2016年 07月 07日
東京と洞爺でレセプションと結婚披露宴という祝賀会があり、 久しぶりにスーツにネクタイを着た。 もう10年以上も着ていないので、納まりがよくない。 おまけに体調も良くない。 東京の次の洞爺では、当事者の意向で温泉ホテル大宴会場が 会場なので、参加者全員が浴衣に着替えて座に着いた。 但し花嫁花婿は正装である。 白無垢の着物に羽織袴、ウエイングドレスにモーニング。 花嫁の友人代表が、まさか浴衣でご挨拶とは思わなかった と照れながら話していた。 花嫁の父も校長先生という硬い職業柄戸惑っていたようだが、 自然と娘の感謝の言葉を浴衣姿で聞いている。 その他は自然に宴は進む。 不自然だったのは、お嫁さんのリクエストで、酒井博史さんが ギター片手に舞台で椅子に座り歌った時だった。 歌自体は初めて歌う曲にも拘らず、ジンと心に沁みるものだった。 しかし、歌が進むに連れ浴衣なので前が肌蹴る。 思わず”チャカイの窓があいてるぞ~”とヤジが飛ぶ。 この時以外は浴衣である事に違和感もなく実に和やかな良い宴 だった。 ハイライトのひとつは、新婦の友人の要請で幼稚園の頃からふたり でずっと続けているという遊び”鮭の産卵ごっこ”を新婦と披露しよ うと誘い、演じた時だ。 ウエデイングドレスの花嫁が雄になり、友人が下で雌になる。 両手をバタバタさせ迫真の演技である。 これもみんなが浴衣姿でなければ、決して実現しなかったと思う。 他の生き物と人間の相違は、前足が手となり第六の内臓頭脳ととも に自立した事と思う。 それと同時に頭部以外の身体を覆う衣装という意識社会が生まれた。 衣装は時代・社会を反映し、時として時代を先行する役割もある。 鎖国を解いた明治の西洋化・近代化は、国家のコスプレ・鹿鳴館 の夜会から始まるのである。 西洋化・近代化という衣装の先走りは、従来の着物に下駄という 衣装と混じり合って熟さぬ日本の近代の様相を若き北村透谷は 次のように記している。 われ橋上に立って友を顧み、同に岸上の建家を品す。 或いは白亜を塗するあり、或いは赤瓦を積むもあり、 洋風あり、国風あり、或いは半洋、或いは局部において洋 或いは全く洋風にして而して局部のみ国風を存するあり、 更に路上の人を観るに、或いは和服、或いは洋服、フロック あり、背広あり、紋付あり、前垂れあり、更にその持つもの を見るに、ステッキあり、洋傘あり、風呂敷あり、カバンあり、 爰に於いて、我憮然として歎ず、・・・ 今の時代は物質的の革命によりて、その精神を奪われつつある なり。その革命は内部に於いて相容れざる分子の衝突より来た りしにあらず、外部の刺激に動かされて来りしものなり。 革命にあらず、移動なり。 「漫罵」明治27年 明治の雪崩れるような西洋化という近代化。 人と建築物の様相が、25歳で自死した透谷の眼が鋭くとらえている。 透谷が見詰めた近代という時代の衣装は、思想の根の問題として現在も 問われている。 私が今回招かれたふたつのレセプション。 それはひとつは展覧会の空間自体が近代の根を問う空間であり、もう ひとつは戦後民主主義ー自由・平等浴衣の大宴会というものだった。 吉増剛造「声ノマ」の背後には、大野一雄の舞踏「石狩の鼻曲がり」 が深い処で流れていたが、新郎新婦以外すべて浴衣の大宴会では ウエデイング姿の花嫁と浴衣の親友が、鮭の産卵ごっこを演じていた。 日本の近代もそこまで進化し自由になっているのだ。 <革命にあらず、移動なり> 透谷さん、僅かですが間違いなく衣装は単なる移動を超え、ある革命を 起こしつつあります。 難しい事全く抜きの目出度い祝宴と、戦後・明治とふたつの近代化を 全身で問う美術館展示と場所の差異こそあれ、時代の衣装を自らのもの として世界に開かれていました。 それはカセットテープや日記帳・メモ用紙、そしてウエデイングドレス と浴衣という衣装・道具が主役としても活き活き在ったからです。 *「石狩・吉増剛造 1994」-7月31日まで。 am11時ーpm7時:月曜定休(都合により水・金は午後3時閉廊) :「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」-8月7日まで。 am10時ーpm5時:月曜定休。 東京都国立近代美術館ー東京都千代田区北の丸公園3-1 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目斜め通り西向き tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2016-07-07 15:55
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