厚着した空気が一枚々々薄着になっている。折り重なった夏の衣装が透き通っ
てくる。陽射しが青い。ニューヨークで個展の石川亨信さんから便りが届く。中岡
りえさんと写真家のトヨ・ツチヤさんが訪ねて来てくれたと書いてある。会場の写
真もあった。寝かせたり壁に寄りかからせたりランダムな展示だ。見る人の自由
に任せようという敢えての展示を今回ニューヨークでもしている。他力本願という
本願。仏教徒である石川さんの展示に込めた想いがはたして個人主義の国アメ
リカで通じるだろうか。帰国後の石川さんに反応を聞くのが楽しみだ。後藤和子
さんが来る。ゆっくりと阿部さんの作品を見ていく。”自然光に合うのは青だけで
はないのね・・。”と呟く。そう、この鉄の柔らかい肌には自然の光がいい。”九州
に戻さずどこかに置きたいね”と私が感じた事と同じ事を言う。”美術館の池の
中とか・・。”水か、青の後藤和子さんはそこにいくかと思う。錆びた青を見たいの
かもしれない。でもこれは銅ではなく鉄なので錆びても青にはならない。ふらりと
来た後藤さんはその後ふらりと帰っていった。前の敷地に古いマンシヨンを取り
壊してまた新たな建設が始まり地ならしの工事の音が騒がしい。ヘリコプターが
飛んでいるような音だ。ひとつ大きな建物が建つと付随して水道、ガス、下水の
工事が始まる。静謐な会場空間と対照的な外の騒がしさが続く。2階にいると音
の響きも大きい。直線的なビルは工事の音も直線的で暴力的である。何か疲れ
がこのところ溜まっている。夕刻工事の音も収まった頃河田雅文さん来る。しば
し無言。”これは傑作だわ!”と一言。今日2度目の台詞が出る。”九州に戻した
くないなあ”と。芝生のある広い空間がいいなあとふたりで話す。もっと人に見て
もらいたい。馬鈴薯にも見えるとも言う。薩摩芋じゃない。北の根菜だよと応じる。
椅子に腰掛け阿部さんの作品を見ながら話はあれこれ跳んだ。小1時間も居た
ろうか。帰り際に”いいもの見せて頂きありがとう”と言って帰った。珍しい事だっ
た。この一言で溜まった疲れが少し消える。阿部守の鉄への原点追求の一途さ
と北への真摯な視線が生んだ誠実な傑作である。彫刻というものが保つ懐の深
さ、存在感をこの作品は凝縮していると思う。黙って見ているだけでいいのだ。そ
んな作品はそうざらにあるものではない。
*阿部守展ー23日(日)まで。am11時ーpm7時
*中嶋幸治展「Dam of wind、for the return」-25日(火)-30日(日)
*毛利史長・河合利昭展「産土不一致sand which!?」ー10月2日(火)-
12日(金)
*柏倉一統展ー10月16日(火)-21日(日)
*石田善彦追悼展ー10月23日(火)-28日(日)
*谷口顕一郎展ー11月3日(土)-18日(日)
*泉尚子展(予定)11月20日(火)-25日(日)
*福井優子展ー12月11日(火)-23日(日)
*木村環×藤谷康晴展ー12月25日(火)-30日(日)
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り入り口
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