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テンポラリー通信

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2009年 06月 08日

歌う時間ー風のRondo(6)

石を彫る刀をギターに持ち替えて、昨夕酒井博史さんの弾き語りライブ。
印鑑造りを終えて疲れもあったのだろうが、力みが声にある。
溜まっているものもあるのだろう、声が解き放たれて唄に乗っていない気がした。
お店の事を考えれば、無理からぬ状況ではあるが、唄と生活の対極する軸を
相互に馴染ませてはいけない。唄う時、もっと生活の力みを抜かなくては。

お昼に酒井さんの母上が来た。小柄な品のいい方である。
息子の仕事を気遣って来たのだろう、目立たず隅にひっそりと居た。
ふっと思い立って、荒木一郎の深夜放送のコピー「空に星があるように」を
流した。リスナーの投稿を読み、自分の歌を唄う古いラジオ番組である。
森永乳業の提供でそのコマーシヤルのアナウンスも懐かしい。
お姉さんの声で、ドラマ仕立てのメッセージが入る。
当時のラジオ番組をカセットテープに採録して発売されたものである。
するとお母さんが奥に入ってきてじっと聞き出した。結婚前の留萌にいた頃だ
と言う。次に井上陽水の「もどり道」を聞かせた。
まだ今のように売れる前の最初のライブ録音である。
この中に「人生が二度あれば」という曲と「帰郷」という曲が続けて入っている。
九州で歯科医だつた陽水のお父さんが、晩年四国高知の故郷へ帰り、
その3日後に急死した事を思い出して語り、唄うのだ。
歯医者を継がなかった自分の曲で生前唯一父が誉めてくれた曲だと話し、
唄うのだ。父と母を思う陽水の気持ちが素直に出た名曲である。
またその後に続く「帰郷」は副題(危篤電報を受け取って)にあるように、
父の故郷へ向かう際に作られたと思われる静かな鎮魂の曲である。
このふたつはちょうど長歌と短歌のようにあって、陽水の語りとともに絶品である。
私の知っている範囲では、このふたつが連続して収録されているのは、これだけ
である。年老いた父と母を思い切々と歌い上げ、故里の風景を唄うこの2曲を
お母さんに聞かせたかったのだ。
終って、いい時間をありがとうと言葉少なくお礼を述べられた。
この時心なしか眼が潤んでいたように、私には感じられた。
唄という直接性は時に、ふっとリアルにある時代を蘇えらす。
結婚し、ご主人を亡くし、博史さんを育て守り、生きてきた時間が、唄の力で
まざまざと今の気持ちのように波打つ。
その事が、現実的にどうだという問題ではない。
しかし、心の奥底で何かが動き、励ます。生きてきた軸心に触れる。
唄は、音楽はそれでいい。何も強制するものでも、方策となるものでもない。
現象の奥に在る軸心に触れる見えない実体なのである。
日常現象に流されていく日々の現実を、一瞬凝縮し、生きているこの荒野に
泉のように湧き出す何かなのだ。
佐々木恒雄さんが残してくれたテープデッキのおかげで、古いカセットテープが
再生され、少しだけ酒井家の遠い記憶に触れたような気がした。

*チQ沖縄からのポストカード展「まちぐゎ 69」ー6月9日(火)-21日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休・休廊
*中嶋幸治展「エンヴェロープの風の鱗」-6月23日(火)-7月5日(日)
*及川恒平フォークライブ「TASOGARE」-6月28日(日)午後6時半~
 入場料3000円・予約2500円

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2009-06-08 12:47 | Comments(0)


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