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2010年 04月 30日

白い壁ー青き繁みに(1)

藤谷康晴さんが来て、吹き抜け壁の作品を消去する。
こうして彼の札幌発表最後の作品はこの壁で生まれ、
この壁に塗り篭められ消えた事になる。
私には心なしか、彼の顔が柔らかに見える。
終了後あまり言葉も交わさず、しばらく珈琲を飲み別れた。
音楽は、高臣大介さん愛聴の「STARTING OVER+エレフアントカシマシ」
♪さあ~頑張ろうぜ!と声が流れていた。
ロックは珍しいね、と藤谷さんが呟いていた。
壁にペンキを塗っている間、ケンちゃんの置いていったハイローズを流していた。
何故かこの日はロックだなあと思ったのだ。
サウンドとともに、言葉に元気があるからだ。
5月21日から始る大阪A&ADギヤラリーでの個展への門出である。
4年前テンポラリーとともに始まり、この札幌を出て行く門出である。
ふたつのスタートとしてこの場があった事を、誰よりも我々は理解していた。
だから札幌最後の作品が壁に直に描かれ、永遠にこの場に塗り篭められ
た事実も、無言と同じ意味があるのだ。
私は知っている限りの大阪・京都の友人・知人の住所を記し、彼に渡した。
未知の土地、未知の人たちに全力で作品を差し出すが良い。
春、旅立ちである。

濡れた地面がひたひたと音を立てる。
寒からず小雨。
朝、琴似街道を抜け円山へ。
古い街道の道幅が心地よい。
往時には馬車と人が行き交った道である。
南円山公設市場、通称なんまるに寄る。
野菜が豊富で、地物が多い。珍味もここ独自の仕入れルートが揃っている。
何を買う訳でもなく、季節を感じて一周する。
ここからさらに道は伸びて、もうひとつの市場、円山市場へと繋がるのだが、
そこはもう最近閉じてしまった。
市場を繋ぐ街道は市場を喪い、さらに寂れている。
地下鉄駅が主役となり、マダムやレデーイが集う円山クラスという名の
ショピングセンターが出来ている。
Class-階級・等級。
円山classとは、多分上級階層を暗黙に示唆するのだろう。
市場がクラスになり、なにが変わったのか。
歩く道から、車の道へ。それだけは間違いない。
もし近代と現代の界(さかい)があるとしたなら、そこには間違いもなく
車の存在がある。車とは同時にガソリン・石油エネルギーの事でもある。
馬力から石油力へ。
インフラとしては進歩であり、発展なのだが、そこで喪失していくものは
なんと人間的で固有性に満ちた世界であるのか。
道も物も人も、地物の土の顔をしているから。
円山村が円山クラスとなって、タワー系のマンシヨン群の街となり、
市場が消え、街道も忘れられた寂れた路地となった。
道の界(さかい)は消え、街道は朽ち、消去されてゆく。
利便性万能の量数収納ビル群が空を直線で覆い、
界(さかい)は線引きとなる。
クラスで分離されるのだ。
しかし忘れてはならない。
白く塗り篭められた見えない沈黙が、この街、道にも存在する事を。

我々ができ得る唯一の事は、その記憶を奪還する事である。
これは懐古ではない。回顧でもない。
それは見えない界(さかい)を、時間の保水力として満たす事である。
その事においてしか、産業経済軸の過剰なるインフラに対峙する軸心はない。

藤谷康晴さんの遺した白い壁に向かい、そんな事を思っていた。

*「交差線」4人展ー5月18日(火)-23日(日)
*阿部守展ー6月1日(火)-13日(日)
*西牧浩一展ー6月18日(金)-20日(日)
*「三角写場(仮題)」3人展ー6月22日(火)-7月4日(日)
*イシマルアキコ展ー7月6日(火)-11日(日)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2010-04-30 13:57 | Comments(2)
2010年 04月 29日

濃き紅(くれない)やー早春賦(21)

山の肌が赤みを増している。
南風強く、雨模様の朝。
歩いていて、ふと「都ぞ 弥生」の一節が浮かんだ。

 尽きせぬ奢(おご)りに濃き紅(くれない)や
 その春暮れては移ろう色の
 夢こそひと時青き繁みに
 燃えなん我胸想いを載せて

<濃き紅(くれない)>を連想していたのだ。
運河の全面保存に命をかけ、倒れて半身不随となり、不自由な右手に
絵筆を括り付け、真っ赤な運河を描いた小樽人がいたという。
この話を思い出すとき、いつも心に忸怩たる想いがこみあがる。
<赤><紅(くれない)><朱>。
「南半球舟行」を書いた早川禎治さんは、

 ここでは白は赤をへずして、いきなり青となる。
 それはすでにこの地が人間が介在すべきでない空間であること
 を意味しないか。

と、南極の氷海で<赤>の不在の意味を問うている。
<赤は>命の色なのだと思う。
今の時期、山笑うという。白と黒の世界から、梢が芽吹き赤味を増し、
モノクロームの世界が揺らぎだす。
命の赤が山に微笑みを与えているのだ。
濃き紅(くれない)とは、濃き命の事である。
再び遠くへと記憶が飛ぶ。
真っ赤なブレザーを着て、寂れた下宿を訪れた恋人の記憶だ。
あの鮮烈な赤を今も忘れない。
男が鎧のように着込んだ百のイデオロギーも理屈も、
<赤>には敵わない。
<赤を経ずして、いきなり青となる>。
若年の青臭い白い観念の世界にいたからだ。
<夢こそひと時青き繁みに>
今なら見えるものもある。

やはり季節はもう春なのだ。
沸々と湧き上がる何かがある。

*「交差線」-5月18日(火)-23日(日)
*阿部守展ー6月1日(火)-13日(日)
*西牧浩一展ー6月18日(金)-20日(日)

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by kakiten | 2010-04-29 11:46 | Comments(0)
2010年 04月 28日

夢こそひと時ー早春賦(20)

次回展示予定の4人展「交差線」のふたりが、フライヤーを持参する。
日付の誤りを訂正した後、展示前に琴似川、円山川散策を提案。
4人それぞれが札幌外の出身で、今は市内の学校近くに住んでいる。
そこから歩き出して、ふたつの川の流域を源流へと歩くものだ。
地形としての札幌に体で触れる。
川は人体でいうと血管である。
都市化の肉に埋もれて、その血管は途切れ、途切れ、
暗渠化し排水路化しながらも続いている。
さらには新川と名付けられ、新道のように直線に切り換えられて、
本来の川筋は消去されてもいる。
しかし山に近付くにしたがって、その谷間を毛細血管のように枝川が
森の斜面を走っている。
4人展の初めての共同行為。それが歩く事である。
遅い春。地面にはまだ雪融け後の土が濡れているだろう。
フキノトウが薄緑の蕾を持ち上げているだろう。
運がよければ、森蔭にエゾエンゴサクが星のような青い花を
散らしている。
市街地の直線路を歩き透み、見えない川の血管を辿れば、
もうひとつの札幌が見えてくる。
普段の学校の位相が、別の位相へと転換する。
その歩行の過程に、現代と近代と自然を貫く縦軸の旅がある。
4人のテーマ「交差線」の為のトレッキングである。
そんな話をしていると、コトリさんが来て2階吹き抜けに上がり、
藤谷康晴さんの壁画を見て熱心に写真を撮っている。
昨日のブログを読み、もう一度見たくなったのだという。

今日かりん舎の坪井さんと高橋さんが来る。
淺野由美子さんの木版画集を出版した関係で、その原画展のあった
帯広へ行ってきたという。
その会場に梅田マサノリさんが来て、ムラギシの本を出版したかりん舎を
記憶していてくれ賞賛してくれたと嬉しそうだった。
生前のムラギシに未知の人がこうして、本を通して友情を示してくれた事に
かりん舎のふたりはとても喜んでいた。
その報告ということだろうか、訪ねて来てくれたのだ。
ふと思いついて、これも生前のムラギシを知らない有山睦さんが演奏した
ムラギシの曲「撓む指は羽根」の録音を聞かせる。
昨年暮モエレ沼ガラスのピラミッド内で演奏されたものである。
CDをかけると沈黙が訪れ、曲が終ると同時にふたりの拍手が鳴り響いた。
感激したという。
こういう形で繋がるのは、本当に嬉しいという。
是非ダビングしたいという。
私も実は二人と一緒に聞いていて、胸が熱くなるのを覚えていたのだ。
久し振りに聞いた有山さんたちの演奏が胸に沁みていた。
これはひとつには、ムラギシの本を出したかりん舎のふたりと聞いた所為
だと思う。
音楽は、一緒に聞く人が違うと違うものである。
音は人の心を通して、人の心に増幅する。
ムラギシの死後、彼のお母さまと一緒に、未知の青年の心を真摯に読み取り
本に結実させた、出版社のふたりとならではの時間だった。
このふたりの拍手は、正に千金の価値の拍手であった。
有山さんたちの演奏もふたりの本の出版も、同じ死者への愛があった。
否、死者とはいうな。
ひたむきな生への友情である。
そこに生死の区別はない。既知・未知の区別もない。
あるのは、ともにひたむきな生への共感と思える。
ムラギシの曲は、こうして再びかりん舎のふたりへと拍手で還元されたのだ。
有山睦さん、あなたたちの演奏のその後のささやかなご報告です。

Mよ、君も一緒に聞いていてくれただろうか。

*「交差線」4人展ー5月18日(火)-23日(日)
*阿部守展ー6月1日(火)-13日(日)

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by kakiten | 2010-04-28 17:18 | Comments(4)
2010年 04月 27日

藤谷康晴展最終章ー早春賦(19)

乾いた路面に、梢がくっきりと銅板画のように映っている。
陽光は日に日に高く、陽射しは確実にその強さを増している。
藤谷康晴展終る。
最終日額装の作品を片づけた後、吹き抜けの直描きだけが残る。
白い壁に黒の描線が、美しい。
”自分で描いたものではないみたいだ・・”と藤谷さんが呟いた。
何もなくなった白い会場に、黒い描線と青一色の円が映えている。
現像から定着だね、と写真の暗室のように感じて応えた。
2週間の会期中、ここで描かれた作品は、ここに定着したかのようである。
今週末この絵は消去される。
初の大阪個展を前にして、この場で徹夜で仕上げた直描きの作品は
いい旅立ちを予感させるものだ。
<SAPPORO→>をタイトルにした真の意味は、この場にこそある。
そして最終日、ここで仕上げた作品だけになった瞬間、
その意味が朝の路面の梢の翳のように、くっきりと映し出されてあったのだ。
ひとりの作家の出立に、間違いもなく立ち会っているという実感である。
これが本当の藤谷康晴展である。
何もない空間に現代の障壁画のように作品がある。
飛天図のように、黒の描線が踊っている。
会期が終って、本当の展示が始っている。
あと二日だけの贅沢な空間である。
4年前この空間が立ち上がり、この空間とともに歩んだ藤谷康晴の
多分これは最後のSAPPOROオマージュでもあるだろう。
これまで描かれた額装作品がすべて消え、純粋にこの場で直に描かれた
作品だけになった時、その思いが強く印されているのだ。
偶然という姿で、今ここにある時間は必然のようである。
絵画のテロリスト藤谷康晴は、最後にここで纏いつく札幌を切り去ったのだ。
そう思う。
そして、札幌ー東京という米国型現代から、日本の欧州でもある関西へと
旅立つ必然性も、この壁画からは匂い立つようである。

連休の続く来週は展示なく、歩行と思索の時間となる。

*「交差線」4人展ー5月中旬~
*阿部守展ー6月1日(火)ー13日(日)

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by kakiten | 2010-04-27 12:28 | Comments(3)
2010年 04月 25日

昆虫レクチャーー早春賦(18)

手稲山山稜が豊かに大きく、白く輝いている。
北18条通を西に抜ける広い道。
こうして見ると、山が目印のように町がある。
円山、三角山、藻岩山。その麓に人の集落が形成されてある。
風景と人の営みが、有機的に繋がっている。
それを近代というのだろうか。
現代は、その回路をズタズタに天地に切り裂いている。

昨日第二回目の昆・テンポラリーの会合がある。
昆虫学者木野田君公氏のスライドを使った昆虫の歴史と見分け方の
基礎的レクチャーである。
私は藤谷展来客でほとんど見れなかったが、後半地層との関係性から
昆虫の生態を話したあたりは、充分に興味深かった。
地層や地形の変動、変化と、昆虫の生態系が密接にある事は言われて当然
とは思うが、私には新鮮な事実だった。
川の方のアクセスから地層・地質図は調べていたが、昆虫の方からの
アクセスと共通する過程が面白かったのだ。
植物・昆虫・川が地形・地質と有機的な繋がるのは、あまりにも当然の事
ではあるが、自分の関心事に囚われると、そこに隘路があるからだ。
昆虫先生も同じように感じたらしく、私が札幌の地盤地質図を見せ。
川の話をすると一瞬顔が紅潮したように見えた。
さらに、夕張を源流とする阿野呂川、馬追のアイヌ語解釈を披露すると
その感はさらに深まった。
あン・ルルー山向こうの海辺。まウー呼気・風・ハマナスの果実。
今は内陸の夕張地方に海岸を表わすアイヌの古語がある。
それは古い地形・地質を同時に顕してもいる。
その地質と昆虫の生態系分布は一致するのである。
学名にサッポロの付いている昆虫も多々あるようだが、その固有種に
拘ることなく、とにかく地域に生息している様々な昆虫を知りたい。
その事でみんなの意見は一致した。
札幌といってもそれは石狩地方のひとつである。
ゾーンとして有機的に広がる世界を、昆虫の回路を通して見たいのだ。
地層・地質の観点から昆虫世界を見ることも、大きな昆・テンポラリー
である。
3時間近くに及ぶレクチャーは、和気あいあいとして楽しいものだった。
集った4人が何故か同じKで始る頭文字の人たちで、
これにケンちゃんこと谷口顕一郎さんも加われば、5Kとなる。
さらに昆虫のKも加わり、これはもうKの会だと思った。

夕刻久し振りの對馬千恵さん、芽室からわざわざ藤谷展を見に来た
長谷敏幸さんと、ふたりからは美味な差し入れも頂き、嬉しい一日だった。

*藤谷康晴展「ANALOG FLIGHT SAPPPRO→」-25日まで。
 am11時ーpm7時。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
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by kakiten | 2010-04-25 12:16 | Comments(0)
2010年 04月 24日

時の交差点ー早春賦(17)

佐佐木方斎さんが来る。
今年新作を発表してもらう予定だが、最近顔を見せないので
気になっていた。
ちょうど仕事を終えて来た藤谷さんに、佐佐木さんを紹介する。
一度佐佐木さんには、ちらっと会っているという。
しかしこうして佐佐木さんと話すのは初めてだ。
思い立って、佐佐木方斎3部作「格子群」「余剰群」「自由群」を
藤谷さんに見せる。
これ以上ないと思える位じっと集中して一点ずつ藤谷さんが見ている。
するとふっと思い出す事があった。
2006年8月に佐佐木芳斎の「格子群」を展示した時、その展示を手伝って
くれたのが、藤谷さんだったのだ。
そしてその会期中にムラギシが死んだ。
ムラギシ、藤谷、佐佐木と展覧会が連続した年の夏であった。
その頃佐佐木さんはまだベッドに寝たままのような生活で、当然会場には
一度も姿を現さなかった。
藤谷さんがちらっと佐佐木さんに会ったのは、この後の事である。
本人とゆっくり話し、じっくり作品を見るのは初めてである。
藤谷さんの作品を佐佐木さんが見るのも初めてと思う。
しかし彼らは、実は4年前の夏に交錯していたのだ。
あらためてふたりにその話をした。
都市の無機質な構造を細密に切り裂き、凝視する藤谷さんの初期作品と
佐佐木さんの削ぎ落とした直線の「格子群」は、都市への視座において
ある共通性がある。
数学畑出身の佐佐木さんの純粋抽象に対し、藤谷さんはより具象的で
情念的な展開となるのだが、その相違は相違として、互いに惹かれる
要素があるのだ。
作品集をすべて見終わった後藤谷さんに感想を聞くと、「格子群」が
やはり一番好きだと応えた。
この時電話が鳴る。東京M美術館の正木基さんからだった。
昨年暮の「’文化’資源としての<炭鉱>展」の資料を近々送るとの事だった。
今佐佐木方斎がいるよ、と伝えると代わってという。
彼らは’80年代のある時期「美術ノート」の編集をともにした友人である。
しばし電話でふたりの会話が続いた。
偶然とはいえ滅多にない良いタイミングだった。
時間とは不思議である。
砂時計のようにさらさらと、ただただ流れる時間もあれば、
ふっと立ち止って交錯する時空もある。
時の流れは時に逆流し、沸騰する。
死者もちらりと顔を出したりして。
閉廊後佐佐木方斎と軽くビールを飲んで別れた。

藤谷康晴展もあと二日。
小さな再会、出会いを重ね、関西大阪での来月個展へ続く。

*藤谷康晴展「ANALOG FLIGHT SAPPORO→」
 4月25日(日)まで。am11時ーpm7時。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2010-04-24 12:14 | Comments(0)
2010年 04月 23日

心の手が伸びて、ハイタッチー早春賦(16)

沖縄の豊平ヨシオさんから電話が来る。
N氏が不意に札幌から訪ねてきたという。
毎年のように今頃沖縄を訪ねるN氏とは、昨年私も一緒に行ったのだが、
豊平さんはあまりN氏を好いてはいないようだ。
アイヌ的生き方を実践しようとしているN氏と、沖縄人としてその哀を深く
刻み込んだ作品を創り続けている豊平さんとは、どこかで微妙に
ずれている。それは、生きている<哀>の位相が違うからと思う。
その後息子さんの話になり、海外にいる息子さんに村岸宏昭遺稿集を
送ったら、返事がメールで来たと、その内容を読んでくれる。
同じ世代の人間として、全部は分らないが心に響くものをいろんなページから
読み取っているというような内容だった。
何度も読んで大切に読み込む息子さんの気持ちが、豊平さんの文面を読む
声にも溢れていて、嬉しかった。
アマゾンを経由して5冊取り寄せ、これはと思う人たちに贈呈していると
豊平さんから以前聞いてはいたが、こうして実際にその反応を声に出して
聞かせて頂き感激である。
ムラギシは、こうして未知の人の心に今も存在して生きている。
本という媒体、CDという媒体は、過ぎ去る時間を結晶し、今に留める。
今年よりも来年夏来て下さいと豊平さんの要望がある。
その頃には今制作中の作品群は、より一層完成度を増している
からとの事だった。
昨年2月、ただそれだけの為に半日アトリエにお邪魔した。
青一色の地に縦の亀裂の入った百を超える作品群の、強烈な哀は
忘れ得ぬものがある。
遺言のようにこの作品群を黙々と創り続けている豊平さんの真心を感じ、
再び訪れる日を楽しみに、心して待つ事にする。
それまでお互いに生き延びましょうといって、電話は終った。

ドイツ在住の谷口顕一郎さんから、メールが届く。
秋の札幌個展の日程と昆・テンポラリー展の参加の意向である。
是非デッサンで参加したいという。
前回ここでの個展で甲虫の大きな絵を展示していた彼は、
やはり虫好きだったのだ。
森本めぐみさんの落花生と指の素描にも大いなる関心を示していたが、
彼女に会う事も楽しみにしていると書かれていた。
大学入学時のムラギシを最初に見出し、私に紹介したのも谷口さんである。
彼はそうした人間に対する臭覚に優れたものがある。
今年秋の谷口展、昆・テンポラリー展は面白い出会いの時となるだろう。

人が人と会う。その事に作品の存在が純粋媒介として存在する。
ただただ過ぎ去ってゆく時間は、この時結晶して有機的な超空間となる。
死者も、遠い場所も、時間さえも超える。
生きていて勇気をもらうのは、そうした時があるからである。

心の手が伸びて、心にハイタッチ。
豊平さん、ケンちゃん、ありがとう。
Mよ、そうだろう?

*藤谷康晴展「ANALOG FLIGHT SAPPORO→」4月25日(日)まで。
 am11時ーpm7時。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
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by kakiten | 2010-04-23 12:10 | Comments(2)
2010年 04月 22日

関西往還ー早春賦(15)

唐牛幸史さんが来る。
タンクに湧き水がそろそろなくなって、水汲みをお願いする。
風もあり、冷たい小雨降る昨日。
訪れる人も少なく、静かな日だった。
初めて会う藤谷さんと唐牛さんが話す。
唐牛さんは、京都のお寺の天井画や襖絵の話をする。
作品の大きさについてである。
額縁に入れて飾るのは、いわば西洋近代の影響である。
画はもっと部屋全体、時に伽藍全体に在る。
画だけではない。仏像もまた、伽藍全体に包まれ存する。
西洋でも教会やお城には、建物全体に音も絵画も彫刻も存在する。
近代以前には洋の東西を問わず、そうした空間に美術・芸術が存在した。
藤谷さんの二階吹き抜け上部に直接描いた絵と、一階壁に架けられた
額入りの絵画とのある種の分裂は、その所為かとなんとなく納得する。
額入りの絵画は近寄って微細に見ると、まことに多くの要素を含んだ曼陀羅
である。これがもっと大きな画面で壁いっぱいにあれば、階上の直描きの
ドローイングともっと響きあう。
額の中に納めることで、作品の保つ密度は内向きに抑制されている。
関西生活の先輩でもある唐牛さんの指摘は、私の中の今回少しもやっと
した藤谷康晴展を、明確なものにしてくれた。
額入りの小品のは別にして、今回展示した大きな4作品はその密度から
いっても額を超えて存在する力を秘めているからだ。
2年前モエレ沼公園ガラスのピラミッド内で、床一面のライブドローイングを
した藤谷さんには潜在的にもっと大きな広い空間で勝負できる力があるのだ。
かって一番街200m両側の建物を、無彩色に切り取った作家である。
この時の展示は、階上鴨居の位置にぐるりと下から俯瞰するように展示し、
額縁はなかったのだ。
次の5月大阪展へのいいヒントを藤谷さんは唐牛さんから頂いた気がする。
都市風景への憎悪とも、テロとも思える切り裂くような凝視の描線。
その内に篭る情念が熱くメラメラと溢れ、都市の無機質な壁を突き破って
情念の曼陀羅のように絵画に定着してきた藤谷絵画は、現代都市の向こう
近代とそれ以前の世界を多分関西で見詰め大きな転機を迎える事だろう。
金沢、京都、メキシコと世界を渡り歩いて生きてきた札幌生れの唐牛さんと、
これから初の道外個展を迎える藤谷さんとは、行く人、戻る人の交差が
昨日の会話で随所に交錯し、いい時間が過ぎた。
離れて見える北のナイーブな自然。そしてその自然とまるで違う歴史の風景。
その時自らの立ち位置が、明瞭に意識される。
藤谷さんの心の額縁が外れて、何かが始まる予感がする。

冷たい小雨降る藤谷康晴展第二週2日目。いい出会いであった。

*藤谷康晴展「ANALOG FLIGHT SAPPORO→」
 4月25日(日)まで。am11時ーpm7時。

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by kakiten | 2010-04-22 12:14 | Comments(0)
2010年 04月 21日

冷たい雨ー早春賦(14)

冷たい小雨が降る。
三寒四温というが、このところ四寒三温だ。
寒さのほうが先行している。
小さな粒の雨の中、帽子を被り歩く。
傘より帽子が良い。手が自由である。
足は快調に、濡れた舗道をキック、キック。
ドンクでパンを買い、リユックに入れる。
お昼の分と明朝の為のフランスパン。
紅茶とミニトマトに胡椒・オリーブオイル、ブロッコリー、ソーセージ。
これが朝の定番。
毎日で時に飽きるが、前夜の仕込みが日課である。
画家の八木保次さんの影響で、もう大分以前からフランスパン党になる。
山岳画家の熊谷カヤさんもそうだった。
いつだったかパリに行った友人が、お土産といってフランスパンを
買って来てくれた。
もう幾日も経っていて、カンカラカンに固くなっていた。
気持ちは嬉しかったが、実用的ではない。
机の角に打ち付けると、ぽっきりと折れて砕けた。
やはり焼きたてでないと、ご飯と同じでいただけない。

朝食には紅茶だが、仕事始めは断然珈琲がいい。
S君やK氏の好意で運んでもらう、藻岩山麓の湧き水を使い
熱い珈琲を淹れる。
後味がすっきりとして、苦味とともにさあやるぞ、という気持ちになる。
朝はこのふたつを頭に浮かべると、がばっと起き上がる。
眠気で鈍っている頭も食欲が目を覚ましてくれる。
単純な性分。
足下をパン屑だらけにして、時にじゃりじゃりと踏んで気付く。
死んだ女房殿が、いつもそこに布を敷いていた理由が分る。
あいつはいつも食パンだった。
居なくなって分かる事も多々ある。
だからいつも仏壇には頭を下げる。
父、母、祖父、祖母、その他懐かしい人たち。
Mよ、Iよ。

自転車は置いて、冷たい小雨の中歩く。
快調に今日は歩行通勤。
宮の森琴似川右岸の古い通り、赤坂通を先祖にもつ赤坂真一郎さん。
建築家の彼の新しい家が出来たと通知がきていた。
沢沿いの奥まった谷合の一軒家らしい。
幌見峠の下の円山川源流域である。
界川枝沢傍のAギヤラリーも彼の設計だが、この細長い沢に沿った
造りは正に現代の赤坂通と指摘したら、驚いて喜んでいた。
そしてとうとう自分の家もそうしたロケーシヨンに造ってしまったのだ。
5月末に一度緑豊かになる頃来て下さいとメールがある。
その時はふたりで麓から赤坂通を抜けて、歩いて行きたいと思う。
ご先祖様の道を通って、札幌原風景をトランスペアレントしたい。
歩くとは祈りにも似ている。
触れて、触って、感謝して、感動して、キラキラ歩く。
五感解放。いい気持ち。
そして食すのがいい。

5月シラネアオイに会いに行く。
藤谷康晴展二週目突入である。

*藤谷康晴展「ANALOG FLIGHT SAPPORO→」
 4月25日(日)まで。am11時ーpm7時。

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by kakiten | 2010-04-21 12:39 | Comments(0)
2010年 04月 20日

シャバ・娑婆・写場ー早春賦(13)

藤谷康晴展一週目の最後の日曜日。多種多様に人が渦巻く。
みんな勝手に会場で思い思いに浮遊・浮浪していた。
秋、昆・テンポラリー展の為会場イメージ造りに余念のない熊さんは、
ノート片手に会場の隅々をチェック。
歌人の山田航さんは、例によってふいっと唐突な昆虫的動きで会場を浮歩。
帯広から来た美術家梅田正則さんと人形作家の伽井丹弥さんは、
前夜の疲れか、椅子に座り静か。
岩見沢から来た秋元さなえさんは、じっくり一点ずつ作品鑑賞。
そして友人と来た宍戸優香莉さんたちは、2階吹き抜けに腰を下ろし
足をぶらぶらしながら、なにやら歓談中。
さらに久し振りに秋田ヒデキさんが来た。
それぞれが話し合ったり、ひとりになったりと、人の交流の曼陀羅状態である。
最後は藤谷さんと帯広組と秋田君と4人になり、焼き鳥屋でお開き。
秋田君のヴェトナム体験の話が面白かった。
寡黙な藤谷さんも珍しくお酒を飲んで笑顔。
50何人かの大規模展、会場も近代美術館、芸術の森、彫刻美術館と
3大会場の立体の彫刻展とやらに参加する梅田さんは、体調悪く
元気がない。
伽井さんも某グループ展に今春参加とかで、昨夜打ち合わせとの事だが
今日は今ひとつ体調悪そうである。
藤谷さん、秋田さんから良い気を貰ったのか、飲んでいる内に元気になった。
てんでばらばらに集って、てんでばらばらにそれぞれが、気を発する。
それが一番いい。
その気が人を元気にしてくれる。
見えない磁場がある。
藤谷作品を無視している訳ではない。
その周囲を熱く周って、自分の事を感じている。
ある意味触発され、自分の内に入っているのだ。
6月末予定の秋田ヒデキ、竹本英樹、メタ佐藤の写真家3人展は
三角というタイトルという。
さらにこの三角に写場を加えてはと提案する。
<三角写場>。
この<写場>は、シャバ、娑婆でもある。
藤谷展一週目の日曜日は、正に写場、娑婆、シャバのようであったから。
そんな言葉が浮かんだのだ。

*藤谷康晴展「ANALOG FLIGHT SAPPORO→」
 4月13日(火)-25日(日)am11時ーpm7時。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2010-04-20 14:06 | Comments(0)