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テンポラリー通信

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2009年 04月 24日

箱として閉じ、函として開くー歩行の縦軸(21)

S役所のKさんが来る。
今文化財課にいる彼は、今年時計台の敷地に植えたキバナノアマナ、クロユリ、
エンレイソウが芽吹いたと嬉しそうに話す。
その話を聞いていて思い出す事があった。
北一条円山にあった鬼窪邸の庭である。
田上義也の近代名建築のひとつだったが、取り壊された後更地になっていた。
ブルトーザーで綺麗に整地された後、不動産屋が倒産してそのままになっていた。
半年も経った秋の日、その前を通った私は眼を瞠った。
剥き出しの赤土がいつの間にか草木で覆われ、花々が見えたからである。
中に入ると、もうそこは美しいお花畑だった。
1929年建築の建物が消えた後、その覆いが取れて土中の種たちがのびのび
と陽光を浴び花開いていたのだ。
この事は何度か、幻のオニクボ野として書いた事もある。
今はもうあの洋館も幻のお花畑も、タワーマンシヨンへと姿を変え、何も無い。
時計台もまた近代を代表する札幌の名建築物である。
この建物の周囲には、今は南の中島公園に移築された豊平館がかって在って、
もっと豊かな広さがあり、時計台の高さが映えたのである。
しかし周囲が開発されて、時計台だけがぽつりと残り、日本三大がっかり名所の
ひとつとなっている。
その時計台を一番最初に視界から埋め立てたのは、現札幌市役所の高層ビルで
ある。当時小樽運河の埋め立てが議論されていたが、札幌は別の視角でこの歴
史的建物の周囲を埋め立てていたのだ。
器(うつわ)というハコモノを優先した時代である。
空間がハコモノに埋められていく風景は、今も変わらない。
土というハコは、たくさんの要素を含み抱きしめている。
そのハコは条件が整えば、鬼窪邸の庭のように一斉に溢れ出す。
閉じない函である。
人間は多くのハコを造るが、それは閉じる箱である事の方が多いのだ。
箱というボックスは閉じ、函というトランスは開く。
役所のKさんが、もう記念碑的な箱となっている時計台の周りに本来自生種で
あったクロユリやエンレイソウを植え、その花で時計台の周りで埋めようとしてい
る事は、ハコモノから場を函への転換として考えているようで嬉しかった。
時計台の周囲を元の通り広々とした空間に戻す事は至難である。
それは不可能に近い。しかし僅かな土地とはいえ、その周辺に土の函を甦らせ、
キバナノアマナやエンレイソウ、クロユリが咲き乱れれば、それは小さな再生なの
だ。箱から函へ。それは、時計台を見下ろすビル群のなかの小さな再生の函とし
て凛とした存在を示唆することになるだろう。
ビルという箱のなかにさらに箱を作る、アートボックスなどというふやけた文化装置
などより余程ましな、ラデイカルな函と思うのだ。

*熊谷榧展「北の山と人」-4月21日(火)-5月3日(日)am11時ーpm7時
 月曜定休・休廊
  
 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2009-04-24 14:29 | Comments(0)


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