岡和田さんが話す。
2時間かかるところ、父だと300秒という。
うん?300秒・・。あっ5分か。
何故秒数でいうのか分からないが、速さの比較は分かる。
技術の差だよねと応える。
その後暫らくして、来年暮個展をやらせて欲しいと言う。
勿論いいよ、楽しみにしているさ。
そして、この後帯広を出て、札幌で暮らしたいと言う。
しばし考えてから、300秒の手仕事の話をした。
せっかくお父さんの技術を学んでいるのだから、もう父さんと思わず、
仕事の先輩として、もっと教えてもらったらと言った。
若い頃家の事情で、したいことを諦め、今の仕事をひたすら続けてきたお父さん
の心は、息子がしたいことをするのを黙って今まで許してくれたという。
東京、尾道、四国と放浪した20代の終わりに、実家のある帯広へ帰り、父の
仕事を手伝っている時間は、今貴重ではないのか。
うつつ(現)とお金(実)の間で生きるのが人間だけれども、
今は(実)に徹する時ではないのか。
今まではうつつ(現)の方を彷徨ってきたけれど、今度は生活(実)の方から、
うつつ(現)を立ち上げた方がいいと思う。
ペンキ職人の技をアートとすれば、そこからフアインアートを立ち上げる時と思う。
そう応えた。来年末の個展を、父親にも納得させて開いて欲しい。
今回の岡和田さんは、ペンキ職人としての個展のようなものだった。
そこで感じた技術の相違・差に大きな収獲があって、300秒の父親に負けず、
腕を磨き、その上であなたのファインな部分を、個展としてして欲しい。
生活と分離して表現を考えて欲しくない。
お父さんの胸に秘めた想いを無駄にしてはならない。
表に出ない内に秘めた無名の、その大切な部分を忘れてはならない。
そう応えた。300秒が、10000秒だろうといいではないか。
生活条件としての<実>と、想いとして<現>を併せ保ってこそ、優れて<現実>
ではないのか。片方に寄り過ぎると、現実(リアル)という磁場は薄くなる。
本当のリアルとは、うつう(現)と生活条件(実)の間の磁場から生まれる。
映像もそこを抜きに、真にいいものは顕われない。
昨夜の焼き鳥屋での会話である。
今日、休廊日だが出勤。テンポラリーアーカイブス展示。
会場は見事に綺麗な白い壁となっている。
釘を打つのが勿体無い気もする。
3年前みんなで壁を塗った事を思い出す。
しかし3年前と違うのは、ひとりの半プロが今回すべて塗ったという事実である。
塗りのムラは無く、ひと刷け、ひと刷け、真っ直ぐな塗りなのだ。
昨夜の話を思い出していた。
岡和田直人さんがきっとこの壁のように、人生をひと刷け、ひと刷け真っ直ぐに
塗り込め、いつの日か美しい映像を見せてくれる事を、心から待っている。
*テンポラリーアーカイブス展ー7月22日(火)-8月7日(金)
am11時ーpm7時:月曜休廊
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503