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テンポラリー通信

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2015年 08月 09日

加害と被害ー窓(19)

シベリア抑留の画家香月泰男の絵に全身の皮膚を剥がされた
日本兵士の赤い死体の描かれた絵がある。
敗戦後捕われてシベリアへ護送される汽車の中から香月が見た
沿線の光景を帰国後シベリアシリーズで描きこまれた絵画の
ひとつだ。

原爆の日でヒロシマ・ナガサキの熱線で黒焦げの死者の写真が
多く見られる時期だ。
そして手の先からボロ布のように上半身の皮膚をぶら下げた
被爆者の写真や絵画。
そして敗戦直後中国の人の恨みから全身の表皮を剥がされ、見せ
しめに飾られた日本兵の死体。
このふたつの表皮を剥がされた人間は、被害者と加害者のふたつ
の表裏を象徴するかのように顕れる。

国家間の戦争が個人の表皮を剥ぎ取るという恐ろしい結果。
原子爆弾という途方も無い力が、その熱線で小学生も多く含めた
普通の人の皮膚を剥ぎ取り、一方は侵略した加害者への恨みから
見せしめに復讐として全身の皮膚を剥ぎ取り晒し者にする。
70年前日本の被害と加害が表裏一体の現実として顕れた時間
と思われる。
全身の皮膚を剥ぎ取りゾンビのような姿にする仕業を生きた人間
に為す事は、人間そのものの全否定に及ぶだろう。
それを引き起こす戦争の加害の立場は、同時に被害の立場へと表裏
一体で顕れる。
そんな稀有な重い時間を70年前の今頃、日本は経験していたのだ。

皮膚という身体の内と外を繋ぐナイーブで柔らかな界(さかい)の世界。
そこを剥ぎ、剥き出しの修羅にする。
生命はひとたまりもなく晒され、崩れ落ちる。
地球だって大気層や電離層といった大地と宇宙の間の皮膚のような
存在が剥ぎ取られたら、剥き出しのこの惑星は直ちに死の星となる。
水・空気・光という生命の元ともなる有機的元素を育んだのは、宇宙
という外界と地球との間を包む皮膚のような大気層である。
界(さかい)という内と外の間の世界を消滅するという未来への警鐘
・予告のように広島・長崎の皮膚剥奪と中国大陸の皮膚剥奪はある
ような気がしてくる。

あたかも勝者という驕りの加害者の姿して、日々我々は地球に対し
地球の皮膚を剥ぎ取る日常を重ねてはいないか。
そしてその結果加害は被害となって自らの皮膚を喪う表裏一体
の未来現実に向かいつつあるのかも知れない。

*村上仁美・高臣大介展「Water Fall-花とガラス」-9月1日ー6日

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 te;/fax011-737-5503

by kakiten | 2015-08-09 13:28 | Comments(1)
Commented by BBpinevalley at 2015-08-09 15:14
初めまして。
外から日本を見ていて、こんな表裏を立体的に見ている人がどれだけ居るのだろうかと思います。
平和を願うのは何も日本人だけではないし、子供を戦争に出したくないのは、どこの国の親でも同じこと。
安倍政権の強引なやり方に反対するのはもっともだと思いますが、「平和」を叫ぶ声にはどこか空虚なものを感じます。
「安全保障」などという珍しい条約のもとに、自分の家の鍵の管理も他人任せな国民が、平和を論ずるのを聞くと、頭をかしげたくなるのは私だけなのかな…
今の日本でこんなことを言うと、怒られそうですね。
でも、本当に奇妙に感じます。


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