2017年 06月 13日
思い立って吉増剛造さんに電話する。 そろそろオランダから帰国と思ったのだ。 通じなかったがすぐ折り返し電話が来る。 昨日薄いヴェールの丘撤去で展示終了の報告 と会期中浪江出身H氏の訪問の報告、余位氏、 酒井君、村上さん、山田君アフンルパル探訪 等の話をした。 浪江のH氏号泣の話には吉増さんも一緒に泣き そうだ、と心溢れていた。 さらに4人のアフンルパル探訪には、1980 年代自分も訪れた事に触れ、再度の訪問意欲に 火が付いたようだ。 1994年「石狩河口/坐ル」ー2011年「石狩 河口/坐ル ふたたび」の、さらなる<ふたたび> が動き出している気がした。 次回札幌国際芸術祭の「火ノ刺繍ー「石狩シーツ」 の先へ」と繋がる深い決意が沸々と感じられる。 エネルギー溜めて置いてね・・と告げられ電話は 終わる。 その後見ておきたい展覧会ふたつ廻る。 ひとつは「纏う」ー蔦井美枝子の着尺。 もうひとつは最終日の「片鱗」ー斉藤周展。 蔦井さんの絹に草木染めの着尺は、誠に見事だった。 会場に入った瞬間、その織りの淡い質感、色調すべて に心打たれた。 「纏う」という言葉の通り、手に触れ、身に纏う、 身体全体を包み感じる美があった。 柔らかく強靱な絹、そして優しく凜とした彩(いろ) の輝き。 それが五体五感を包む<体・感>として存在した。 こんな風に私は織物を、着物を見た事はない。 美術だ、芸術だとは、一体何なのか。 こうして言葉も無く、見とれ、触れて、肌に添わせた くなるものは。只の衣装などではない。 作品が身体を包み込むのだ。 先ず目を、そして五体五感全体を抱擁する。 着たいという欲望は、ずっと後から慎ましく追い付いて くる。 <纏う>という言葉通り、ドレスではなく全身で感受し た、織りの美の淡い虹だった。 次に斉藤周展「片鱗」に向かう。 通院の病院近くで見落としていた古民家アパートを改造 したギャラリーだ。 斉藤周さんの転機とも思える作品群だ。 昔父上と一緒に滑ったニセコ比羅夫のスキー場で久し振り にスキーを滑った時なにかが心中で弾けたのが制作の切っ 掛けと書かれている。 ここでも作品たちは大小を問わず、ポロ、ポロと語りかけ 肌を寄せてくる。 棒のような物や短冊形、四方形と形・大小は様々だが、 その形象どれもが何故か人懐(なっ)こく、触れて、 語りかけてくる。 「片鱗」というタイトルは、もっと柔らかく<ポロ、ポロ> で、作者の心の独り言の断片に触れているような気がした。 絵画が見るだけでなく、聞く・触わる、そして見る流れの 回路の内に在る。 展示も古民家の木の柱や調度家具の至る処に置かれ飾られ、 身体尺度の内に、ポロポロと棲み着いている。 衣(ころも)脱いだなあ・・。 斉藤周さんの新しいスタートである。 ふたつの展覧会で共通していたのは、<着尺>という言葉に 象徴される身体の身体尺の宙ー空間が基底に在った事である。 人が<纏う>織物も、思い出のゲレンデから体内に蘇った記憶 の<片鱗>も、そこに身体という尺度が具体的な感覚として 溢れ出てきていた。 この身体が応える感覚の場・状況を、蔦井美枝子さんは織りを 着物という着尺の形で、斉藤周さんは古民家の木造建築の内にと、 心を包み活きる場を、身体尺の世界に選択している、 尺度とか寸法という言葉が内実を喪い、一坪は3・3㎡、一升 は1・8リットルと私たちの身体尺はその尺度を忘却しつつある。 それは日本の近代化の前のめりの現象結果でもある。 このふたりの作品宇宙は、人間尺度が活き活きとしている。 その人間尺度は、開かれ閉じていない。 窮屈でもだぶだぶでもない。 政治や経済が閉じた観念の陥穽に落ち込んだ近代前期、そして ふたたびその陥穽の兆しの見えつつある現代という近代後期。 そこに閉ざさず、固有の身体宇宙を基底とする身体感覚が生きた <纏う>美が<片鱗=ポロポロ>と溢れ出て語りかけてくる。 明治以降の近代化の流れに生まれた北海道札幌という都市の中で ふたりの創る作品たちに出逢え得た事は、幸せな時間だった。 *3人展「なんのために」ー6月23日{金)ー7月2日(日) am11時ーpm7時;月曜定休。 *田ノ崎文ライブー6月末予定 *及川恒平×古館賢治ライブー7月中旬予定 *5人展ー7月25日ー30日 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2017-06-13 14:18
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Comments(2)
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at 2017-06-17 10:32
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
kakiten at 2017-06-18 12:56
いえ、いえ・・・、良いものは良いと感じたまま書いただけです。4年後は分かりませんが、今回見て感じられた事だけでも幸せでした。
こちらこそ、ありがとうございます。 美恵子さんによろしくお伝えくださいね・・。
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