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テンポラリー通信

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2009年 03月 08日

見切るー弥生・三月(7)

対照的なふたりだった。ひとりはただ黙ってひとつの絵の前に立っていた。
言葉もなかった。その後姿には純粋に絵に魅入っている全身の表情があった。
折をみて声をかけた。DMの絵に惹かれて初めてここに来たという。今あらためて
実物の前に立ち言葉なく魅入っていたと語る。
さらに他の作品もゆっくり見た後また、その絵の前に立つ。同じ後姿である。
肩を落とし、ゆったりと見入っている。
この後姿に惹かれた訳でもないが、再び話し掛けた。
ぽつりぽつりと話しながら、段々多弁になってくる。
釧路から私用で札幌に来たという。共通の知人ジスイズのKさんの話になって
心が開く。公務員の方だという。横浜生れで札幌にも何年かいて、今は釧路の勤
務で絵画・美術は個人的にお好きなようだ。
札幌と同じ百有余年の歴史しかない横浜という都市の話題からどんどん話が深ま
った。大野一雄さんも詳しく、石狩河口公演の記録を見せると大いに喜んでくれた。
先程から魅入っていた佐々木恒雄さんの絵画「朱雀」が欲しいと言う。
佐々木さんは今日結婚式の準備で夕方見えますと話す。
それまで待ちますかとまた色々話す。やがて作家も来て「朱雀」の行く先が決まる
。網走に近い釧路である。同じ道東の地域だ。
札幌から網走への道行きである。
佐々木さんの記念すべき札幌での渾身の作品は、こうして作家とともにオホーツク
への途上に嫁ぐ事となった。
Fさんというその方は少しナイーブになって、私が私有するともっと他の人に見ても
らえなくなるのではないかと言う。それは違います。作家が私有する事とは決定的
に違いますと応えた。人から人へと繋がれた作品という架橋は、作品の価値なのだ
。見ず知らずの人とこうして繋がった幸福なのである。
4月網走帰省時お届けとFさんとの再会を約して佐々木さんの幸せな時が過ぎた。
閉廊近く二人連れの人が来る。目がきょろきょろと落ち着かない。
2階吹き抜け奥で、新作の準備にかかっていた佐々木さんと話す。
達者な口調である。アートが、アートが、と連発してアート用語が飛び交う。
なにやらグループでK書店ロビーとか資料館全部借り切るとか話している。
作家の参加を漁りに来ているのだ。ぽんぽん美術業界用語が飛び出し、ひとりで
喋り続ける。合間にどこやらの外人の名前を上げ、知ってる?と続ける。
落語のひとり語りのようである。この人にとってのアートとか、生き様とかぽんぽん
出す言葉には何の感動も実体も感じられない。
またぞろ徒党を組んで、なにやら企み大衆を啓蒙するかの如き思い上がりを感じ
る。たったひとつの絵に深く触れ自己の人生と重ねながら、勇気を保とうとする個と
、群れてアート、アートと落語師のようにわめく人間と、その品位・本質が違うのだ。
アート業界のブローカーが発する業界用語に堕した美術など、糞食らえである。
閉廊時間を過ぎても止らない軽口の、自動記述法のような言説にうんざりして看板
をさっさと中に入れる。佐々木さんがぽつりと言う。帰りましょうか。
これでやっと止め処もないアート落語師の口上も収まる。
個展に来て、目の前の作品に何も語れず、ぼうふらのようなアート帯状疱疹患者は
御免である。若くともこんな輩がさっぽろを駄目にする。
対照的なふたりの立場、札幌・アートー釧路・公務員という区分けには何の意味も
ない。作品を前に×という交叉する一点の在・不在があるのみである。
そして交叉する個の感動の一点、それが存在しない芸術上のいかなる運動も存在
し得ないのも自明である。

*佐々木恒雄展「本日ノ庭」-3月3日(火)-15日(日)am11時ーpm7時
 月曜定休・14日(土)臨時休廊(作家結婚式)
*小林由佳展「ソノサキニシルコト。」-3月17日(火)-27日(日)
*及川恒平フォークライブ「はざまの街にて」-3月29日(日)午後3時~
 入場料3000円・予約2500円

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2009-03-08 13:10 | Comments(0)


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