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2013年 03月 31日

見えざる五つ目の季節ー風の夢・弥生(22)

今日で「さよなら バグ・チルドレンをめぐる変奏」展も最終日。
それぞれの個展のような、粒粒のはっきりした美しい展覧会であった。
最後にフォーク歌手及川恒平さんがソングにして唄った五首を載せる。

   うろこ雲いろづくまでを見届けて私服の君を改札で待つ

   麦揺れて風はからだをもたざれど鳥類であることをみとめる

   やや距離をおいて笑へば「君」といふニ人称から青葉のかをり

   僕らには未だ見えざる五つ目の季節が窓の向こうに揺れる

   積乱雲に呼ばれたやうな感覚を残して夏の曲馬団去る

「夏の曲馬団」と題された最初期の歌の中からすべて選ばれている。
この小歌集は第55回角川短歌賞を受賞した歌である。
及川さんの透明な澄んだ声が、淡々とこの歌を声にしメロデイーを
乗せ染み入るように廊内に響いたのだった。

今日で3月・弥生も終る。
十数人の小さな、しかしそれぞれの個展のような濃い時が過ぎ去り
この展示自体がひとつの<曲馬団>であったかのように去ってゆく。
まだ背丈を越える雪山の残る季節ではあるけれど、間違いもなく季節
は動き、冬の年は去らんとしている。
ひとつの季節が過ぎひとつの熱い時間が過ぎて、世界はまさに見えな
い五つ目の、それぞれの心の季節を迎えようとしている。
次はそれぞれの個展で会いたい!

 さよなら バグ・チルドレン
 さようなら 16人の冬の曲馬団


*山田航歌集「さよなら バグ・チルドレンをめぐる変奏」展ー3月31日まで。
 am11時ーpm7時。
 :野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)・アキタヒデキ(写真・文)・藤谷康晴
 (絵画)・森本めぐみ(造形)・高臣大介(ガラス)・久野志乃(絵画)・吉原洋一
 (写真)・中嶋幸治(造形)・森美千代(書)・ウメダマサノリ(造形)・藤倉翼
 (写真)・メタ佐藤(写真)・竹本英樹(写真)・河田雅文(映像)+及川恒平(唄)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503
 
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by kakiten | 2013-03-31 11:51 | Comments(0)
2013年 03月 30日

ラストラン・マサー風の夢・弥生(21)

昨夕屋根の雪下ろし中に転落怪我した河田雅文さんが来る。
もう大分回復して杖もなく、元気そうに足をぶらぶらして笑顔。
この事故で今回の作品参加が遅れていたが、なんとか最終日
までに映像作品を展示したいという。
ちょうど居合わせた中嶋幸治さんも大喜びである。
これで本当にラストランナーが出揃った。
マサさんの選んだ一首は、まるで雪の事故を暗示させるかの
ような一首だ。

  世界ばかりが輝いていてこの傷が痛いかどうかすらわからない

私はこの一首を歌集に探して、その隣に位置するもうひとつの歌が
この時心に残った。
この歌のお陰で発見したようなのである。
それは、

  水しぶき跳ね上げてもう戻れない明日へと向かふ逆光のなか

その話を河田さんにすると、不思議だなあ、という。
今度の映像はその逆光の映像なんだと言う。
どんな映像作品が出来上がってくるのか、明日が楽しみである。
マサに、<もう戻れない明日へと向かふ逆光のなか>である。

最後に河田さんの参加も得て今回のテーマ展は、粒々の明瞭な
決して団子状ではない、個々の主題の顕在化した15の個展の感
がある。
それぞれの生の現場の主題がくっきりと立ち上がり表現された
からである。
この展示の記録は小冊子として、作品写真と選んだ一首を並べ
纏める予定である。
撮影は藤倉翼氏、編集デザインは中嶋幸治氏が請け負い刊行を
目指す。
短歌評論の田中綾氏、歌人山田航氏、歌手及川恒平氏の鼎談も
収録し充実したものとなるだろう。

遠い網走の海や尾道の造船業、あるいは津軽と札幌の風土差や
内陸の旭川と札幌といった職業や場の違いを超えて、さらには表現
のジャンルの相違を超えてなお、通底する生活の軸心を熱く同時代を
生きる志の在り処として、個々のラデイカルな精神(こころ)が寄り添う
ように声をあげている。
そのドキュメントをきっと我々は感得する事が出来る、と確信するの
である。

*山田航歌集「さよなら バグ・チルドレンをめぐる変奏」展ー3月31日まで。
 am11時ーpm7時。
:野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)・藤谷康晴(絵画)・アキタヒデキ(写真・
 文)・森本めぐみ(造形)・高臣大介(ガラス)・久野志乃(絵画)・吉原洋一
 (写真)・ウメダマサノリ(造形)・中嶋幸治(造形)・森美千代(書)・メタ佐藤
 (写真)・藤倉翼(写真)・竹本英樹(写真)・河田雅文(映像)+及川恒平
 (ソング)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2013-03-30 12:38 | Comments(0)
2013年 03月 29日

青い週末ー風の夢(20)

ひとりひとりの作品を見詰めて、はやもう会期も終わりに
近づいて来た。
追憶の一瞬を<濡れた睫毛のうへで><魚>へ<山羊>
へ<犬>にと<青い週末>に見据えている。
かって愛したであろう女性を正面から撮った藤倉翼の写真。
その一葉を選んだ一首は、

   永遠といふ名の青い週末に死よりも少し愉しい旅を

さらに吉原洋一氏の組写真は、

   目覚めぎは僕はひとつの約束を胸に浮かべたまま山羊となる

そして高臣大介氏のガラス作品は、

   粉雪のひとつひとつが魚へと変はる濡れたる睫毛のうえへで

竹本英樹氏の写真は、

   歩き出さなくてはならぬかなしみを犬をからかってごまかしてるね

ふっとふり帰るように、追憶の中でそれぞれが見詰めているかのような
一瞬の切り取りが写真やガラス造形に結晶している。
そこに<永遠といふ青い週末>が、どこか共通してあるような気がした。
ガラスに溜まる光の翳、フイルムに遺された青い一瞬の犬の後足、渚の
霞む水平線と岸辺の縦と横に組み合わされた遠い約束のような浜辺の
風景。
これらが選ばれた一首とともに語りかけるものは、<目覚めぎは>の
ような夢の残像でもあろうか。
その界(さかい)の淡いに追憶の永遠が息づいて、会場全体に柔らかい
流れを創っている。
野上さんや藤谷さん、中嶋さんやアキタさんのような強力の作品では
ないけれど、これらの作品たちもまた今回の展示に美しい緊張感と空気
の流れを形象してくれたと感じている。

*山田航歌集「さよなら バグ・チルドレンをめぐる変奏」展ー3月31日まで。
 am11時ーpm7時。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2013-03-29 14:06 | Comments(0)
2013年 03月 28日

それぞれの時ー風の夢(19)

財布は落とす、風呂場で水道管に頭を打つ、と碌な事がない。
そんな時気になっていたウメダマサノリさんの作品の位置と
メタ佐藤さんの写真作品の位置を中嶋幸治さんとも相談して
場所を移動した。
ウメダさんの作品はより外光の射す2階西窓際に置く。
プラステイックのカプセルケースに入った蝋で固めた飛行機
のような造形が光に浮かび活きてきた。
メタ佐藤さんの作品は、少し奥まった白い台の上に置く。
するとこれも暗い画面が明瞭になって浮かぶ。
ウメダマサノリの選んだ一首は、

  旅行鳩絶滅までのものがたり父の書斎に残されてをり

この作家は死の相貌を凝視する傾向がある。
今回選んだ一首にもそれが窺われる。
<絶滅までのものがたり>というイメージであろうと思われる。
そして鳩に擬えた飛行機のプラモデルを蝋で固め、透明なカプ
セル内に収納している。
理科室の標本のように、透明なガラスやバルーン内に臓器のよう
な造形を装置するこの作家は、外光の存在が展示上大きな要素
となる。
光は生であり造形は死をイメージするその対比が、作品の見せ方
の命だと思えるからだ。
彼の作品は、光を取り込む事で作品に命が与えられる。
今回も2階西側の窓際に在る事で、作品に命が宿った気がするのだ。
西方の微妙に変化する陽射しが、作品を柔らかく抱いている。

メタ佐藤さんの選んだ一首は、

   真っ白なことばが波に還ってもこの国道は続いてほしい

荒涼とした草原にマネキンの白い顔が浮かぶ、モノクロームの幻想的
な写真である。
<真っ白なことば>という言葉に、この白い顔のマネキンが対応して
この写真をメタ佐藤さんは選んだのだろう。
過去の追憶が立ち上がりこちらを見ているような、喪った時間の形象
を暗く荒涼とした波打つ草原に白い顔をこちらに向けて立たす事で
一瞬心の凝視を見る者は経験する事となる。
写真ならではのこの仕掛けは、同時にウメダさんの透明なカプセル内
の白い蝋で固めた飛行機にも通じるものがある。
立体と平面の相違こそあれ、このふたつの作品には共通する白い固形
化した記憶の凝縮のようなものがある。
そしてともに光がこの白いイメージを死から救い出して、作品として浮上
させているようだ。

*山田航歌集「さよなら バグ・チルドレンをめぐる変奏」展ー3月31日(日)まで。
 am11時ーpm7時。
:野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)・中嶋幸治(造形)・藤谷康晴(絵画)・アキタ
 ヒデキ(写真・文)・森本めぐみ(造形)・高臣大介(ガラス)・久野志乃(絵画)・
 吉原洋一(写真)・メタ佐藤(写真)・森美千代(書)・竹本英樹(写真)・及川恒平
 (ソング)藤倉翼(写真)・河田雅文(映像)予定。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503 
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by kakiten | 2013-03-28 14:03 | Comments(0)
2013年 03月 27日

大人と子供ー風の夢・弥生(18)

K氏がお子さんの宥佳ちゃんを連れて来る。
今年4月小学校に入るという。
しばらく見ない間にすっかり大きくなって、早速梯子を
登り2階吹き抜け廻廊を走り出す。
奥の階段も利用して、独楽鼠のように階下へも降りて来て
さらにまた2階へと登りだす。
この繰り返しと、作品とのボデイランゲージが交互に重なる。
子供パワー全開である。
ちょうど来た秋元さなえさんも巻き込んでエンジン全開、
階段・梯子を上下する。
父上のK氏は手を離れて自由に飛び回っている宥佳ちゃんを
やれやれと安心して見ている。
この小さな女の子の強烈なパワーは、この後2時間程も休み
なく続く。
梯子・吹き抜け・廻廊・奥階段・作品・人と、子供の五体五感
すべてを刺激する楽しい秘密の世界が飽きる事無く満載なのだ。
2時間近く宥佳ちゃんに付き合った秋元さんも最後はさすがに
草臥れたようだったが、その終わりに宥佳ちゃんの放った一言
が傑作であった。

  ”あんた、男の子?”

20代前半の妙齢な女性としてこの一言は、かなりショックだった
のではないだろうか。

宥佳ちゃんと同じ年齢の頃やはりパワー全開で会場を跳び
廻っていたT氏のお子さんで結音ちゃんという女の子がいる。
今年小学校卒業で、4月中学生である。
この子が先日T氏とともに来て、卒業アルバムを見せてくれた。
その中に将来の夢と題して文集があった。
T氏が私に、読んでくれと言う。
それは将来小さな美術館で自分の個展をするという夢であった。
大きな美術館ではなく、小さな美術館でいろんな人と会って自分
の作品を見てもらうという夢が、一生懸命に理由を幾重にも重ねて
書かれていた。
ちょうど今の宥佳ちゃん位の時ここに初めて来て、同じように会場
中を走り回っていたのである。
それから何度もここに来て育んだ夢がこの小さな美術館で個展
という夢に卒業文集に顕われているのかと、思わず胸に来るもの
があった。
今回の「さよならバグ・チルドレンをめぐる変奏」展で大人たちは、
意識上でそれぞれ自分の世界を創りだしている。
しかし子供は全身を使って、その五体五感のすべてを解放させて
会場を走り回る。
しかしして、決して作品を疎かにしているわけではない。
むしろ非常に尊重し、遊びの道具立てとして柔らかくその周りを
楽しんで周回している。
彼らは意識よりも身体で感じている。
それが時とともに、結音ちゃんのようにやがて意識として夢を語る
ように美しく結実する。
それが小学6年生の将来不確かな夢として語られようと、間違いも
なくある時期ここに身体で全身で感じていた楽しさが容(かたち)と
なって記されたのだ。
これを読んだHさんが、一言呟いた。
これはコピーして飾っておいた方が良いわ、
そうだね、小さな賞状。
そして、楽しく遊ばせてくれたここすべての作品たちへの感謝状
だね・・。

今日も作品たちが静かにだが雄弁に白い空気の中に熱く沈んで
また全身全霊で受け止めてくれる大人・子供を、待っている。

*山田航歌集「さよなら バグ・チルドレンをめぐる変奏」展ー3月31日(日)
 まで。am11時ーpm7時。
:野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)・藤谷康晴(絵画)・中嶋幸治(造形)・
 アキタヒデキ(写真・文)・高臣大介(ガラス)・森本めぐみ(造形)・吉原洋一
 (写真)・久野志乃(絵画)・ウメダマサノリ(造形)・メタ砂糖(写真)・藤倉翼
 (写真)・竹本英樹(写真)森美千代(書)+及川恒平(ソング)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2013-03-27 13:08 | Comments(0)
2013年 03月 26日

林檎・蜜・光ー風の夢・弥生(17)

選んだ一首の一字一句を深く自分の世界に引き寄せ、自らの主題
として深く切り結ぶ佐々木恒雄、野上裕之、アキタヒデキ、藤谷康晴、
中嶋幸治のような作品もあれば、歌の保つ情景がそのまま絵画化し
造形化して感じられる作品もある。
しかしその両方ともが歌の原作者の意図はほとんど関係なく、本人
の保つ主題が展開されている作品がほとんどではある。            
例えば書の森美千代さんの作品。
その選んだ一首は

  掌のうへに熟れざる林檎投げ上げてまた掌にもどす木洩れ日の中

<熟れざる林檎>に自分の子供を暈ねこの書を描いたという。
しかしこの一首は、青いリンゴのような青春の鬱屈と倦怠を顕していて
子を思う母の心とは遠い処にある。
何故なら原作者は今だ独身であり、まだ20代にいる青年だからである。
しかしして、森さんの気持でこの一首を読めば、確かにこの熟れざる林檎
は、また我が子を掌に戻すような母の気持に読み取れてもくるのだ。
作品はもう作家から独立して、固有の世界を広げてゆく。
森本めぐみさんの実際に蜂蜜を入れた小さなカップ3点だけの造形作品

  世界といふ巨鳥の嘴を恐れつつぼくらは蜜を吸っては笑ふ

さらに氷海を描いて、水を主題としてきたテーマを歌に近付けた久野志乃
さんの絵画作品。

   粉と化す硝子ぼくらを傷つけるものが光を持つといふこと

森さんが林檎に我が子を見て書で顕したように、この女性ふたりにも共通する
のは一首に含まれる複数系の人称の共通性である。
<ぼくら>は<蜜を吸>い、<ぼくら>を<傷つける>という。
一方野上さん、アキタさんに代表されるように、男性は<わたし>という世界
に深く沈殿してゆく。
従って森さんが憂鬱や鬱屈を個的な一人称の世界に見ず、息子を想いその
関係性の中に林檎を見たのも、女性という精神性の為せる自然でもあったの
かも知れないと思うのだ。
まだ未婚の他のふたりが<ぼくら>と記された歌を選んだのも、やはりそこに
繋がる女性の精神性の故なのかも知れない。
そんな事もふっと感じたのである。

+山田航歌集「さよなら バグ・チルドレンっをめぐる変奏」展ー3月31日(日)
 am11時ーpm7時。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503





  
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by kakiten | 2013-03-26 14:24 | Comments(0)
2013年 03月 24日

鼎談とライブの夕ー風の夢・弥生(16)

昨夜は午後5時から田中綾さんと山田航さん及川恒平さんの鼎談と
その後及川恒平さんのソロライブがあった。
25人程が集り、狭い会場は熱気に包まれる。
田中綾氏は山田さんの大学院での先生でもあり、短歌批評の先輩
でもある。
またフォーク歌手の及川さんは、今回山田さんの歌集から5首を選
んでソングとしてこの日唄うという事だった。
最初に田中さんから短歌の側から種々評論されている山田航歌集の
批評文のコピーが会場に配られた。
その短歌界の批評軸と今展示中の各美術家、写真家の作品選択軸
の相違が先ずは主題となった。
特に原作者である山田さんの方から作者の想定した言葉の枠を超
えて、絵画が書が写真が造形が形象したものに新鮮な驚きを感じて
いる事が述べられた。
選んだ一首の一字一句の被写界深度が、個々の作家の生の現場に
深く垂鉛を降ろしてその作家固有の世界を表現しているからである。
歌に添って作品があるのではなく、ふたつの世界が一種のバトル、ス
パークするかのように、個々の作品が存在している。
その驚きとある種の喜びを率直に山田さんは語ったのだ。
通常よくある詩画展のような並列的な作品ではなく、ひとつの言葉に
触発された個々の制作の根っ子の処でそれぞれの作品が立ち上が
って表現されている。
その事に自らの作品でありながら、全然別の作品と出会っているよう
な幸せを語ったのだった。
私もまた今回の展示を見て、個々の作家の一番大切な主題が山田
さんの一首を選ぶ事で展開されているのを感じていた。
従って個々の作品評は、そのまま個々の作家論として非常に重要
な転機点としてみえていたからである。
こうして話は、それぞれのジャンルを超えて個々の生活の一番深い
処で語られるコアの場に垂鉛が降ろされていった。
話題となったのは、野上裕之さんの仮面作品と生、佐々木恒雄さん
の国境という直線、アキタヒデキさんの望郷と生命線、森美千代さん
の林檎と息子、中嶋幸治さんの指とタクトといった作品と言葉の深い
関係性についてであった。

その後及川恒平さんの柔らかな声が、山田さんの初期短歌を唄に変え
会場を満たした。
この歌の選択にも及川さんの選択があって、どの歌も他の作家と重なる
事はなかった。
鼎談とライブ終了後、何時になく饒舌で、何時になく沢山お酒を飲んで
いる幸せそうな山田航がいた。

*山田航歌集「さよなら バグ・チルドレンをめぐる変奏」展ー3月31日(日)
 まで。am11時ーpm7時:月曜定休。
 :野上裕之(彫刻)・藤谷康晴(絵画)・佐々木恒雄(絵画)・森本めぐみ(
 造形)・高臣大介(ガラス)・久野志乃(絵画)・吉原洋一(写真)・アキタ
 ヒデキ(写真・文)・ウメダマサノリ(造形)・森美千代(書)・中嶋幸治(造形)
 ・メタ佐藤(写真)・藤倉翼(写真)・竹本英樹(写真)・及川恒平(ソング)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2013-03-24 12:25 | Comments(0)
2013年 03月 22日

生命線を今夜ものぼるー風の夢・弥生(15)

<いつも石狩川を渡っていた>と、アキタヒデキは書いている。
小さい時の思い出である。
旭川で生まれ育った彼にとって、この川は特別な存在である。
川とそこに架かる橋。
その記憶を写真と文で構成した2点組の作品が展示された。
それは現在の風景ではなく、記憶に在る風景をそこに限りなく
近づくように写真は構成されている。
その意味でこの作品は写真家の写真作品というよりも、もっと
アキタヒデキ個人の写真を使った平面作品とでもいえる固有の
作品と思える。
中に記された数百の文字が、今はない風景を語って切々と一気
に読ませるからだ。
そして今回アキタヒデキが選んだ一首。

   またの名を望郷魚わがてのひらの生命線を今夜ものぼる

彼がこの歌に惹かれたのは、夜毎望郷という名の魚が掌の生命線を
遡るという、故郷から離れて暮らす現在を見詰めた故であろうか。
旭川と札幌という異国とまでもいえない程のこの距離が、どうしてそこ
まで望郷の念を起させるのか。
それは多分川の違いが、旭川と札幌にはあるからではないかと思う。
源流に近い旭川の石狩川の川幅と河口に近い札幌の石狩川の川幅
の違いがそれである。
この場合川を渡るという感覚が、大きく相違してくる。
アキタヒデキの渡って来た遠い記憶の河と橋には、河口近くの橋とは
違う親密感がある。
なにか秘密めいた親密な境として、川も橋もあると私には感じられる。
私の知ってる石狩川の橋とは、巨大なッブリッジであってそこは親密さ
とは程遠い小さな海の延長のようにある。
彼が語る石狩川と橋はもっと親密な境界のようにあって、尽きせぬ故里
の境界線のようにある。
一本の川、そこに架かる一本の橋がこのように深い親密感を保って
語られるように、私にはそんな記憶が存在しない。
平坦な石狩平野の真中の街中で生まれ育った人間にはそれがない。

人は人それぞれの故里の風景がある。
アキタヒデキが切々と語っている故里とは、川と橋の記憶が織り成す
遠い<里>・<郷>から離れた故(ゆえ)の物語である。
そして我々の時代とは、この<里>からも<郷>からも遠くなった、漂流
する<故(ゆえ)>の呟き、望郷、といった自らの足下のランドを見詰める
孤独な浮島のような時代の故(ゆえ)であるのか.

  わがてのひらの生命線を今夜ものぼる

この生命線を遡る魚とは、アキタヒデキ自身の<故地(ホームランド)>
の源流探求から発する魂の謂いと思える。

*山田航歌集「さよならバグ・チルドレンをめぐる変奏」展ー3月31日(日)まで。
 am11時ーpm7時;月曜定休。
:野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)・藤谷康晴(絵画)・アキタヒデキ(写真・
 文)・久野志乃(絵画)・高臣大介(ガラス)・森本めぐみ(造形)・吉原洋一(写真)
 ・中嶋幸治(造形・メタ佐藤(写真)・ウメダマサノリ(造形)・藤倉翼(写真)・竹本
 英樹(写真)森美千代(書)+及川恒平(ソング)
:鼎談・3月23日午後5時~田中綾×山田航×及川恒平。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
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by kakiten | 2013-03-22 14:37 | Comments(0)
2013年 03月 20日

タクトが沈む陽の方を指すー風の夢(14)

数年前ひとりの青年が青森・弘前から札幌へと移住して来た。
その時彼にはこの地の風の色がオレンジ色に感じた。
そして彼の最初のこの地での個展はその風がテーマとなった。
紙をオレンジ色に染め、柔らかく繊細なフォルムを創り、風を
形象化する。
中嶋幸治さんの造形の基本となるフォルムである。
やがて札幌で結婚をし、敬愛する音楽家のCDを初デザインする
事で封印していたもろもろの垣根を超える事があった。
そしてこの若い移住者の内なる何かが変化してきている事がある。
それが今回の作品に顕われている。
左手は風をスカーフのように掴み束ね、右手はタクトを握り前方に
向かい音を発しようとしている。
そうした造形を2階吹き抜け正面に飾ったのだ。
この作品の為に選んだ一首、

   楽器庫の隅に打ち捨てられているタクトが沈む陽の方を指す

<楽器庫の隅に打ち捨てられているタクト>とは、きっと中嶋さん
自身の移住者としての心の内なる位相そのものでもあっただろう
と思う。
同じ北国でありながら、津軽海峡を越えて感じた風土は明るい
オレンジ色の風をした異国である。
そして自分はかって音楽を望み今は美術にも首を突っ込んでいる。
近いけれど遠い津軽と札幌。
近いけど遠い音楽と美術。
そのどちらもが自分でありながら遠いものが内側に在る。
そんな移住者の心の葛藤がふっと解きほぐれた一瞬が今回の
作品に凝縮してある。
それが風を掴む指の形の造形に顕われている。
そして前を向いて突き出されたタクト。
このふたつの手の指のフォルムに中嶋幸治の今が集約されて
息づいている。
異郷の風を掴み、自ら声を発する心の位相を今やっと掴んだと
いうこの地に発する呼気の場のようなものを感じるからだ。
自らがもう風となってこの大地に触れたね、中嶋くん・・・。
それは君自身が新たな風土となって、生きてゆく事を指している・・。

*山田航歌集「バグ・チルドレンをめぐる変奏」展ー3月31日(日)まで。
 am11時ーpm7時:月曜定休。
:野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)・藤谷康晴(絵画)・中嶋幸治(造形)・
 アキタヒデキ(写真・文)・久野志乃(絵画)・森本めぐみ(造形)・高臣大介
 (ガラス)・ウメダマサノリ(造形)・吉原洋一(写真)・メタ佐藤(写真)・森
 美千代(書)・竹本英樹(写真)・藤倉翼(写真)+及川恒平(ソング)
:3月23日午後5時~鼎談:田中綾×山田航×及川恒平

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by kakiten | 2013-03-20 12:45 | Comments(0)
2013年 03月 19日

ひとり老狼はゆくー風の夢・弥生(13)

鮮やかな花模様の千代紙の台紙。
その上にある薄茶色の紙に丸筆で細かく描かれた荒涼とした線。
その中に、濃く黒い眼がふたつ開いている。
藤谷康晴さんの作品である。
花模様の千代紙は既製の市販のもので、それを台紙にして狼と
思える顔の両眼だけが細密な毛のような線の渦の中に明確に描
かれている。

  北方と呼ばれて永き地をひとり老狼はゆく無冠者として

この一首の保つ北の孤高なる老狼の生き方に、作家の心が反応
している。
この作品を見ていると、私は藤谷康晴の最初の個展を思い出す。
一番街のショッピングビル群から一切の看板・装飾物を排除し、
建物の構造体だけを細密に描いた作品である。
それも歩く人の眼の高さで構造体を切り、舗道と街路灯も含めた
眼の位置で繁華街のビル群を描いていたのだ。
建物を構成するパルコや三越といった情報は一切消えて、そこには
無機質なそれぞれの構造体だけが並列して描かれていた。
この都市から消費の衣装を剥ぎ取り、ただの無機質なビル構造体
として描き切る眼のテロともいうべき視点は、正に<無冠者・狼>の
眼とも思えるのである。
一般に市販されている千代紙、それは消費文明そのものを象徴する
花模様でもあり同時にその花模様と対峙するように無彩色に細かい
線が刻まれ真ん中に黒い両眼が開いているのである。
この眼は、藤谷康晴の絵画の眼そのものと思えるものだ。

 ひとり老狼はゆく無冠者として

藤谷さんは今だ老ではないけれど、間違いもなくひとりの<無冠なる狼>
としてこの一首に共震している。


*山田航歌集「さよなら バグ・チルドレンをめぐる変奏」展ー3月31日(日)
 まで。am11時ーpm7時:月曜定休。
:野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)・藤谷康晴(絵画)・中嶋幸治(造形)
 ・アキタヒデキ(写真・文)・森本めぐみ(造形)・高臣大介(ガラス)・久野
  志乃(絵画)・メタ佐藤(写真)・ウメダマサノリ(造形)・藤倉翼(写真)・森
  美千代(書)・竹本英樹(写真)+及川恒平(ソング)。
 :23日(土)午後5時~鼎談田中綾×山田航×及川恒平

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2013-03-19 13:30 | Comments(0)