会場左壁に3点の作品がある。
真ん中には1月ここで製作した赤の「朱雀」。
左の作品は、氷の蓮のように結晶した花が濃い藍色の画面に浮いている。
右の作品は、明るい黄色をバックに綿を首に巻いた人物が右上半身こちらを向
いて立っている作品である。
画面右下奥に方形の小さな戸口のような空間があり、そこは濃い藍色である。
黄色の背景は上部で捲れて、背後は戸口と同じ濃い藍色だ。
この藍色は、正面に飾られた120号の大作に繋がって、氷結したオホーツクの
海にも見える青に連続していると思える。
この新作3点は、網走への帰還を前にした25歳の青年の、都会ー故郷へ
のひたむきな、還る心情を純粋に表現して止まない。
一度故郷を離れる事で初めて見えた、これから生きていく故郷への思念である。
サッポロという石狩平野の一都市。そしてニューヨークでの遊学。
それらを今胸に畳み込んで見える、故郷オホーツク。
そこで漁業に従事し生きていくのだ。胸に絵画への思いを抱き締め。
4月から11月漁師の厳しい生活が待っている。そして、流氷の冬、絵を描く。
そう心に決めている。不安はある。しかし傍には理解する伴侶がいる。
そこまで決めて発つのだ。今月14日結婚式もここでする。
オホーツクは帰るのではない。還るのだ。
還るは、螺旋状に深化し、高まり、芯化しようとしている。
それが作品に顕われている。リュックを背負って藍色の水平線を跨ぐ男。
前回沖縄へ旅立ったチQさんとのふたり展で製作された作品である。
モヨロ貝塚の原人のような奇怪な姿が、花束を鷲掴みにして暗い青の方形の窓
から、こちらにぬっと出てくる。これが始まりである。このあとリュックを背負った
人が背景の暗い青を水平線のように跨ぎ、顕われる。
そして都会の象徴と思われる横縞のTシャツを着た首・顔のズレタ人物が、手刀
を振り回し画面を切り裂いている。
裂け目の色は、オホーツクの崖の色と作者はいう。
その後朱色の大作「朱雀」が出来た。
この作品は、作者の心臓のようにも見える。赤く動悸し血脈が露(あらわ)になる
。そして新作120号の新作は、オホ-ツクの海に毛細血管でタッチしているか
のようだ。
ひとりの青年の心の軌跡を、生活上の変位とともに今、物語のように解釈する。
それが正当な美術批評かどうかは知らない。ただ私にはそのように思えるのだ。
生きる事の位相と表現する事の位相が激しく交錯し素直に顕われる。
その事を否定する如何なる理由も見当たらないからである。
夕刻沖縄に関する本を読み、少し疲れた目で「朱雀」を中心にした3点を見た。
ここはここの御獄(うたき)と思う。白い壁に朱と黄と藍の3点が美しかった。
還る前の静寂が熱く静謐に漂っていた。漲(みなぎ)る静寂である。
オホーツク、マイラブ。佐々木恒雄25歳の旅立ちの個展である。
*佐々木恒雄展「本日ノ庭」-3月3日(火)-15日(日)am11時ーpm7時
月曜定休・14日(土)作家結婚式臨時休廊。
*小林由佳展「ソノサキニシルコト。」-3月17日(火)-27日(金)
*及川恒平ソロライブ「はざまの街にて」-3月29日(日)午後3時~
入場料3000円・予約2500円
テンポラリースペース札幌北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503