2009年 01月 24日
20代の頃初めてひとりで大阪に行った。 修学旅行の団体で訪れた時とは違い、街も人も東京とは違う空気に圧倒された。 渋紙色した肌、小柄で少しがに股でちょこちょこ早足で動く人。 猥雑で騒々しく関西弁が飛び交い、蒸し暑く活気というより茶碗蒸の中にいるよう な濃密な気配が支配していた。 その時眼に衝撃的に飛び込んできた文字があった。梅田の高架線から見た看板 の文字だ。梅田食道街。<食堂>ではなく<食道>なのだ。 この文字の生々しさがこの時の大阪の印象のすべてを表している気がした。 大阪は<実>の街だとその時思った。 今回関西空港から高速で梅田に入り、久し振りにその看板を見た。 字は変わらず、<食道街>とある。でももうあの時の衝撃は失せている。 あの時は、夏に近い季節であった所為もあるのだろう。 その生々しさ、心の感じ易さも、もう今はない。 街も変わり、多くの建物が都会化して人もそのように見える。 しかし、城下町特有の小路の多さ、そしてその小路に生きる毛細血管のような人の 生活力は札幌にはないものである。 札幌の小路は仲通だが、そこは車の出入り口としてマイナーな通りでしかない。 個人の商店は直ちに撤去され駐車場か、物品の搬入搬出路に変わる。 近年シャワー通りとか名付けて、そうした仲通を見直す動きもあるが、所詮上っ面 の流行でしかない。何故ならそこにはしぶとく生きる人間の生活がないからである。 大阪の小路にはそれがある。古い佇まいの個人商店が残っており、ゲリラのよう な弁当屋さんが忽然と出現するからである。 札幌の下町、東屯田通や斜め通りの茨戸街道沿いに同じような風景はあるが、 高層ビル群と太刀打ちする活気はないのだ。うら寂れ負け組の気配が漂ってい る。人の表情にも個の力がある。喫茶店も飲食店も職人の工房も弁当屋のおば ちゃんにも、ここはここよと額に気が満ちてマイペースである。 <実>があるのだ。公という世間に対し、私という女々しさがない。 これは、世間に対し個があるからだと思える。 見方を変えて今も変わらず食道街という<実>は生きているのだ。 個がどれほど<実>を持ち得るか。<虚>飾の世間に対し、個としてどれほど <実>の人生を保ち得るか。そこに人生の生きる価値もあると思うのだ。 上っ面の世間という<公>に対し、弱い<私>が如何に<個>として立ち向か えるか。丸の内ビジネス街のような林立する高層ビル群の挾間に、逞しく生きる 人たちを見ると、そこに変わらぬ人の<実>が生きている事に気付くのだ。 お城はお城よ、俺らには俺らの生活がある。 ビル群はビル群よ。おいらにはおいらの生活がある。 そう告げているような気がした。 そうした虚と実の猥雑にも逞しい空間に現代美術の小さな拠点があって、 若いスタッフがやはりおいらはおいらの価値観でやるのよと頑張っている姿に、 私は東京・札幌の都市にない関西の底力を感じたのだ。 大阪の小路の保つ毛細血管のような生命力は、小さな店、路上の弁当屋にも凛と してあって、その力はジャンルの領域を通底する生活力のようにある。 ここをラデカルな基底として持たなければ、美術も文化も本当の力を同時代として 保つ筈がないと私は思う。 都市を身体に例えれば、都市構造が大動脈と静脈だけの太い血管だけの効率性 に走ろうとしているなら、小路・仲通のような小さな毛細血管のような存在こそが、 問われるのである。 五感を支えるこれら、触れる血流が喪失したならそれは生活の死に近い。 大動脈も大静脈もそれはそれよ。おいらはおいらと堂々と存在し得るか。 この個の強さこそが、文化のラデカルな生命線ではないのか。 翻って、ひ弱なさっぽろの凍てついた貧しい仲通を滑りながら今思う事である。 *高臣大介ガラス展「gla_gla CANDLE show」-1月27日(火)-2月8日 (日):27日午後7時半~あらひろこカンテレライブ1000円 *佐藤義光花個展「別世界」-2月10日(火)ー15日(日) *野上裕之彫刻展ー2月17日(火)-22日(日) テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2009-01-24 13:57
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