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テンポラリー通信

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2015年 05月 20日

藤森茂男の小樽運河ー斜道(32)

7月5日まで市立小樽美術館で開催中の「小樽運河・いま
むかし」展を見に行く。
Mさんの快適な運転で高速道路を走る。
新緑の山々が近づき時に高速道路の傍まで迫る。
天空を滑空しているような感じだ。
以前滝口修造展を見に行って以来の小樽行きだ。
あの時は下の国道5号線を走った。
それはそれで小樽・札幌の後志と石狩の境を経てゆく
地上の感慨があった。
しかし今回の高速道路は地上より高いところにある為山の
新緑の青さが遠くから近くへと迫るように広がってくる。
そして小樽に近づくと海だ。

着地するように小樽へ入る。
今回の目的は運河全面保存運動に献身し、最後に真っ赤な
運河を描いて死んだ藤森茂男の遺した絵画を見る事だ。
私がこの人を知ったのは、奥様の自分の歴史を語った新聞
連載の文章によってだ。
その中で運河全面保存運動に邁進する夫の事を女性らしい
優れて優しい感性で支え語っていた。
そこから見えた藤森茂男の壮絶な生き方に深く共鳴したのだ。
そして死ぬ直前に不自由な右手に紐で絵筆を括り着け描いた
という赤い運河を是非この目で見たかったのだ。
美術館の2階のそれは特別陳列として他の作品とともにあった。
初めて見るこれらの作品はどれも心に迫るものがあった。
赤い運河は思ったほど赤い色ではなかったが、その薄さの分
だけ哀しみが深く漂っている。
描かれた運河はどれも川の水の面が画面の半分近くを占めていて、
そこに浮かぶ船や建物を抱締めるように包んで美しい。
この人は本当に運河を生活の風景の一部として愛していたの
だなあと感じる。
そして思う。
屋根と空の見える小樽の街。
それと同じように地に屋根が映り、遠くの山並みと近くの建物
の屋根の水の空のように運河を見ていたのだなあと思う。
この水面という空を屋根・船ともどもコンクリートで押し固め、
物流の車道に埋め立てる事に全面反対を貫いた、その気持ちが
これらの絵を見ると本当に良く分かる。
全面保存は敗北し、部分保存で今日の小樽運河がある。
部分保存でさえ今では小樽に欠かせない大事な風景である。
もしこれが無機質なアスファルトの人と仕切られたロードで
あったなら、小樽の街の魅力は半減以下となっていだろう。

この反対運動とほぼ同じ時期札幌では時計台の移転問題も燻って
いた。
そして移転は無くその南向かいに高層の札幌市役所ビルが建立
される。
これも風景の埋め立てと同じである。
時計台の塔屋までのたおやかな高さを引き立てた周囲の景観
はすでに豊平館の移転で失われており、さらに隣接する高層
ビルの建設でさらに景観が失われたのだ。
この後日本三大がっかり風景のひとつに時計台はなるのである。
この風景埋め立ての時、藤森茂男のような地元人は札幌にいたの
か、と今も私は悔しい思いがある。

+佐佐木方斎展「Primary Painting」
 6月2日(火)-14日(日)am11時ーpm7時:月曜定休

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2015-05-20 14:12 | Comments(0)


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