半年振りで円山川源流域の不動の滝を訪れた。M君と春訪ねて以来である。彼
の供養もあった。年内に一度はと思っていたのだ。M君の使った白樺の木の残骸
は見当たらなかったが近くのもう1本の白樺は深々と堂々と立っていた。石仏の後
ろにももう1本あって崖の斜面に白く覆い被さるように立っている。紅葉は七分位で
今年はこんなものかも知れない。不動の滝の手前の石仏のあるあたりは凛とした
雰囲気があり滝の動と対照的である。ここから倒木の白樺を手鋸で幹を分割し運
び出し自転車に乗せてギヤラリーまで運んだのだから結構な労働であったろうと
思う。円山川は円山北町あたりで界川と合流しやがて今の競馬場あたりで琴似川
と合流する。ここも琴似川の流域だから川の道筋では繋がっているのだ。M君が
白樺を運んだ道はほぼそれに沿っている。四国という異郷の川で事故死したM君
の心を少しだけ源流の白樺まで逆に歩く事で慰めれたかなあとも思う。もっとも自
分の心の方がそれをいつか欲していたのだ。そういえば祠の不動明王のお顔は
どこかM君に似ているかも知れない。憤怒の形相ではなく静かな凝視のようなお
顔なのだ。あの顔が大口を開けてぺろりとお皿の料理を平らげニコッと笑えばもう
彼奴だな。これはしかし妄想で実際のお不動さんは静かな凝視の仏だった。土木
工事で滝の上流は分断され往時の水量の半分もないだろうけれど水の音、白い飛
沫、流れ落ちる水の姿の静寂な佇まいは今も多分変らない。三年ほど前の冬にポ
ーランドのモニカとイギリスのエミリーを案内した事があった。札幌にアーテイスト
レジデンスで来ていた彼女たちは名刺交換と人に飽き飽きしていて冬の滝を見た
いというのだ。真冬に行った事はなかったがまあなんとかなるだろうと思って案内し
たがやはり雪で道は埋もれていてやあっと雪をこいで強引に歩いた。最初はギヨッ
とした顔をしていたがいったん雪の中に入るともう元気一杯でどんどん付いて来た
。その時不動明王の祠の前でみんなで撮った写真がある。みんな笑顔が溢れて
七福神みたいだった。2日後に日本を離れたモニカから感謝のハガキが後で届い
た。さっぽろのいちばん素晴らしい最後の1日だった。また必ず行きますという内
容だった。この滝とお不動さんは再会を想う場所なのかも知れないなあ。