2009年 04月 22日
久し振りに熊谷榧(かや)さんの絵と文章を見ていると、 もうひとつの’80年代が甦る。 川俣正のテトラハウスプロジェクト’83、界川游行’89に至る私のさっぽろ歩行 の記憶である。 ’83年から9年間毎年熊谷榧展を開き、一緒に何回か冬山へ登った。 その度に未知の冬山が新鮮に開き、知らないさっぽろの冬を知った。 夏山は多少歩いていたが、山スキーによる冬山は初めて知る世界だった。 この夏冬の歩行が、私の体にさっぽろ、イシカリを刷り込んだのだと思う。 歩く事で知る世界がある。 個展の展示もそこそこにみんなを巻き込み、絵の取材も兼ねて榧台風と呼ばれ 山へと向かった。売れないギヤラリーと悪口をいいながらも、ここで知り合った多 くの人を彼女は大切にし、愛していたのだ。 その事が後に出版された「北海道の山を滑る」を読むとよく分かる。 私にとって榧さんは、さっぽろの冬を新鮮に切り開いてくれた恩人かも知れない。 街ッ子の自分はゲレンデスキーは出来ても、山スキーによる冬の自然世界は初 めての経験だったからだ。 半年冬のさっぽろで、都会にいては分からない体験なのだ。 奥手稲山の夜の8時間、無意根山のひとり彷徨、慣れてからの近郊低山歩き どれもが山スキーの習得のおかげである。 この時体で記憶したさっぽろが、’89界川游行のアートイヴェントや石狩河口の 大野一雄公演へと結びつく下支えになったと思う。 身体としてのさっぽろを感じていたからである。 区画され分類された札幌ではなく、有機的な身体としてのさっぽろを奪取する契 機に榧さんとの冬体験があったのである。 夏・秋・春を一括して、古アイヌの人たちは夏の年(sakーpa)と呼んだ。 残りの冬の年(mata-pa)を未知のまま、都会の構造の内に閉じ篭っていた私 を冬の年の真っ只中に誘ってくれたのが榧さんである。 本人はそんな事に関係なく北海道の冬山を画家として取材し、楽しんでいただけ かも知れないが、私にとっては画期的な事だったのだ。 熊谷榧さんの登場が無ければ、この後親友となり、様々な人生上仕事上の協力 者である中川潤さんとの出会いも無かった。 当時北海道を代表する優れた登山家であった中川さんが、「山と渓谷」誌等連載 し有名であった熊谷榧さんの個展を訪ねて来たのが我々の出会いだった。 都会っ子の私はいかにも山屋然とした中川さんに最初は反発を感じた。 相手も同じだったと思う。それが違うのに気が合ったのは、共に冬山へ榧さんと 出掛けたからである。その時の一枚が50号の油彩「奥テイネの登りで」に描かれ ている。後に’94年12月に白山書房から出版された「北海道の山を滑る」では、 <魔の大滑降>に分類されて、四つの難業登行の冒頭に収録されている。 行動を冬山で共にすることで、身体が理解したのだ。生まれや生き方の相違を超 えた何かがその際生まれたのだ。きっと同じ方向を見ていたからである。 従ってその後の見えない川界川を繋ぐアートイヴェントや大野一雄の石狩河口公 演、吉増剛造石狩シーツ等のテンポラリースペースの大きな仕事も共に協力しあ うこととなる。 熊谷榧さんと歩いた冬の年は、私にとって貴重な経験となった。 この冬の年の経験なくして、さっぽろ発の私もまたないのである。 *熊谷榧展「北の山と人」-4月21日(火)-5月3日(日)am11時ーpm7時 月曜定休・休廊 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2009-04-22 12:43
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