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2016年 09月 30日

踵と爪先ー撓む指(34)

長時間の治療を受ける身となって、夜の帰路
電車ー歩行で気付いた事がある。
最初は電車での移動、そして停留所から山へと
近づく緩い坂道の歩行。
その違いは足裏の感覚だった。
坂の斜面の分、足裏は爪先への力と交互に踵へ
と力が加わる。
歩く、動く事の身体的基本がこの交互の重心
変化によって成立している事が新鮮な発見に
思えたのだ。
そこから。踵の視座と爪先の視座が思考された。

今回の展示でもそうした意味で私が興味深く感じ
たのは、尾道の野上裕之の作品と網走の佐々木
恒雄の作品だった。
札幌育ちの野上さんは、遠く尾道で船大工をし
ながら、彫刻を創っている。
佐々木さんは札幌から故郷網走へ帰り、父の職業
漁師の仕事に従事し絵を描いている。
同じ頃札幌を離れたふたりが、移動ー移住の先に
選んだ場所は他郷と故郷の相違があり、それが
今回の作品にも顕れていると感じた。

野上裕之の彫刻作品。
黒光りする木彫りの巨大なカラス、その顎には缶
コーヒーアルミ箔が巻き付いている。
選んだ一首は

 世界に告ぐ空を見ながらたそがれてあくびをするな顎を外すぞ

緩く緊張感の喪われた現代社会への痛烈な批判が
籠められたこの一首に、黒く光るカラスはそうし
た社会の象徴として大量生産・大量消費・大量破棄
の缶コーヒーの顎止めをしていると考えられる。
そして同時に船大工という現在の鋼鉄船主体の造船
業界では時代遅れの仕事に従事している現実が反映
されているとも思えるのだ。
黒く大きなカラスは鉄鋼船そのものにも見えるし、
カラスの顎の缶コーヒーアルミ箔は、造船業界の
効率本位の船造りへの批判とも感じられる。
船も今や身体エネルギーを遠く離れた機械動力の
巨大な建造物のひとつなのだ。

かって海に憧れていた私の友人が商船大に入り卒業
行事の帆船日本丸で太平洋を渡り、興奮していた事
を想い出す。
そして就職し何十万トンかの石油運搬船を操縦し
海外を往復する仕事への幻滅を語っていた。
十数人の乗組員、機械操作、着いた荷下ろし港は
無機質なコンクリート風景。
帆柱を登りマストを張り波風を体で感じ緑の島を廻る
、あの体で感じる海の喜びがないんだ、そう語っていた。
そして彼は休暇の時いつも山へと誘った。
頂上から街を見下ろす私に、こう言った。
”あんな石ころ・・!”
そしてさらなる緑繁る山奥へと瞳を向けていた。

野上裕之の作品を見ながら、私はこの事を想い出し
ていたのだ。
鋼鉄のような黒いカラス、そして顎の缶コーヒー
アルミ箔。
そこに深い森の奥の緑に飢えていた海の男の
眼下に林立するビル群に吐き捨てるように出した
言葉が重なるのだ。
”あんな石ころ”

野上裕之が故郷を離れ異境の地で生きている移動
の重心には、爪先の志向が今も活きていると思う。
明日は佐々木恒雄の故郷への帰還、踵の重心につ
いて思考する。

*それぞれの山田航「水に沈む羊」展ー10月2日まで。
 am11時ーpm7時。
 参加作家 森本めぐみ(美術)野上裕之(彫刻)佐々木恒雄(絵画)
 野崎翼(折り紙)成清祐太(映像)森美千代(書)酒井博史(篆刻)
 竹本英樹(写真)久野志乃(絵画)。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503
 
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by kakiten | 2016-09-30 13:06 | Comments(0)
2016年 09月 29日

秋風吹いてー撓む指(35)

何時の間にか短い秋が来ている。
清涼な空気、風、光。
壁の蔦も少しだけ色づいて赤を纏った。
薄い水色表紙の山田航「水に沈む羊」歌集。
この色彩が似合う時だ。

その色彩を活かして遅ればせながらDMが出来る。
<それぞれの「水に沈む羊」展>印刷の題字は、
何時のまにか私が看板に書いたマジック文字と
なっていた。
学生時代立て看板に書いた習性が、ギャラリーの
看板文字になって時々外に現れる。
その文字がそのまま印刷で再現されると、少し
照れる。
活字職人酒井博史の技である。
薄い水色の地に白抜きされた文字が妙に馴染んで
目に優しく印象的である。
直線主体で書かれたこのゴジック文字は、学生運動
時代の攻撃的で尖鋭な印象があり、当時の女子大生
に、”この字、嫌い”と指差された記憶がある。
堅苦しく、怖い文字だったのだろう。
怖いより可愛い方に、さらに時代は偏っているが、
怖い系の文字が新鮮に映るとすれば、不思議な気
がする。

展示もあと3日。
展示を通して遠くにいる人と、何度も会って語り
合っているような不思議な展覧会だ。
看板文字もその所為で、心許されて甦ったのかも知れない。

*それぞれの山田航「水に沈む羊」展ー10月2日(日)まで。
 am11時ーpm7時。
 参加作家 森本めぐみ(美術・鯖江市)・野上裕之(彫刻・尾道)
 佐々木恒雄(絵画・網走)・野崎翼(折り紙・札幌)・森美千代(書
 ・札幌)・酒井博史(篆刻・札幌)・竹本英樹(写真・札幌)・
 久野志乃(絵画・札幌)
 :ライブ 及川恒平×山田航「橋」ー9月25日終了。
*橘内光則「土曜の夜の夢」ー10月9日ー30日
*ホピ&カチーナドール展ー11月1日ー6日。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2016-09-29 12:59 | Comments(0)
2016年 09月 28日

踵の時間ー撓む指(34)

今展示中の「それぞれの山田航<水に沈む羊>」展も
終盤に入った。
今回展示した作品には、作家それぞれの生活・日常
の踵(かかと)のようなものを、私は感じている。
踵の時間とは生活の芯が据えられ、そこから世界を見、
メッセージを発している事だ。
この生活軸を抜きに、一首を撰び作品を創ってはいな
いと思える。
当然といえば当然とも思えるが、それだけ個々が
生活現実と向き合い、自らの精神を作品に籠め、
日常闘っている傷痕でもある。
従って個々の作品に生活の現場が立ち上がり、魂が
対峙し固有の踵の時間となって心に染み入る。
「水に沈む羊」の山田航の一首は、その回路・媒介
として開いている。
一首の解釈に終わらない、それぞれの開かれた世界
が作品に包含されているからである。
個々の作家と作品について語りたい衝動が、湧き出る
ように胸に溜まってくる時もある。
しかしそれは私自身の保つスタンスである。
作者の生活に入り込み語るのは、作品自体の存在に
私小説的な感情移入を招くだろう。
作品自体と山田航の選ばれた一首が、互いに影となり
光となって新たな風景を産んでくれればそれで良いのだ。
目でひとつの作品を見、選んだ一首を読み、ふたつの
共有する意味を考え、再度作品を見る。
そう言う意味では、二度三度味わい深めるターンを有する
濃度の高い展覧会だ。

成清祐太君が公開制作と称して、上映中の動画映像に
新たな作画作りを週末にかけ会場で開始する。
彼の中で何かが弾けているようだ。
他の作家作品に刺激されての所為かも知れない。
作品が作品を呼び、さらに作品を招き出す。
見る方もそれと同じように、自らの踵の時間を見詰め
振り返る。
そんな浮き足立ち、爪先立つ現代の時間と対峙する
踵の時間を思いだして欲しいと願う。

*それぞれの山田航「水に沈む羊」展ー10月2日(日)まで。
 am11時ーpm7時:月曜定休。
 :参加作家 野上裕之(彫刻ー尾道・船大工)・佐々木恒雄(絵画ー網走
  漁師)・野崎翼(折り紙ー札幌・浪人生)・成清祐太(映像ー札幌移住2年)
  森美千代(書ー札幌・専業主婦)・酒井博史(篆刻ー札幌・活字職人)
  竹本英樹(写真ー札幌・フリーTVデレクター)森本めぐみ(美術ー鯖江市
  ・育児3ヵ月)久野志乃(絵画ー札幌・出産2ヵ月)
 :ライブ 及川恒平×山田航「橋」ー9月25日終了。
*橘内光則展「土曜の夜の夢」ー10月9日ー30日
*ホピ&カチーナドール展ー11月1日ー6日
*竹本英樹展ー11月予定
*森本めぐみ展ー12~1月中予定。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2016-09-28 13:24 | Comments(0)
2016年 09月 27日

及川恒平&山田航ー撓む指(33)

このふたりの共演はもう5,6回にもなる。
世代もジャンルも違うふたりが、さらにその関係性
を深めている感のする今回のライブだった。
新しい短歌の旗手として、2012年処女作「さよなら・
バグチルドレン」で華々しくデビューした山田航。
多くの賞を受賞しペットボトル世代の代表として
世に喧伝された。
一方及川恒平はフォークソングの草分けのひとり
として「面影橋」のヒットや六文銭で小室等らと
長年活躍してきたフォーク歌手である。
北海道で生まれ、釧路の幣舞橋は父上の設計という。
フォーク全盛時代、メッセージ性の強い反戦や生活感
の濃い唄がフォークの主流だった。
その中で北方の透明な抒情を保った及川恒平の歌は。
同じフォークの仲間から、お前の歌はフォークじゃない
とまで言われたと聞く。
及川はフォークを一時辞め、テニスコーチをしていた
という。
しかし1990年代に再びフォークの世界に戻ってくる。
その時出したのがCD「みどりの蝉」だ。
北の自然に根差した透明で澄んだ曲・声・詩が溢れている
名作である。
ほとんど二季に近い北の風土。
その冬・春ー夏・秋が、切ないまでの透明な歌声で綴られて
心撃つ。
及川恒平は自然・風土を感性のトニカとして表現する歌い手
であると思う。

一方の山田航は第一歌集の標題のように、社会の外れ・エッジ
に感性の基準を置いて短歌を創り、読み手に語りかける。
彼は時代・社会に根を挿して歌う。

自然と社会とは、本来相対峙する存在だ。
原始林、大海原のまん中で人間は生きてはいけない。
人類は自然を開墾し人間の生きる環境を造ってきた。
自然と人間が共存する環境、自然と人間の調和できる緩衝地帯
である。
そこに生まれた文化・生活を人は風土と呼び、故里・故郷と呼
んだのではないだろうか。
その風土・故郷が摩滅し、自然と人間社会が剥き出しで向き合
っている。
そうした現代の時代状況の中で、及川恒平の自然。風土に根付く
北の感性と、山田航の社会的エッジ・北の感性とが、新たな界
(さかい)、新たな風土という、開墾の鍬を降ろそうとしている。

社会的北方感性と自然的北方感性が歌と唄を通して、中央南方感性
に対峙し、独自の風土・文化の根を耕す。
そんな期待を保って、これからもふたりの競演を見たいと思う。

*それぞれの山田航「水に沈む羊」展ー10月2日まで。
 am11時ーpm7時:月曜定休。
 :参加作家 森本めぐみ(美術)・野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)
 ・野崎翼(折り紙)・成清祐太(映像)・森美千代(書)・酒井博史(篆刻)
・竹本英樹(写真)・久野志乃(絵画)。
 :ライブ 及川恒平×山田航「橋」ー9月25日。
*橘内光則展「土曜の夜の夢」ー10月9日ー30日
*ホピ&カチーナドール展ー11月1日ー6日

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2016-09-27 13:32 | Comments(0)
2016年 09月 25日

新たな<風土>をー撓む指(32)

今夕午後5時から、及川恒平と山田航「橋」ライブがある。
フォークソングの草分けのひとり、及川恒平のさらなる
北抒情への挑戦が、若い山田航とのジョイントコンサート
を誕生させた。
これで5,6回目となるふたりのライブ。
当初は山田の一首を自作の旋律に乗せて唄うスタイルだった
が、最近は山田自身が自作を朗読しテーマを決めて競い合う
スタイルに変化している。
今回は「橋」を主題に、それぞれの自作を披露し合う。
<時代・社会>に根差した歌を創る山田航。
<自然・風土>に根差した歌を唄う及川恒平。
そして<自然>ー<社会>の両方に橋渡しをしていた
<風土>という緩衝地帯が磨り減りつつある現代に、
ふたりが構築しようとしている<橋>は、歌という表現による
ひとつの文化、小さな風土なのかも知れないと思う。

是非ご来場下さい。

*それぞれの山田航「水に沈む羊」展ー10月2日(日)まで。
 ;ライブ 及川恒平×山田航「橋」本日25日午後5時~予約2500円

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2016-09-25 14:55 | Comments(0)
2016年 09月 24日

選択にドラマがあるー撓む指(31)

今回それぞれの作家が選んだ一首には、それぞれの人生の
ドラマが潜んでいる。

<あをきまなざしよ散るな>森美千代
<みんなあれが底なき渦とわかってゐたのに>竹本英樹
<水張田の面を輝きはなだれゆき>成清祐太
<運転手フロムフイリピン未明から未明へ>森本めぐみ
<ぼくたちは始められないから終われない>久野志乃
<たそがれてあくびをするな顎を外すぞ>野上裕之
<・・・げんきでゐてほしいひと>野崎翼
<濾過されてゆくんだ僕ら>酒井博史
<ガソリンはタンク内部にささざなみを>佐々木恒雄

それぞれの作品のキーワードと思える一行を選んでみた。
この中で本人以外が選んだと聞く一首の作品がある。
竹本英樹さんの卒業証書写真と一首である。
愛娘のYちゃんが撰び指定したと聞いた。
竹本さんは今回迷ったのだろう。
自分自身で選べず娘さんに相談し、娘さんはこの一首を撰び
自らの卒業証書を撮影に指定したと聞く。
普段見る竹本英樹の写真とは違うくっきりした明解な写真
である。
私は以前娘さんが足を痛め車椅子に乗っている写真を思い
出していた。
ひょっとすると一生足が治らないかも知れない。
そんな時の写真だ。
パパ、と見上げる娘さんの眼。
その一瞬を愛おしさを籠めて何の衒いもなく、ばっちりと
その姿を撮っていた。
作品写真として多く発表されている竹本作品は、朦朧とした
輪郭の希薄な写真である。
この時の車椅子の写真は違った。
こういう剛直な一面が竹本さんにはある。
今回の写真もそうした一面が溢れている。
娘に相談し、娘の意向をすべて受け入れている。
これもひとつのドラマであると私は思う。
反抗期を見詰め、客観視した高校一年生の娘の心を受け
入れ、作品化したふたりのドラマだ。

今回の展示作品には、見えない日常のドラマが作品と
その背後に素直に在る。

*それぞれの山田航「水に沈む羊」展ー10月2日(日)まで。 
 月曜定休:am11時ーpm7時。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2016-09-24 18:22 | Comments(0)
2016年 09月 22日

礫弾のような・・・撓む指(30)

山田航の短歌には礫弾のような一行が秘められている。
地下のマグマのようなその言葉が、時として礫弾のよう
に31文字のカプセルから吹き出す。
今回の出品者はみなその言葉の礫弾を共有し、自らも
発射している。

昨日私が通院で出た痕、遅れていた最後の作品酒井博史さん
の展示があった。
選んだ一首は

 濾過されてゆくんだ僕ら目に見えぬ弾に全身射抜かれながら

和紙に大小18個の篆刻でこの短歌を印字し表現している。
文字が文字として固有の彫りで躍り、<濾過>・<僕ら>・
<全身>等と紙に印字され額装し飾られている。
文字一字一字が彫刻されて、この短歌の保つ礫弾の広がり
を伝えてくれる。

<濾過されてゆくんだ僕ら>

この一行が山田航の喉奥の声の礫弾だろう。
その一行に酒井博史の活字職人・判子彫りの日常現実が響き
作品となって弾球を返しているのだ。

今回の参加者はみんな、いわゆるアーチストで生計を営んで
いる訳ではない。
生業を持ち、家庭があり、その傍ら絵画や彫刻等の表現を
続けている人たちである。
その日常の喉奥に表現者としてコアとなる声が潜んでいる。
その声が山田航の叫びのように秘められた礫弾の言葉に応
え、作品となっている。
普段露わには顕れない深い日常皮膚下の亀裂のような声。
その声は、山田航の作品から一首を選んだそれぞれの作家の
作品に触れ、私たちの内なる喉奥の声と響震している。

作品は同時代の深いエレメントとなり、こ~ん、という響き
を発しているのだ。

今回もこの場は、contemporaryの<con>を
響かせてくれた。
とても嬉しい。

*それぞれの山田航「水に沈む羊」展ー9月20日(火)ー10月2日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。
 参加作家 森本めぐみ(美術)・野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)
 ・野崎翼(折り紙)・成清祐太(映像)・森美千代(書)・酒井博史(篆刻)
 ・竹本英樹(写真)・久野志乃(絵画)。
 :ライブ 及川恒平×山田航「橋」ー9月25日(日)午後5時~予約2500円
*橘内光則展「土曜の夜の夢」ー10月9日ー30日
*ホピ&カチーナドール展ー11月1日ー6日
*森本めぐみ展ー予定12月下旬ー1月初旬
 
 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503
 
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by kakiten | 2016-09-22 13:09 | Comments(0)
2016年 09月 21日

乾かぬ内にー撓む指(29)

産後のベッドから一つの絵が届いた。
久野志乃さんの絵画である。
展示を急ぎ触れた親指に、絵の具の痕が付いていた。
初日に間に合うように、ぎりぎりまで描き続けた作品だ。
選んだ一首は

 鉄塔の見える草原ぼくたちは始められないから終われない

出産という人生上の身体的大経験。
それを経た女性の本質的な強さを秘めた選択だと思う。
始めも終わりも無い、未だ、未だの今なのだ。

どんな小さな日常にも、ひとつの選択には個人的なわけがある。
今回の一首を選ぶ選択にも、それぞれ生活日常の個人的わけがある。
その喉の奥の深い声が、すべての作品に響いている。
31文字の一首は、それぞれの作家の喉の奥の声となって、固有の
音色を響かせている。
山田航の短歌のひとつの声が回路となって、他者の喉の奥で別の
日常に木魂している。
森美千代<あをきまなざしよ散るな>・
成清祐太<輝きはなだれゆき>・
森本めぐみ<運転手フロムフイリピン>・
野上裕之<たそがれてあくびをするな顎を外すぞ>・
佐々木恒雄<タンク内部にさざなみをつくり>・
竹本英樹<みんなあれが底なき渦と>
・・・・
これらの言葉にキーとなる声の喉仏を感じるのだ。

どんな小さな選択にも個人的なわけがある。
そこに日常の下の深い亀裂が覗く。
亀裂は声なき声となって、作品に形象を与えている。

初日、空間は木魂する声のオーケストラ・交響となった。

*それぞれの山田航「水に沈む羊」展ー9月20日(火)ー10月2日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。
 :参加作家 森本めぐみ(美術)・野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)
  野崎翼(折り紙)・成清祐太(映像)・森美千代(書)・酒井博史(篆刻)
  ・竹本英樹(写真)・久野志乃(絵画)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
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by kakiten | 2016-09-21 14:15 | Comments(0)
2016年 09月 20日

遅れつつ・・・ー撓む指(28)

網走の佐々木恒雄さんの作品が届く。
小品ながら力のこもった夜の海の絵。
夜空に月、そして海に浮かぶ小舟にふたりの人影。
漁をする姿だろうか。
選んだ一首は

 ガソリンはタンク内部にさざなみをつくり僕らは海を知らない

現代社会のエネルギー構造と対比するように、自らの職場・海の
情景を描いている。
その画面半分以上を占める海のさざなみが美しい。
そこにこの一首の風景と対峙する佐々木恒雄の現代への眼が
感じられる。
ガソリンまみれの都市構造タンク内のさざなみと向き合う眼だ。

昨日私が通院で留守した後、山田さんたちが展示を進めていたが、
その時写真家の竹本英樹さんが来て、作品を展示したようだ。
作品は愛嬢の小学校卒業証書を写したものだ。
名前は自らが消したという。
選んだ一首は

 校庭に巻くつむじ風みんなあれが底なき渦とわかってゐたのに

結局竹本さんの一番コアな部分が出たなあ。
一人娘の成長を見詰める親の眼。
生活の根である家族への視線。
写真家としての写真とはまたひと味違う真っ直ぐで剛直な写し方だ。
竹本さんの普段露わには見せない根の部分だ。

成清祐太さんが展示の仕上げに入っている。
白い大きなパネルに大画面を投影し、そのパネルのまん中を切り抜き
そこにモニターを嵌め込み同じ画面が映し出される。
手で描いた絵を一枚づつ撮影し動画として構成するこの作品は、札幌
移住後最初の労作である、
選んだ一首は

 水張田の面を輝きはなだれゆき快速列車は空港へ向かふ

水田に水を張る古代からの稲作の知恵。
その水面を<なだれゆき>快速列車と飛行機の影が過ぎる。
成清さんの画面はこの水面をイメージして現代と古代を繋いでいる
かのようだ。
ここにもこの一首に触発された作者の現代への眼がある。
水張田の水面はそのまま彼の描く画面のイメージともいえそうだ。
九州筑後で生まれ東京多摩美で学び、札幌に移住してきた成清さん
の流浪の人生も反映しているのかも知れない。

あと2点作品が午後3時以降届く。
酒井君と久野さんである。
出産して間もない久野志乃さんは、必死で制作に集中しているようだ。
生活の日常の現実の中で生まれるもうひとつの命。
作品とはそうした切実で真摯な生の産物なのだ。
今回の出品作をみてしみじみそう思っている。

*それぞれの山田航「水に沈む羊」展ー9月20日(火)ー10月2日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休・
 :参加作家 森本めぐみ(美術)・野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)
 ・野崎翼(折り紙)・成清祐太(映像)・森美千代(書)・酒井博史(篆刻)
 ・竹本英樹(写真)・久野志乃(絵画)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
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by kakiten | 2016-09-20 13:09 | Comments(0)
2016年 09月 19日

次第に整う展示ー撓む指(27)

今回一番遠方の尾道・野上裕之さんの作品が届く。
船大工に従事しながら、彫刻への志を保っている作家。
今回は40cm程の黒いカラスの彫刻だ。
選んだ一首は

 世界に告ぐ空を見ながらたそがれてあくびをするな顎を外すぞ

彼には珍しく、社会性を保ったテーマであり、作品だ。
巨大な真っ黒なカラスの嘴は、缶コーヒーのアルミ箔が巻き付き
貼ってある。
<たそがれてあくびをするな顎を外すぞ>の意が籠められている
のだろう。
大量生産・大量消費・大量破棄の緩い現代社会の消費構造に対峙
する視座がここに読み取れる。
黒いカラスの造形も<たそがれてあくび>の強い悪意の象徴と思える。
生活の何気ない現実が、この一首を撰び造形した事である広がりを保
って私には突き刺さってくる。
山田さんのどちらかというと直截な叫びが、野上さんのカラスの
造形である広がりを保って、同時代の毒とそれを見据える視線と
して語りかけるのだ。

今回の展示作品にはそうした同時代に日常生活の先端で震え響く
位相で創られた作品がトニカで共通している。
何気ない日常の他の人には、何んて言うことのない事が時に
当人には大きなとても気の抜けない非常時としても存在するのだ。
そうした日常の小波が人生である。
缶コーヒーひとつにも深い意味がある。
そうした生の現場の呟き・溜息・眼差しが一つ一つの作品の
一首を選んだ共感の磁場に鳴り響いている。

今日あと3点の作品が届き、展示は完了。

*それぞれの山田航「水に沈む羊」展ー9月20日(火)ー10月2日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
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by kakiten | 2016-09-19 15:05 | Comments(0)