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2011年 02月 27日

縁深まるーland・fall(7)

札幌の昆虫の昆テンポラリー展の企画したK氏が午後から来た。
ほぼ半日いた。
佐々木さんの海の絵が気に入ったようだ。
夕方電話が鳴る。
私が円山北町時代からお世話になっている
M歯科のS先生からの電話だった。
これから絵を見に行くからという。
S先生は佐々木さんと同郷の網走出身である。
甥っ子が佐々木さんと同じ船に乗っているという。
いつかその話を診療の時して、個展の時は必ず見に行くと約束していた。
間もなくS医師が見え、佐々木さんと笑顔で挨拶する。
ちょうど多くの人がいてゆっくり休んで頂く事が出来なかったが、
作品はすべてじっくりと見てくれた。
網走を離れ、札幌で歯科医を開いてからも時々故郷には帰っている
ようで、ふたりの話に網走の匂いがした。
閉廊時間を過ぎて、いい気持ちそうなK氏は大分お酒が回っている。
K氏の提案で結局居酒屋「ゆかり」へ向かう。
道東の匂いがまた濃くなる。
店主の宇田川洋さんは長年常呂、手伝っている古谷千鶴さんは北見紋別の
生まれである。
用事で少し遅れて来た千鶴さんが、着くなり目を円くして佐々木さんに聞く。
息子さんの名を出して、知っているかと問う。
え!と佐々木さんが吃驚する。
同じ学校の一年下の後輩だという。
しかも親しかったらしい。
初日から2度目の「ゆかり」訪問で縁が深まる。
宇田川さんが取っておきのシマエビの沖漬けを出してくれた。
漁師でも滅多に口に出来ない珍味である。
お酒が進む。
今回仕事に追われ個展のフライヤーを作らずに来た佐々木さんに、
宇田川さんが壁に直接佐々木恒雄のサインを書いてくれという。
何人かのサインが既に壁には書かれていた。
感激して佐々木さんが、壁にきっちりとサインを描いた。
佐々木恒雄展一週目の週末は、人の縁(ゆかり)の深まる一日だった。

人の縁が深まるように、作品の密度も深まっている。
濃い黒の太い線が輪郭を創っている。
この強い線は従来無かった線である。
海の澄んだ緑とライブハウスのオレンジの色調に濃い人影。
佐々木さんの札幌ー網走は往還しながら、表現の現在を深めつつ、
人生の今を深めている。

*佐々木恒雄展ー2月22日(火)-3月6日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2011-02-27 12:24 | Comments(0)
2011年 02月 26日

寒い朝ーland・fall(6)

白い朝が戻って来た。
うっすらと新雪が覆っている。
きりっと冷えて零下。
滑らないように気を付けて足を運ぶ。
西の山並みから、強い風が吹く。
時折り高いビル壁にぶつかり、突風となって落ちる。
帽子が飛びそうになり、慌てて押さえる。
少し前向きになって歩を進める。
いいね、この感じ。
宮の森の山裾に住んでいた頃、いつも通っていた小道があった。
その途中にどこよりも早く福寿草の咲く古びた一軒家の庭がある。
それを見るのが通勤で歩く春の楽しみのひとつだった。
最近その家近くに引っ越したSさんが訪ねて来る。
福寿草はまだだと言う。
私から聞いた話を思い出して、まだかなあと楽しみにしているという。
Sさんは新婚で、福寿草のような明るく愛らしい奥さんがいる。
今年の春はきっと、Sさんは両手に福寿草の花である。

2点並行して描いている佐々木さんの絵が大分完成に近付いてきた。
緑の海原を走る4艘の漁船。
海の向こうに、黒い陸地が広がる。
藻琴の丘。
奥さんの愛美さんが、この辺が家よ、という。
いつも朝船のエンジン音が聞こえるわ。

もう一点はライブハウスの内部と思える人と音声が満ちた空間。
緑をベースにオレンジの人影、音響設備が揺れている。
同じ明け方の時刻だが、海の時間と都会の時間である。
ふたつの午前4時。
佐々木恒雄の体験してきたふたつの明け方。
素直に今札幌の時も戻ってきている。
しかし前と同じではない。

奥さんの愛美さんが、人の居ない時ストレッチをしていいかと聞く。
そして床を雑巾で拭き、静かに体を動かす。
持参したアイヌの人たちの歌を流す。
暖かい歌声で、体が自然と和み動かしたくなる。
愛美さんの舞踏への血が動いている、と感じる。
僅かな時間だったが、この時ふたりの何かが再生している気がした。
網走・漁師・妻。
札幌・絵描き・舞踏。
ふたつともそれぞれにふたり。
ふたつの場所とふたりの時間が交錯して、
いい時間だったなあ。

*佐々木恒雄展ー2月22日(火)-3月6日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2011-02-26 11:59 | Comments(0)
2011年 02月 25日

三寒四温ーland・fall(5)

雪が降っている。
昨日の春の陽気は消え冬がまた覗く。
先日来廊した東京在住の写真家Rさんのブログrーphoto。
翌日佐々木さんの奥さん愛美さんが、このブログのフアンだったと聞く。
へ~え、と吃驚。
網走でずっと見ていたという。
Rさんが来た時愛美さんはいなくて、後で聞き残念がっていたという。
Rさんもきっとこの事を聞いたら喜ぶ事だろう。

岩見沢教育大の瀬戸くんが来る。
3月6日出発のニューヨーク行き。
パスポートが交付されたと、持って来る。
初のニューヨーク行き、目が輝いている。
釧路から出てこの1年、初尽くしの1年である。
♪瀬戸は日暮れて、大波小波~父さん、母さん大事にしてね~♪
と、冷やかして鼻歌を口ずさんだが世代の差、さっぱり受けなかった。

先日の野上裕之展の時赤ちゃんを連れて来た大久保さんが来る。
帯広から一時札幌へ来たので寄ったと言う。
早速先日撮った写真を見せる。
碧ちゃんがぬいぐるみのようで、可愛い。
この時ブログに一歳半と書いたが、8カ月の間違いだと指摘される。
女の子の年齢を多く間違えて失礼した。
初めて会った佐々木さんと大久保さんだが、実はムラギシで繋がって
いる。ともにムラギシの友人だったのだ。
ここでも、M要素が顔を出す。
それぞれのMで話が続く。

佐々木恒雄さんが2作目の作品に取り掛かっている。
暖かい暖色系の色彩が、緑をベースに
ライブハウスの一角のような空間に広がっている。
暖かい緑の海の青、そして都市の暖かい橙色。
火と水の暖かい色が出てきた。
激しさはなく、暖かな色彩である。
会期中4点ほど描けそうだという。

人と作品が交錯しつつ確かな時間が過ぎて、
佐々木恒雄展は4日目を迎える。

*佐々木恒雄展ー2月22日(火)-3月6日(日)
 am11時ーpm7時:月陽定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2011-02-25 12:04 | Comments(2)
2011年 02月 24日

春一番ーland・fall(4)

昼から春一番のような強風が吹き雪融けが進む。
東京在住の写真家Rさんが不意に来る。
実家は清華亭近くにあるという。
エルムゾーンに縁ある姫は、花屋さんのMさんとRさんとこれでふたり。
エルム・ハルニレは、アイヌの神話では火を伝えた姫という。
地下水位の高い処を好むハルニレは同時に火を生む樹でもある。
水と火。人間に大切なふたつを併せ保つこの樹は、天から降りた神と
結ばれ生活文化の創成神を生んだという。
佐々木さんの展示をゆっくりと見て、Rさんが写真を撮っていいかと聞く。
佐々木さんの許可とって、会場中を撮る。
気に入ったようだ。
待ち合わせていたというYさんも間もなく来て、ふたりで撮影が始った。
写真家ふたりで凄いなあ、と佐々木さんが歓声を上げた。
実家のお母さまから頼まれたと言って、「札幌・緑の運河エルムゾーンを
守る会」の署名をふたり分してくれる。
そして手作り料理の差し入れを頂く。
ふと以前大野一雄石狩河口公演の記録集を購入してくれたお礼にと思い、
DVDになったその時のライブ映像を見せてあげた。
最後まで食い入るように見てくれる。

 太陽は水であり、水は火にほかならぬことを、この時ほど強く体験させ
 られた時はない。
             -菱川善夫「地球が大野一雄に感動した日」ー
             「石狩河口公演記録集」(かりん舎刊)から

火と水を司るハルニレ姫には、これはなによりの映像であったと思う。
佐々木恒雄のオホーツク海に絵画、石狩河口の夕陽に踊る大野一雄。
ともに水が重要な要素である。そして陽・火。
エルム・ハルニレのアイヌ語名チ・キサ・ニ(我ら・こする・木)。
昔ハルニレの木片をこすって火を作ったところから出た名前。
北の檜(火の木)なのだ。

水と火に触発された訳でもないだろうが、2階吹き抜け奥で佐々木さんが
新作を描き出している。
春の海上のような緑の海が出てきた。
今までにない彩のある色である。
内側から輝いている。
舟が何艘か走っている。
新しい佐々木恒雄の海である。
札幌再上陸3日目。
何かが動いている。

*佐々木恒雄展ー2月22日(火)-3月6日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503 
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by kakiten | 2011-02-24 12:43 | Comments(0)
2011年 02月 23日

道東の夜ーland・fall(3)

佐々木恒雄さんが札幌にいた時、最初に下宿していた仲間が来る。
札幌再上陸の初日。
最初に来た人が、札幌初上陸の時の友人である。
その偶然というか必然というかが面白かった。
それから切れ目なく人が続き、初日は過ぎた。
最後に2年前1月沖縄に行き、今は札幌にいるチQさんが来る。
あの時佐々木さんは網走へ、チQさんは沖縄へと行く事を決め、
ここでふたり展をしたのだった。
今もその時ふたりで合作した絵画が談話室に飾ってある。
チQさんが帰った後歌人の山田航さん、教育大の瀬戸くんも帰り、
佐々木さん、愛美さんと閉廊後居酒屋ゆかりへと向かう。
店主の宇田川洋さんは、長く常呂の東大研究所にいた人である。
また手伝っている千鶴さんは北見紋別の出身の方である。
同じ道東に縁ある居酒屋を佐々木さん夫妻に紹介したかったのだ。
羅臼のホッケ、熊肉、鹿肉、鮭の山漬け等々。
道東の人と食物の匂いに、佐々木さん夫妻の初日の緊張が解け、
一気に寛いだ表情になる。
話は愛美さんの舞踏の事になり、会期中是非踊って欲しいという事に
なる。
以前舞踏をしていた時、ここでまたムラギシの話題が出る。
愛美さんの踊る姿をムラギシが映像に撮っていた話だ。
その映像は足ばかりで、当時足フェチと話題になったという。
私は最晩年の大野一雄を思い出していた。
病床で体は動かず手だけで踊っていたからである。
ムラギシはきっと愛美さんの踊りの足の表情の美しさに気付いていたのだ。
そう話をするとそれまで踊る事に色々否定的だった愛美さんの表情が動く。
漁師の妻に徹し舞踏の為の身体のケアを忘れていた生活から、ふっと
立ち上がるものがある。
見せるというよりも、自分自身の為に踊る。
漁師をしながらも、自分自身の為に絵を描く佐々木さんの今と、
愛美さんの舞踏への意欲とが、この時ふっと交叉して心に灯が点いた
気がした。
それぞれがそれぞれに自分らしくある事。
生活の枠の中でともすれば見失い勝ちな個の原点を、佐々木恒雄は
佐々木恒雄らしく佐々木恒雄であり、佐々木愛美さんは妻でありながら、
佐々木愛美さんらしく佐々木愛美さんである。
生活の慣れに埋没しない新鮮な個である事。
今回の個展の基奏低音にあるものである。
宇田川さんの店に来て、この事がふたりとの話の中で自然と出てきた。
網走から来て札幌で図らずも感じた道東の匂いがこの事を醸成したかも
知れない。
いい初日の夜だった。

*佐々木恒雄展ー2月22日(火)-3月6日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
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by kakiten | 2011-02-23 13:27 | Comments(0)
2011年 02月 22日

海上の色ーland・fall(2)

月曜日昼佐々木恒雄さん夫妻が来廊。
早速展示が始る。
まず最初に北の壁面に3点設置する。
中央に横30cm縦50cmほどの船上に立つ男の絵。
波濤が立ち上がり、長い漁の道具を手に持っている。
背後の空気は輝き、散光している。
朝漁に出た時暁光が射した瞬間の同僚の顔という。
左右に置かれた横33cm縦80cm程の大きさの2点は、
オホーツクの海と空気の色のようだ。
白と青だけの澄んで凍った色彩。
総数50点ほどの展示で、この3点の設置が中心となる。
さらに右に暁の射す海上から見た知床連山が広がり、
左奥に漁に出る前の番屋で打ち合わせる同僚の姿が置かれた。
この展示を見た時、今回個展をしてもらって良かったと正直思う。
海の上で生きる人間しか感じとれない、かつ漁に出て2年の今でしか
感じとれない、新鮮な風・空気・海の色だと思った。

概ね展示が終る頃、釧路のFさんが来た。
Fさんは2年前佐々木さん札幌最後の個展の時、
赤色の抽象作品「朱雀」を購入してくれた人である。
DMに使われたこの作品を見て、ここに初めて訪ねて来てくれた。
この時じっと作品に魅入っていた時の後姿が印象的であった。
今回もじっくり会場を見回った後、同じ後姿で北側にある3点をじっと見ていた。
この3点は一体ですね、と呟くように言う。
夜明け前の暗闇からやがて暁光を浴びて浮かんだ同僚の姿。
光る空気。
砕け飛ぶ波頭。
青と白の光が混合する海波、空気。
そこに立つ漁具「ハヤスケ」を持つ人。
左右に置かれた海と風の色がこの人を囲む空間を示唆する。
私は昨年陸から見たオホーツクの海を思い出していた。
しかしそれは、陸から見たオホーツク海である。
この波濤と空気感は海上でなければ見る事が出来得ないものだ。
Fさんはまだじっと見ている。
この後姿だ。2年前に見たものと同じだ。
Fさんが帰った後、その話を佐々木さんにした。
展示の日。
最初の人が前回札幌最後の個展に赤の作品を購入してくれたFさんだった。
その事に佐々木さんも感動している。
そしてあの時と同じ後姿で、今回の作品を見入ってくれた事を知り喜ぶ。

明けて今日が初日。
晴天の朝。
光が美しい。
爽やかな顔をして佐々木さん、愛美さんが来る。
昨夜は思いの外疲れて、ぐっすりと眠ったという。
今日からまた新作を描く2週間が始る。
この2年間の凝縮した、今にしか描けない色彩が顕われる事だろう。
一度離れて見えてくる故郷オホーツク、そしてサッポロ。
新鮮な再上陸である。

*佐々木恒雄展ー2月22日(火)-3月6日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
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by kakiten | 2011-02-22 12:29 | Comments(0)
2011年 02月 20日

網走を発つーland・fall(1)

昼過ぎ網走を発ったとの連絡がある。
佐々木恒雄さんからだ。
夕方遅くこちらに着くという。
会期中製作をしながら、会場に常駐の予定という。
2週間休みをとって、札幌再上陸である。
いいなあ、濃い2週間となる。
オホーツクの海から、石狩の野へland・fall(上陸・初認陸地)である。
land・fill(埋め立て式ゴミ廃棄場)とは正反対の行為だ。
短い2月・如月。
高臣大介さんの透明な氷柱の展示に始まり、
佐々木恒雄さんのオホーツクの流氷の匂いで終る。
その間捻挫・体調不良と散々な2月だった。
ここで燃えて頑張らないと、1年が不調に過ぎる。
1年でいちばん短いへそのような2月に力が抜けては拙いのだ。
昔から2・8は不景気と言う。
寒さのきつい時、暑さの厳しい時。それが2・8である。
人も内に篭もり勝ちの時である。
都市のインフラの整備で、暖房・冷房が効果を上げこうした季節感は
喪われつつあるかにも見える。
しかし基本は変わらない。
冬に疲れ、夏に疲れるのがこのふたつの月である。

佐々木恒雄さんの札幌再上陸・2週間の製作展示期間に
私は私なりの札幌再上陸・ランド(里)の再生を考えていこう。
ムラギシよ、
君とも親しく、君の追悼本を装画した佐々木恒雄の再上陸なのだ。

*佐々木恒雄展ー2月22日(火)-3月6日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
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by kakiten | 2011-02-20 13:22 | Comments(0)
2011年 02月 19日

雪の朝ー螺旋する時間(21)

夜半から朝にかけて雪が降ったのだろうか、昨日の雪泥の道は白。
白い季節が戻って来た。
冬の国。
季節にもランドがある。
先日吹雪のエルムゾーンを歩いて立ち寄った北大綜合博物館。
そのブックコーナーにムラギシの本が数冊積まれていた事を思い出した。
エルムランド・ムラギシランド。
人生もひとつのランドなのかも知れない。
そう22歳で死んだムラギシが教えてくれたような気がする。
風土の結晶した風景。
それが自然の囲繞した故里というなら、人間には生き方という
国(ランド)がある。
時代と関わり人と関わり、見えない国を創る。
村岸宏昭という一青年の短い生涯を、みんなで結集して纏めた一冊の本。
それもひとつの宇宙、生きた交流の世界、国(ランド)なのだ。
春楡の大木の残る森を歩きながら、そこに建つパイプオルガンのような石造の
建物の中で、ムラギシの本と出会ったのは偶然ではなかったのかも知れない。
人間と自然のふたつの国がある事を、黙って教示してくれたのかも知れない。
そして本来ふたつの国は別ちがたく関わってある事にも気付くのだ。

Sくんとムラギシと3人で発寒川を辿り歩いた事があった。
石狩まで辿り、そこである喫茶店に入った。
後に3人の中学生が来たみたい、とそこに勤めていたMさんが言っていた。
そうだ、あれはふたつのランドが交じり合った掛け替えのない時間だった。
自然の国と我々の時間の国を、ランドとして辿った小さな旅だった。
その後もう一度円山川源流にある不動の滝を歩いた事がある。
そこに朽ちていた白樺を素材に展覧会をして、2週間後ムラギシは
旅先の四国高知の鏡川で死ぬ。
その短い22年の人生こそが凝縮したランド(国)である。

死者を思う時、いつもそこには優れて結晶する国がある。
時代と関わり、人と関わり、泉の湧くような森がある。
父には父の、祖父には祖父の国がある。
その国(ランド)とは、その人固有の国であり、その固有性において
国(ランド)といえるのだ。
そしてそこを共有した時間だけが、残された者には記憶される。
もう戻る事は出来ない。

人は国境を知ることで、自らの国(ランド)を創る。
関わりながら、固有である事が宿命である。
この人間の国に比して自然の国は、広く大きい。
季節も風景も結晶して森羅万象を抱いて在る。

白い世界が戻って、冬の国がそんな事を教えてくれる。

*佐々木恒雄展ー2月22日(火)-3月6日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011ー737-5503
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by kakiten | 2011-02-19 12:44 | Comments(0)
2011年 02月 18日

雪泥の道ー螺旋する時間(20)

暖気が入り、雪融けが進んでいる。
雪泥の道。
歩く道は水溜りと緩んだ氷が交互に来て、気が抜けない。
斜めに滑るか思えば、ザクザクの雪泥。
少し傷んだ靴の爪先から水が染入る。
前ばかり見ていると、後から横から車が来る。
そういえば5年前同じ時期同じような道を歩いていた。
地盤地質図と古い街路図を鞄に入れ、見えない川跡を辿り、
見えない岸辺を歩いていた。里(ランド)を喪い漂流していた。
父祖の地を喪失してから、ずっとこの旅は続いている気が不図した。
自分の戻る里(ランド)はもう無いのだ。
故里(ふるさと)という里を喪って、その故里をランドと言い換えている。
<国敗れて山河あり>と昔の人は言った。
今は国も山河も埋め立てられて、ランドフイルの大地。
都市は塵芥処理場の延長線上にある。

東京にレジデンス事業で滞在中のSさんから便りがある。
同じレジデンスで知りあった沖縄の人がいつもムラギシのCDを
聞いていると知り吃驚したという。
ムラギシ追悼本を買い、そこに収録されているCDだという。
生前のムラギシをよく知るSさんは、初めて会った沖縄の人が
ムラギシを熱く語ってくれた事に感激して便りをくれたのだ。
朝雪泥の道を歩いて画廊に着きパソコンを開いてこの話を知った時、
里(ランド)を喪って萎えた私の心に、なにか灯かりが射した気がした。
ムラギシランドーサッポロランド。
こうして創っていくしかないのだ。
故里を透視するように、結晶するように<ランド(里)>として再生する。
それが私にとって、時にエルム(ハルニレ)ランドであり、それがサッポロ
ランドである。
不意にそんな熱い想いが湧き上がるのを押さえ切れなかった。

陸を離れオホーツクの海を里(ランド)とする、佐々木恒雄に聞きたい。
札幌を離れ尾道で海の船大工をする、野上裕之に聞きたい。
海からしかもう、里(ランド)は見えないのか。
石狩の野に生まれ、今もそこを彷徨うランドフイル都市に生きる自分を
ふたりに問いたい。
この寂しい雪泥の街とは何か。
源流の遠い滝。まだ咲かぬ渓谷のシラネアオイよ。
呼気・風と同義のmaw(まウ)・ハマナスの実の咲く砂丘の海よ。
そして呼気と吸気の間・里(ランド)よ。
国敗れて山河も無し。

雪泥の道とムラギシの便りは、私を激しく情念化させる。
サッポロランド、故里よ。

*佐々木恒雄展ー2月22日(火)-3月6日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。
 
 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8
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by kakiten | 2011-02-18 13:49 | Comments(0)
2011年 02月 17日

氷筍と流氷ー螺旋する時間(19)

氷の筍(たけのこ)が地下洞窟に「ニョロニョロ」と生えている新聞記事の
写真が目に付いた。
この間まで展示していた高臣大介展の記憶があったからである。
鍾乳洞ならぬ透明な氷柱の林立が不思議な美しさであった。
上からぶら下がる氷柱ではなく、下から生えている氷柱の列だ。
記事を読むと、
ー見学に訪れた洞爺湖町の自営業高臣大介さん(37)は
「素晴らしい美しさで感動しました」と盛んにカメラのシャッターを
切っていたーと、文中にある。
なんと本人そのものではないか。
別に自営業などとせず、ガラス作家と名乗れば良いものをと可笑しかった。
黒曜石に続き自然の洞窟に立つ透明な氷柱と、高臣大介の北。
自然のガラス発見は続いている。
昨日網走の佐々木恒雄さんと電話で話す。
今回の個展タイトルは無し。佐々木恒雄展でいくと言う。
何か納得するものがあった。
自分自身が今回はテーマなのだろうと思えるからだ。
多分自分自身も含めた人が主題となるのだろう。
早朝まだ日の昇らぬ海に船を出し、やがて日が射して振り返るとそこに
暁光を浴びた同僚の顔が素晴らしかった、と昨年聞いた事がある。
都会では経験した事ない、個人の顔である。
オホーツクの荒海で、生命を賭けた自然と向き合う職場。
そこに個々の人間の顔がくっきりと刻まれて見える。
この顔こそが今回の主題となる、そんな風に感じているからだ。
<顔ナシ>が、都会の風俗的顔である。
ブランド化した顔はあっても、それは個の顔ではない。
そんな都市風俗をデザインする生活を続けていた佐々木さんが今、
日々オホーツクの海で感じているものは、個の顔ではないのかと思う。
社会的には無名であっても、くっきりと生きている個の顔である。
それが暁光を浴びた同僚の顔だったという気がする。
流氷の季節の今、海へ出る漁もなく3回目を迎えた冬。
何かを持って集中してその画業を引っさげ再度の札幌上陸である。
心して立ち会いたく思うのだ。

図らずも続いた氷茸と流氷のふたつの便りが、霞んだ私の顔を少し
きりっと引き締めてくれた気がする。

*佐々木恒雄展ー2月22日(火)-3月6日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。
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by kakiten | 2011-02-17 12:28 | Comments(0)