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テンポラリー通信

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2009年 03月 13日

訪ねるー弥生・三月(11)

久し振りに古いお客さんを訪ねる。お嬢さんの弔問も兼ねていた。
父の代よりのお客さんで。草月流の先生だ。御歳88歳。
昨年東京の草月ホールで個展をしている。鉄×硝子×花。
ご主人は農業試験場の技師で、南米パラグアイの荒地を肥沃な大地に変えた人
である。パラグアイで先生は、ご主人とは別に南米各地に生け花を普及させる。
帰国後数年して再びパラグアイを訪れ、赤土の荒地が緑の農地になったのを
ふたりで見に行ったという。その後間もなくご主人は亡くなり、去年娘さんにも先立
たれ今はひとりでいるのだ。戦後まもなく雑誌で見た勅使河原蒼風さんの花に憧
れ上京を重ねたという。乳飲児を預けニ日がかりの汽車で東京へ通った。
長男のSさんは、A高校開校以来の秀才で現役で東大理論物理に入学。
しかし、当時の東大安田講堂占拠の学生運動の波に翻弄され、体調を崩し早逝
する。もう一人の娘さんも昨年亡くし、今は家族もなくたったひとりである。
しかし、花を通した表現意欲は少しも衰えず、昨年11月東京個展を開く。
イサム・ノグチの石庭のある草月ホールは、先生の半世紀以上に及ぶ創作花器、
作品で見事に埋まった。お嬢さんの弔問を終えた後、昨年個展時の写真を見せて
頂く。花ひとすじの先生の行き方は、もう何流とかいうことを超えて、先生の花であ
る。鉄を素材に自由に形を創り、花を活ける。ガラスのデザインも自分で指定し創
る。その三つの素材が奔放に自由に集大成されて、若々しいのだ。
誰もいなくなって私だけになったわと、言いつつもその花表現にかける情熱は少し
も衰えてはいないのだ。
遠い昔大学を出たばかりの私を、家業の世界に誘ったのはこの人でもある。
今自分もまた誰もいなくなり、ひとりしたいことをしている訳だが、こうしてあらためて
そのスタートの人に会うと、ふたりとも同じように結局はもう一度スタートラインに立
って居るかの如く感じられるのだった。
いそいそと手造り料理を並べてくれる先生と、今はもう店とお客さんの立場を離れ
亡くなったお嬢さんや息子さんそしてご主人の話とともに、それぞれの今の自分を
熱く話し合う時間が続いたのだ。
英会話はペラペラ、南米だけでなく世界各国を股にかけ、花表現ひとすじに生きた
飛んでる女性の元祖のひとりともいえる先生の話と、私の拙い話は妙にウマが合
っていた。そして私の父や祖父の時代、先生の実家や嫁ぎ先にかってのさっぽろ
が活き活きと甦るのである。四プラ、パルコ、ピヴォの界隈である。
親しかった死者のおかげで、熱い今と遠い昔が交錯する時間が過ぎた。

*佐々木恒雄展「本日ノ庭」-3月15日(日)まで。am11時ーpm7時。
  :14日(土)は作家結婚式で臨時休廊。
*小林由佳展「ソノサキニシルコト。」-3月17日(火)-27日(金)
*及川恒平フォークライブ「はざまの街にて」-3月29日(日)午後3時~
 入場料3000円・予約2500円

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503     

by kakiten | 2009-03-13 13:19 | Comments(0)


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