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テンポラリー通信

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2016年 07月 14日

時代の裾野ー回路(21)

I氏が持参してくれた今月9日付けの毎日新聞。
その紙面で吉増剛造は、自らの表現の原点を語っている。
その原風景のひとつ戦時下空襲の中、首都圏東京のラジオ
放送の記憶が語られる。
「東部軍管区情報、房総遥か沖合より敵機侵入しつつあり・・」
この情報の発信場所が敗戦まで東京・竹橋に存在した東部
軍管区司令部で、その跡地が現在の東京国立近代美術館という。
日本の中心の中心皇居のお堀の周りには、日本の近代を象徴する
跡地・建物跡が今も埋もれている。
戦後占領下の本部GHQ、リーダースダイジェストを始めとする
戦後近代化もまたこの一帯を発信地として全国に展開されたのだ。
輸出される商品に「made in occupied japan」
と記され、同時に自由と平等の理念の下当時の日本人の半数近くに
無資格だった参政権を与えられ、戦後民主主義がスタートする。
今18歳からの参政権が話題だが、その母の母に参政権が与えられ
たのはそんなに遠い時代ではない。
今に繋がるこうした時代の裾野を、現在の私たちはあまりにも記憶
の外に置きすぎている。
風景の底に、物や道具の隅っこに、無言で佇むこれらの記憶の根を
見詰める事は、単なる懐古ではない。
今という先端の刺激だけを追い求める痩せた時代思潮は、同時代の
思想の根を細く貧しくするだけなのだ。
明治の欧米化・西洋化という近代は。自由民権の実を実らせず、
戦後の民主主義という自由・平等の理念はoccupied 
japanの現実を景気という経済発展の陰に置き忘れつつ、
<神武>景気と名付け、その後今日に至っている。
新たに参政権を得たと騒がれている18,9歳の親の半分だって、
つい70年前に参政権を与えられた親の子が現実なのだ。

現在を時代の裾野から今一度問うべきである。
そして裾野・中腹から今という先端を見つめ直すべきなのだ。
2,3年経て、即旧い、ポイ捨てのゴミの山裾が、真の裾野
では断じてない。
ランドという時代の理念の国が、ランドフイル(landfill)
という埋め立てごみ廃棄場に取って代わる。
そんな貧しい痩せた裾野であってはならないのだ。

「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」とは、現代の時代の根と対峙
するアンチ・ランドフイル、の空間だ。根のランドだ。
そこから時代の真の高みを目指す。
そんな深い意思を顕す展示空間と思う。

*「石狩・吉増剛造 1994」ー7月31日まで。
 am11時ーpm7時:月曜定休(水。金 都合により午後3時閉郎)
  
 :「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」ー8月7日まで。
   am10時ーpm5時:月曜定休。
   東京国立近代美術館 東京都千代田区北の丸公園3-1

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
  tel/fax011-737-5503


by kakiten | 2016-07-14 14:42 | Comments(0)


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