2008年 10月 25日
閉廊後、中岡さんと岡部昌生展を見に行く。CAI02、大通り西5丁目昭和ビル地 下2階。かってよく通ったビルである。名前のとおり早い時期に建てられた古いビ ルだ。7階にK会計事務所があり、決算の時期月々の資料等相談によく訪ねた。 地下1階は飲み屋を主とする飲食店街で、そこを突き抜け奥の階段をさらに地下 2階に下りる。古いビルはみなそうだが、当時地下2階は構造的に共有部分として 設計され、ボイラー室機械室倉庫に使われていた。地下街直結の店舗部分は想 定されていなかった場所だ。その為現在の地下街路からは一度上り、また下って 地下2階に入らなければならない。地下街・地下鉄の整備とともにビルのオーナー にとっては、鬼っ子のような場所だった。テナントを入れることの出来ない損を勘定 したからである。そこを消防法もクリアーしてテナントが入れば、こんなに目出度い 事はない。都心という立地と、経済のメリツトが一致してこの場がある。 何故こんな事を前段に書くかというと、場に対する土壌をまず分析したいからだ。 ビルという箱は、テナントを外から埋める事で成立するハコモノ経済の装置である 。内側から萌える文化の土壌とは別の土壌にある。 地下の店舗群を抜け、さらに地下へと下り左側の大きめの部屋にヒロシマを主題と する岡部昌生の展示がある。2台のモニターTVがあり、フロッタージュする擦る音 が断続的に響いている。そして広島宇品駅の舗石のフロッタージュ作品が先ず目 に付く。この空間にぴったりの展示である。1990年に鯉江良二との2人展で展示 した被爆した比治山の土の標本壜も併せて展示されている。現在札幌でこれ以上 岡部の作品にフイットする空間はないとも思える。 さらに隣の小さめの部屋には、イタリアヴェネツイアでの作品群が並ぶ。ここでも モニターTVがフロッタージュの擦音を響かせている。 この音は帯広の梅田マサノリさんが指摘したとおり、以前の音とは違うと気づく。 以前はもっと連続性があり、ひたすら擦る音だった。今は短く途切れてカサカサ と響く。シュツシュツ、カッカと繋がらないのだ。佐賀町、界川のヴィデオで聞く音 とは違う。作品を評して巨大なボロ雑巾と言われた時代の岡部ではない。それは この音の相違にも顕われている。この部屋の横奥はカフエにもなっていて、聞き 覚えのある笑い声が聞えた。ちらっと覗くとカウンターの壁にも作品が飾られてい る。その瞬間中に入る気が失せた。モニターの映像作品のタイトルは、ヘブライ語 で「貧しき者たち」と記されていた。この見事に整合された展示の前で私自身が惨 めに、貧しく思えた。ここに<ヒロシマ>の展示はあっても、広島という固有の一地 域一地方は被爆のカーテンの向こうにあって見えない。 かって私は1990年の岡部・鯉江展のカタログテキストに「ヒロシマと広島」という 文を書いた。そのなかで、<ヒロシマ>は決して<広島>ではない。この<ヒロ シマ>という有名性と<広島>という無名性の落差にこそ、今<ヒロシマ>の困 難があると書いた。美しい固有の河の街広島が、何故ノーモアというヒロシマへと 変貌していったか。 被爆した廃墟の象徴である原爆ドームを頂点に、その真逆に位置する現在の東 京、サッポロ等の各地の繁栄を象徴するドーム群。 このふたつのドームの明と暗の落差にこそ現代の<ヒロシマ>の位相がある。 明転した現在のドーム群状況の本質にこそ、私たちの見えないヒロシマ構造が潜 んでいると私は思う。 帰路タワービル、マンシヨンの立ち並ぶ夜道を歩きながら、かってあった街の風景 が重なり、その整理・整合された端整なデザイン群の街景に適合しない自分の悲 しいズレを、痛みのように感じていた。 そしてこのズレは同時に、岡部昌生展で感じていた痛みにも似ていた。 <貧しき者たち>を主題に、ヒロシマがビルの内にパックされ、カフエ化するデザ イン空間の整理・整合とのズレは、夜道に聳える整備された街景とも重なり、貧しく 哀しいまでに痛むのだった。 *中岡りえ展「DNA DIARY 1902-2008」-10月23日(木)-29日(水) am11時ーpm7時(月曜休廊) テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8北大斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2008-10-25 13:37
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Comments(3)
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taku
at 2008-10-25 18:02
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つじつまの合わない末の空間であることを、美術家が意識しているか
否かだと思っています。札幌の町だと冬対策なのか地下に伸びたがる のは、どうしたものかと思っています。
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narumi
at 2008-10-26 10:03
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権力とヒエラルキーを地下室に封じ込めるという意味では最高の展示場所になるでしょうね。そんな感触を感じています。現代美術もいまや既存の公募展並みになってしまいました。
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kakiten at 2008-10-26 13:47
takuさま、narumiさま>誠に私的な拙文に対し、ご高説頂き感謝申し上げます。
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