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2014年 03月 29日

バーバリにー拠点・弥生(17)

厚いオーバーからバーバリーに着替えて歩く。
白く乾いた舗道と黒く汚れた泥濘の歩道。
枝道はでこぼこの凹み小路。
除雪された雪山は黒く削れて鬼の牙のように
そそり立っている。
街の雪解けは凍った道の滑り止め用に撒かれた
黒い砂が混じって、春というよりも冬の最後の
うめき声が聞こえるような風景だ。
野山の木々の根元から雪が解けて顔出す黒とは
違う色なのだ。
雪解けの下に生命の息吹が在ると無しで風景も
違ってくる。
野山の雪と都市の雪はその位置も違うのだ。
野山の雪は生命をその下に潜ませ、土に沁み込み
湧水ともなる。
しかし都会に降る雪は除雪の対象としかならぬ
邪魔なものである。
その差異が雪解けの風景にも表われているのだ。
都会では雪などの存在しない地下歩道やビル中が
主役の座を占める。
外の舗道もロードヒーテイングが施され、雪を消す。
しかし全ての舗道がそうである訳ではなく、買い物客
の多い人通りのあるビルの前だけがそうなのだ。
ロードヒーテイングはその設置されたビルが負担する
設備だからである。
従って道に差別が生まれ、凍てついた道と乾いた道が
人の出入りの差に応じて交互に続く事もある。
都市の価値観は物流の多寡である。
多い方が優遇されるのだ。
その差異の風景は、春が来ても一層際立ってくる。
真っ黒な道と白く乾いた舗道の顔をして。
そして雪のもともと見えない地下鉄に乗ると、乗降客の
多い駅の手前の車内アナウンスには必ず「みなさま地下鉄
ご乗車ありがとうございます」のメッセージが入るのだ。
これも客という利用数の多寡によるものと思われる。
私の下車する駅など危険物を見つけたら何とやらとか携帯
電話はサービスモードにせよとか注意のアナウンスばかり
である。
物流の多寡を第一とする都市構造と命を育む自然との差異は
産業経済の価値観と芸術文化の価値観の相違でもあるだろう。
それぞれの役割があって、一概に一方で一方を否定するもの
ではないが、対峙する事は必要である。
どちらの価値観も人間の環境の問題でもあるからだ。
都市と自然は本来相対するものである。
対峙して事こそ本質に繋がる磁場を生む。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
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by kakiten | 2014-03-29 13:36 | Comments(0)
2014年 03月 27日

ぬかるむ道ー拠点・弥生(16)

雪融けが進み乾いた路面が顔を出す。
しかし裏道はザックザクジャパン。
緩んだ雪道が不安定に続く。

先日溜まった新聞を収集日に纏めて出す為束ねていた。
その中にふっと目に付いた今年4月16日公演予定の広告。

 現代のベートベン!待望の札幌公演決定!

 全ての聴力を失う絶望と、絶え間ない耳鳴りの苦しみの中
 佐村河内守が完成させた交響曲第一番 ヒロシマ。
 ・・・混迷する現代に生きる人々の共感と感動を呼ぶ

札幌コンサートホールkitaraの宣伝広告である。
あの謝罪会見やゴーストライターの告白会見前の広告なのだ。
すでにB席は完売の文字が躍っている。
あの謝罪会見時とはまるで違う嵐が丘の主人公のような横顔が
載っている。
その紙面を見ながらあの謝罪会見で感じた薄気味悪さを再び
思い出していた。
メデイアが増幅して届ける情報とその真実・事実との乖離。
そうした類の構造的中身が、生身の人の顔をして現れたような
薄気味悪さである。
国内有数の音響設備を備えた音楽の殿堂キタラでこの作曲家の
大演奏会が予定されていたのだ。
この立派な箱では来月4月16日に実作者の告白が無ければ
そのまま堂々と公演されていた事だろう。
しかし考えようによっては、作曲家の顔を見るのが目的ではなく
誰がどう作ろうとその作品が本当に良いものなら、曲は演奏さ
れるべきである。
問題は作品そのものを問うのではなく、その作家の在り様を
増幅しそこを形容的に修辞化している事だ。
この包装紙と中身の乖離のような虚実構造は、実に食品・交通
・理科科学から文化全般にまで及んでいる。
氷山の一角のように各分野各界での謝罪会見がこの半年間に
続出している。
表書きのメニューが先行して増幅され、内実を成す事が軽視さ
れる。
この構造に追い風を与えているのが、ある種のメデイアの増幅
行為である。
こうした危機は謝罪会見として顕れたものを氷山の一角として
より構造的に潜在化して在ると見抜かねばならない時代にいる。

足元がザックザクジャパンは雪解け道とサッカーだけで良い。

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by kakiten | 2014-03-27 15:29 | Comments(0)
2014年 03月 26日

半年ぶりにー拠点・弥生(15)

佐佐木方斎さんが来る。
昨年の秋の個展以来である。
百号の大作が2点完成したと言う。
さらに昨年秋の新作を版画にした画集も今
製本中という。
それで個展の会期の相談に来たのだ。
昨年「自由群」の新作80号他を描き上げ個展後次は
新作百号に挑戦するとは言っていたが、本当に作品を
制作したようなのだ。
ずっと傍らで不肖の息子を見てきた母上が、作品を見て
珍しく良いねと褒めてくれたと、少し照れたように話す。
欲得の無い無心な母親の評である。
俄然どんな作品か見たくなった。
ブルーが基調で赤が一点という。
長い潜伏期間を経て昨年復活した佐佐木方斎の一色突破
の色が赤なのだとこの時思った。
八木保次さんの死去以降<熱い抽象>の作家がいない、
だから自分はそれを志して作品を創ったのだと言う。
冷たい抽象に熱い抽象という感覚的な言い方に、「格子群」
「余剰群」「自由群」の3部作をかって制作し純粋形象の
色彩を追及してきた方斎の原点のようなものを私は感じて
聞いていたのだ。
「格子群」の保つ直線単色構造はきっと<冷たい抽象>に
入り「余剰群」「自由群」の多色の構造は<熱い抽象>へ
と繋がる作品なのであろう。
そして昨年の「自由群」の復活以降それは<熱い抽象>とし
て作家の原点の更なる深化として今回の百号の油彩作品に
結晶しているのかも知れない。

ひとりの優れた作家の再生と復活に立ち会える事をとても
幸せに感じている。
2006年にベッドに臥したままの彼を見舞い、そこから再生
の昨年秋まで今この場の時間と共にあるひとりだからである。



 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
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by kakiten | 2014-03-26 14:48 | Comments(0)
2014年 03月 25日

南風吹くー拠点・弥生(14)

気温も二桁に届き南風が吹く。
それでもまだ室内は寒くストーブの前。

吉増さんから出発直前に投函されたロンドン展
資料が送られて来る。
タブロイド版16頁の濃い資料だ。
内容はパブロ・デュラン氏とフォレスト・ガンダー氏
の吉増論に今展示を企画した岡本小百合氏の吉増論
が和英仏訳で掲載されている。
他は吉増さんの詩、多重露光写真、怪物君の草稿
、GOZOCINE、銅板作品等が載っている。
企画者の岡本さんの率直な吉増さんとの出会いから
始まる一文が爽やかな印象で気持ち良い。
このタブロイド版を編集したT氏やロンドン展の全て
を企画し奔走した岡本さんのような人たちに恵まれて
ロンドンの吉増展はきっと大きな反響を呼ぶ事だろう。
明後年には東京の美術館で大個展開催もあると聞く。
振り返れば、小さな磁場の細い糸のような連続性が
次第に大河を生み世界を潤す、そんな源流の一滴でも
あるかのような思いを、今抱いている。

南風が吹いた所為かしらね。

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by kakiten | 2014-03-25 14:38 | Comments(0)
2014年 03月 23日

幻の地下歩道ー拠点・弥生(13)

山田航さんがここ1年近く道新朝刊に月2回ほど連載を
続けている「札幌モノローグ紀行」。
札幌の知られざる土地の記憶を探り、そこで短歌を一首
創作するというユニークな連載企画である。
すでに26ヵ所ほど知られざる札幌近郷の地域を発掘し
記載している。
今回一番最近取り上げた場所は、1987年に建設され
30年近くも封印されていた都心地下に残された幻の地下
歩道である。
バブルの崩壊で計画が挫折し封印された130メートルの
地下歩道が、最近再び再開発の話となり2018年に開通
するという。
その幻の地下通路を歩いて創った一首。

 坂道がもし階段の母型ならその上の空に散る灰の花

整備前の地下歩道に立ち入って、階段になる予定の斜面を下
った時の印象が上記の歌となった。
札幌が大きく変わった象徴が都心のビル街と地下街の建設
である。
札幌冬季オリンピック開催を境に市街地再開発法が施行され
街は大きく変貌したのだ。
<坂道がもし階段の母型なら>という一節にこの再開発の
原点を見る気が私にはする。
地下街やビル街の建設と同時に消え変貌したものが<坂道→
階段>と感じるからだ。
坂ではなく動く階段、上下する垂直な昇降機が取って代わる
からである。
地下歩道に残されていた階段になる以前のコンクリートの斜面
に階段の母型を感じ、同時にその上空に<灰の花>の<散る>
と歌った感性は鋭いものがある。
札幌は川の扇状地に広がるなだらかな地形であるから、大きな
坂のある街ではない。
しかしそれでも静かで緩やかな道の高低は伏流水の湧く泉に沿っ
て起伏としてあるのだ。
市街地再開発で建ったビル群や地下街・地下通路はその自然の
起伏を視界から消し、直線でフラットな通路が天地に隈なく張り
巡らされる構造となるのである。
コンクリートの高層ビルと地下通路は正しく<灰色の花>となって
天地に展開する。
人工の坂道は階段となり、階段はエスカレーターとなり、エレヴェ
ーターなって道は直線の速度に支配される。
そうした都市の本質構造をアートやきらびやかな商品といった眼の
匂い消し抜きにした都市構造の原型として幻の地下歩道が今に伝え
ている事を、山田航の一首は示唆している。

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by kakiten | 2014-03-23 15:11 | Comments(0)
2014年 03月 21日

冬が戻るー拠点・弥生(12)

また白い世界が戻ってきた。
朝外を見ると白銀の世界が曇天の下に広がっている。
黒く汚れが目立ったザックザクの路面はささくれ立って
凍てつき、波うっている。
外へ出ると、少し湿り気を帯びた雪が積もって歩行を
重く感じさせる。
なにか雪の重さと同じように心も少し重く感じる。

もうすぐ八木保次さんの3回忌の命日である。
奥さんの伸子さんは2月5日保次さんは3月23日で
2012年に相次いで亡くなられた。
無人となったおふたりの住まいに残された表札をご遺族の
ご好意で私がお預かりしている。
風情ある竹に保次さんのご母堂だった八木敏さんが3人の
名前を書き彫りこんだものである。
敏さんは私の祖父の代から親しく、優れた俳人で華道家でも
あった人である。
すらりとした痩身で美しく品の良い老婦人であった。
その敏さんと保次・伸子さん3人の名前が彫られた表札を昨年
お譲りして頂いたので、これをそっと追悼展のどこか片隅に置き
たいと考えている。
しかし残念ながらまだ今年の追悼展を実現できずに、保次さんの
命日を迎えようとしている。
昨年一昨年と「それぞれの八木保次・伸子展」として、いろんな
人に声をかけ作品を持ち寄り展示してきた。
命日に関係なく、おふたりの作品の色彩が一番似合う春の光溢れ
る時期にいつも展示を逢わせてきたのである。
展示のトニカとなる私の所蔵品であるふたりの作品の色彩が、黄色
と緑の美しい抽象と具象の春の色彩に満ちているからである。
今日の寒さが今年最後の冬であるなら、この後にこそ一日も早く
おふたりの遺した一色突破の春の色を柔らかい陽射しの中に表札も
添えて置いてみたいと思う。
札幌に生まれ最後までこの地の色彩を追及したおふたりを偲んで。

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by kakiten | 2014-03-21 15:35 | Comments(0)
2014年 03月 20日

よ~い、ロンドン!-拠点・弥生(11)

同時に2通の出立の便りが届いた。
一通はロンドン個展の吉増剛造さんからで、もう一通は
同じロンドンへ旅立った鈴木余位さんからの手紙である。
吉増剛造展は、これまでの集大成のように銅版の仕事
GOZOCINE、詩朗読、そして昨年暮にここで展示さ
れた「怪物君」の映像作品等が3月31日から5月13日
までロンドンで展示されるのだ。
そして鈴木余位さんは1年間の国際留学の最初の一歩を
この吉増展のあるロンドンからスタートするのだった。
映像作家石田尚志さんと共同制作した吉増さんの草稿440葉
を撮影した「怪物君」のDVDと一緒に出発直前のメッセージ
が添えられていた。

 この映像怪物を抱きながら世界の際を巡ってまいります。
 いってまいります。    
                       余位拝

吉増さんの手紙には、今回のキューレーター岡本さんの獅子奮迅
の活躍に感謝し、向こうで余位さん、村上文氏とも会える事が記
されていた。
そういえば、ここでの吉増展オープニングにも来ていた川戸氏も
合流すると情報が入っている。
昨年末のここでのオープニングがそのままロンドンへ移行したか
のようなメンバーである。
札幌の見えない水脈を辿り石狩河口に座して作品が生まれ、そして
20年の伏流水のような時を経て再びその創造の泉が湧き出すよう
に今の時間がある。
その一つの大きな流れがロンドンまで人も作品も流れてゆくのだ。
石狩・札幌という場がひとつの土壌となって<世界の際を巡る>。
真の国際化とはこうしたインターロカルなものではないのか。
ヨーイ、ゴーと号砲のような剛造、余位のふたりの出発の手紙を
同時に受け取ってそんな思いも抱かされたのであった。

一方で札幌国際芸術祭に「ハコレンー札幌ギヤラリーネットワーク」
が提唱され、芸術祭サポーターのように箱ネットを企画しているとい
う情報もある。
ハコレンとは正に今回の芸術祭の本質の一面を顕している。

場は断じて箱ではない。
産土の土壌でなければならぬ。

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by kakiten | 2014-03-20 14:28 | Comments(0)
2014年 03月 19日

斑模様ー拠点・弥生(10)

ザックザックと雪の緩んだ路面を歩くと、
日陰は凍って固く滑る。
明暗も冷暖も斑な冬の末の道。
気化熱が路面の温度を下げるのか、吹く風は冷たい。
白い路面は黒く汚れて、春というより冬の末の斑(まだら)
な皮膚のようである。

先日東京・六本木で札幌国際芸術祭の参加者が発表された
という。
その報道を取り上げたのが地元の北海道新聞で、朝日や
毎日といった全国紙は沈黙と聞く。
何故札幌の国際展を最初に東京で発表したのか不明だが、
東京という中央を見てアピールしたかったのだろうと感じる。
これも中央・地方の斑(まだら)模様だ。
国際展開催の3ヵ月前にやっと作家メンバーが公表されて、
先に展示主題のメニューだけは半年前に公表されている。
作家とテーマは不可分のものだから、少なくとも同時進行で
進めなければならない筈だ。
主題の「都市と自然」に合わせて、都市の近代の面は近代美術
館を使って炭鉱夕張を主題とし、自然の部分は泉を主題に地下
歩行空間を会場にするような既成の箱モノを主体に展示が予定
されている。
他に山中に近い芸術の森美術館や赤レンガの道庁庁舎、資料館
といった公共的な会場もそれぞれのテーマに合わせて使用され
るようだ。
地下水脈を主題とする時、大規模地下通路を会場とするとか、
都市の近代を主題とする時都心にある道立近代美術館を会場に
するとか、その他にもテーマと会場の安直な組み合わせがまるで
産地とメニューの乖離のようで寒々と感じるのだ。
時間も押し迫ってやっと参加メンバーも公になり、これから
多くの人たちがこのイヴェントに添って走り出す事だろう。
なにかアートという名のオリンピックみたいな同じ方向性を見
させられるような嫌な気分である。

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by kakiten | 2014-03-19 14:09 | Comments(0)
2014年 03月 18日

早春・晩春ー拠点・弥生(9)

早春の赤と晩春の白。
そんな紅白の春の色。
めでたい筈だが、少し心は低空飛行だ。
私の一色は未だ行方不明。
親しい人の一色は見えたけど・・・。

雪解けが進んでザックザクの腐れ雪道。
足をとられ水溜りを避けて歩く。
風は未だ冷たく黒い路面から吹き上がる。
路傍の雪山も崩れて灰色の壁。
路地裏の細道も低く沈んで軒下が深くなる。
屋根よりも深々と道が沈んでいる。

早春とも晩春とも縁遠いと感じた自分は多分
この晩冬の風景の内にいるからである。
未だ一色突破以前の灰色の大地。
少し身辺整理でもして、心と身体を整えよう。

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by kakiten | 2014-03-18 13:02 | Comments(0)
2014年 03月 15日

晩春・一色突破ー拠点・弥生(8)

建築家でかって「パルス」という雑誌の編集長をしていた
K氏が敬愛する友人のNに会いたいというので昨夕3人で
会った。
今使っているパソコンはK氏から譲り受けたもので、Nを
待つ間ゴミのクリーニングや機械の調整をお願いした。
やがてNが来て、こちらには水道管の水漏れを点検補修して
もらった。
ふたりとも優秀な手の人で私のような不器用な人種ではない。
さらにこのふたりは辛口の一言居士で世を憂い熱く語りだすと
もう止まらない情熱家でもある。
ここで軽く飲んでから近くの居酒屋ゆかりへと行く。
店主の宇田川さんにも入退院後しばらくお会いしていない。
Nは宇田川さんの入院も知らなかったようで、ご無沙汰を
詫びている。
石狩の人気の無い浜に独居して、最近はあまり札幌にも出て
来ないという。
もともと登山家で都会には縁遠い人である。
10年ほど前車の事故で大腿部骨折の重傷を負い登山から
遠のいた生活を余儀なく送っていた。
お酒が入りふたりの辛口の時事批評も熱を帯びてヒートアップ
する。
そんな熱い会話の終わり頃、ぽつりとNが俺結婚すると呟くよう
に言う。
昨年事故以来初めて定山渓天狗岳に登り、さらに道東の名山
トムラウシ山にも登ったという。
10年経って登山が再開できる身体に回復したのだ。
そしてその時同行してくれた人が一緒になる人という。
長く独身で一人気ままに生きてきたNが、晩い春を迎えている。
一色突破、Nの遅い春は何色なのだろうか。

一色突破・・遠い記憶の色が蘇る。
母親が亡くなり間もなく知らない新たな母と弟が家に入って孤独な
生活を送り暗く沈んでいたある人がいた。
その人の為に私は東京から毎日のように手紙を送って励まし続けた。
その人が東京のT美大に受かり、真っ直ぐに4畳半一間の私の下宿を
訪ねて来てくれた時の真っ赤なブレザーの色である。
その燃えるような赤を受け止めるには当時私はまだ若すぎたと今思う。
そして時を経て蘇るのは、あの時のあの赤い色なのだ。
あの時のあの赤をその後二度と見た記憶はない。
暗い北の春の地から初めてひとり上京し、新たな生活への希望に燃えた
一色突破の赤であったと思える。

人には人それぞれの一点突破の色がある。
Nの晩い春の色は山の雪の斜面を黒く染め、やがて梢に花開くあの白い
北コブシの色が良く似合う。

Nよ、晩い春おめでとう。

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by kakiten | 2014-03-15 14:59 | Comments(0)