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テンポラリー通信

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2015年 07月 04日

俯瞰するー屋根(29)

谷口顕一郎さんがふらりと来る。
11日からの札幌彫刻美術館での個展を前に少し
時間が取れたという。
ひょうひょうとして変わらないが、話していてある
成長に気づく。
札幌と同時進行の宇部市の芸術展出品の作品制作に
話が及び、その制作動機を聞いた時だ。
宇部市の航空写真を見て、その郊外の緑と都市の
境目を拡大してトレースし作品の原型にしたという。
道路や壁の亀裂だけでなく、都市と自然の境を素材に
したという俯瞰する視線・視座が面白かった。
自然の野生と人間が共生する境目が、俯瞰した航空写
真で凹み・亀裂と捉え、作品の素材とした点が、従来
にない成長と思ったのだ。
人間と自然の間に生まれる自然と共生する世界。
荒々しい野生ではなく、人と共に生きる優しい自然の
ゾーン。
その境界を美しい、面白いと感じたからこそ、作品の
素材となったのだろう。
その点が成長と感じたのだ。
現代は科学技術の進化で、その境はもっと直線的に
鋭く分断し自然を切り開くだろう。
だがかっての村造り、町造りは、もっと自然に寄り添い
畏れながら人間の住む領域を形成していたと思う。
宇部市の航空写真に顕れた緑の山・森との境は、きっと
そうした自然と人間の共生する美しい界(さかい)の
形象だったに相違ないのだ。

私はふっと大倉山ジャンプ台から写した札幌の写真を
思い出していた。
林立する無機質なビル群の中に、緑の線のように南北に
伸びるゾーンが写っている。
緑の運河エルムゾーンである。
伊藤邸高層ビル化反対運動を提唱した頃見つけた写真で
この俯瞰した写真に地上を足で歩いて感じたものが、一
目で判ると感心したのだ。
そこに昨日の報道では札幌駅よりさらに西300mの処に
新幹線の新駅を造ると報じられていた。
正にこのエルムゾーンの伊藤邸ー偕楽園緑地跡ー清華亭
の連なる緑の運河の線上に当たるのだ。
この近辺に某有名菓子メーカーの札幌本店も近々開店と
いうから、その筋ではもうすでに新幹線効果を予測した
再開発が計画されているに違いない。
札幌駅から僅か数百メートルの近さに広がるかっての
湧水と川・森の記憶。
植物園から北大構内に繋がる緑の運河エルムゾーンと近代
を代表する建築物のゾーンを最終的に分断する新幹線駅口。
谷口さんが宇部市の航空写真で感応した美しい境の在り様
とは逆の直線の分断は、共生する界(さかい)とは正反対の
質のものである。
何故そんなに性急に速度を上げ途中を消去し直線化するのか。
豊かで優しい共生する境界がどんどん喪われて逝く。

広大なかっての自然を残す伊藤邸は高層ビルとなり、新幹線駅
前プラザとなって、植物園や偕楽園緑地・清華亭ー北大構内と
広がる自然の起伏に満ちた地形は分断され平坦化されるのか。
消費の量と速度が支配するプラザとタワーの構造都市は、通りを
消去し屋根と空を消去し、速度だけを増加していく。
優しい界(さかい)が剥ぎ取られ、剥き出しの烈しい際(キワ)が
露わになって、人を険しく攻撃的な歩行へと導く。
きっと自然もいつか荒々しい剥き出しの野生に還り、人間に襲い掛
かってくるだろう。
そんな気がする。

*瀬川葉子展「FILE」-7月21日(火)-8月2日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 te;/fax011-737-5503

by kakiten | 2015-07-04 15:25 | Comments(0)


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