2008年 07月 29日
鯉江良二さま 今回は一度もお会いできず失礼致しました。最終日の27日門馬ギヤラリーでの あなたの作品展、遅まきながら拝見致しました。そこで、故門馬よ宇子さんの娘 さんの大井恵子さんにお会いして、札幌滞在中は、ずっと門馬邸に宿泊していた 事を知りました。門馬さんのお部屋、アトリエに居住し、遺された作品を見、深く 心動かされ、生前是非お会いしたかった話していた事も伺ったのです。 昨年6月80余歳でお亡くなりになった門馬よ宇子さんの、屏風状の古い写真の コラージュ作品「記憶の解放」に多分鯉江さんは、心打たれたかと思います。 50歳を過ぎてから、本格的に美術に打ち込んだ門馬さんの、前半生全てを畳み 込んだかのような、強力の作品を見てきっとあなたは、人の保つ歴史、沢山の封 印された言葉に、土と共通する蓄積を感じたに違いないと思うのです。 新たな人生を出発させる為に、それまでの自分の半生を、ひとまず混ぜご飯の ように凝縮してポンと纏める、そんな力技を、私はあの作品を見た時に感じたの でした。そして50歳を過ぎてからの自分を、スタートさせたと思うのです。 ですから、門馬さんの自覚的な美術年齢は30余歳であったと、今でも思ってい ます。今回の札幌滞在で、それは鯉江さんの出会った一番印象的な時間であっ たと推測致します。 私が何故そう思うのかは、約20年前のあなたの作品「川に還る」を思い出すから です。1987年6月、あなたは界川の源流域を歩き、さっぽろの一番古い地層の 露出している2層の土を採取し、作品を創りました。その土は、選別され、水で濾 過し、会場に川のようなインスタレーシヨンとして、床に展示しました。 また、界川源流の石は、その表面を束子で洗い、剥れ水に混じったその土を、和 紙で漉かし、その残土模様を「泥のドローイング」として窓ガラスに貼り付け、展示 しました。この手法はその後、さらに大規模な作品として、海外も含め様々な場所 で展示される原点ともなりました。 また、1989年10月の界川游行では、源流の滝壷で滝壷という壷を創り、川のお 掃除ですと、洒落ていましたね。1983年冬の倉庫を使ったルフト626では、愛知 県常滑の赤土2トンを運び込み、床に敷き詰め盛り土をし、一本づつ炭火を起こし 土と火の触れるインスタレーシヨンを、展示致しました。私にとって鯉江良二はい つも、ランド・グランド・スタンデイングな、さっぽろを媒介にして存在しているのです 。2000年代に入って、石狩望来の地に、アルミの野焼き作品をモニュメントとして 沖縄と同じ形体の作品を立てた時もそうです。石狩というランド(国)の仕事でした。 さっぽろというグランドに立ち、石狩というランドを望み、私達はこの時代にスタンデ イングする仕事を続けてきたと思います。 今回、門馬よ宇子さんの家で、その作品に出会った事は、さっぽろを生きてきた人 の時間という土に出会った事と、私は解釈しています。 鯉江さんは、門馬邸の川傍の崖でゆっくりしていたとも聞きました。 そこはまた、あの界川の源流域のひとつでもあります。その場所で生涯を終えた 門馬よ宇子さんのさっぽろの時間とともに、そこで過ごしたグランド(土)にこそ、今 回のさっぽろがあったと私は思います。門馬さんの過ごしたさっぽろの古いセピア 色の写真で構成された「記憶の解放」という作品を見て、鯉江さん、あなたは土と 同じように、そこに時間の蓄積を見ていたと思うのです。 人という命の炎が焼いた土の時間を、見ていたと思うのです。 生きている門馬さんとお会いしたかったというお話を聞き、私はやはりあなたが札 幌に来て、札幌というグランド(土)と、石狩というランド(国)に触れ、立っていたと 思います。 お会いできなかったのは残念でしたが、その事をご報告として、お伝え致したく お手紙致します。 敬具。 *久野志乃展「物語の終わりに、」-7月22日(火)-8月3日(日)am11時ー pm7時 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8北大斜め通りに西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2008-07-29 14:34
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