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テンポラリー通信

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2009年 07月 08日

夕張メロンと漬物ー朱夏(9)

かりんさんたちと知り合うきっかけをつくってくれた
沼田康弘さんのご両親が、夕張から訪ねてくれる。
お土産に夕張メロンとお漬物、スイカを頂いた。
昼食にお握りを買ってきて、漬物を食べる。美味い!
かって「風の旅団」というテント公演の過激な演劇集団にいた沼田康弘さんは、
夕張出身で、’80年代末に知り合った。
その頃私は夕張の炭坑廃墟に惹かれ、何度も真谷地を訪れ、壮大な廃墟の中
を歩き回り、巨大な建物の最上階にあるコンピュータールームで拾った廃棄物
をそっと保管したりしていた。その中の一部書類を沼田さんに見せたところ、
夕張出身の彼は、眼を輝かせ、これは親爺の会社の書類だと叫んだのだ。
今回ご両親の訪問で、初めてその資料をお父さんにお眼にかけた。
事務所に捨てられていた古い最盛時の写真である。
これ、誰それでない?とお母さんが呟く。
うん、うん、と遠い記憶を確かめるようにお父さんが頷いている。
随分と時を経て、この古い資料が、見るべき人の眼にやっと触れたことになる。
時間を過去に分別(ブンベツ)し廃棄して、ピカピカに埋め込んでいく
札幌という街に比べ、その頃夕張は廃墟は廃墟のままに、
優しい時を積み重ねて存在したのだ。
その時間に惹かれていた当時の私は、今こうしてかりんさんの個展の縁で、また
遠い夕張の記憶と向き合う事ができた。
一昨年のPsalm公演以来、沼田さんのご両親は、かりんさんのフアンなのであ
る。今回もテンポラリー個展の後、夕張の山の家で14日にライブがある。
今は第一線を退いて、夫婦でこうして好きな人の所を訪ねて来るふたりを見てい
ると、それぞれが一体となって、人間という本質的存在に近付いていることが
よく感受される。
男と女というそれぞれの個別的存在が、相互に不足なものを補い合って、同じ
興味、同じ志をもってひとつの眼差しを保つようになる。
男として、女として生まれた現象が、ともに生きる過程で人生という実体を獲得し
より本質的な人間的存在になっていく。
いそいそと、14日のかりんライブを楽しみにしているふたりを見ていると、
そんな感慨めいたものが浮かんでくるのだった。
現在とういう一点で、過去へと分別(ブンベツ)される時間ではなく、
蓄積され保水力を保った過去という時間を思うのだ。
ブンベツされ廃棄される今に未来は、補給するものとしてしかやってこない。
ミヒャエル・エンデの「モモ」に出てくる時間貯蓄銀行では、
未来という命の時間は残高不足になる運命にある。
夕張・お漬物・メロンそしてふたりの夫婦。
いい時間が溜まっているなあ。
かりん展初日、最も印象に残った時間だ。

*中川かりん展「かりん」-7月7日(火)-12日(日)am11時ーpm7時
 12日(日)かりん最終日25絃筝ライブー午後6時~入場料1500円

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2009-07-08 12:03 | Comments(0)


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