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2014年 09月 25日

木彫り熊の本ー境界・長月(16)

約四年余の年月を費やしてこつこつと蒐集し調査した「北海道
木彫り熊の考察」と題された山里稔さんの熊の本が出版された。
昨夕催された札幌市環境局主催の生物多様性アートナイト「宮沢
賢治 生きもの語り」の会場でお披露目された。
この催しは先日の岡崎文吉展に次ぐもので、今回はこの本の出版
社の代表者でもある坪井圭子さんの「セロ弾きのゴーシュ」の朗読
と今週末中嶋展でも予定されている古舘賢治&本間洋佑のライブ
演奏があり、その席で本を渡したいと山里氏から連絡があったのだ。
この二組の出演者との縁も深く、企画されたY課長とは岡崎展でお
世話にもなっているから会場の市役所1階ロビーまで行った。
久し振りに聞く坪井さんの朗読も古舘さんの演奏も素晴しかった。
しかし何よりも、開演に先立って山里氏から直接手渡された出来立
ての本が素晴らしかった。
A4変形サイズ200頁オールカラーで287頭の木彫り熊が収録
されている。
初期の大正時代から現代までの様々な木彫り熊が活き活きと見事に
記録されている。
大正時代スイスから八雲の徳川義親候が持ち込んだ熊の木彫りが
根付いて和人、アイヌを問わず北海道を代表する土産物として定着
していく。
それらが土産物としてパターン化する前の彫刻としての独自性をこ
の本は真に記録として見せてくれるのだ。
百年に満たない間に生まれたこの地独特の彫刻・木彫り熊。
今は土産物としても廃れつつ、機械彫りのパターン化が進んで、初
期から中期の独自性は失われつつある。
単なる観光土産として散逸しつつあり、今保存し記録されなければ、
この優れた近代の遺産は消滅の危機にあるだろう。
美術家山里稔氏はそこに危機感を感じて、本業の現代美術を忘れる
程アトリエを埋める熊の保存蒐集と記録を遺す出版に情熱を燃やした。
その結果生まれた本である。
移住者である我々の先祖が、僅か百年に満たない中で創り上げてきた
独自の彫刻文化。
北海道の自然とともに育まれたこの独自性を忘却してはならないのだ。
移動・移住・移民のサイクルは人類の発生以来の流れである。
しかし現代は<移>の方ばかりが増幅拡大して、「動」「住」「民」
という根の方が希薄になってきている。
熊の木彫りは<移>からここに根付いた<住>と<民>という文化
の根を保つものである・
その根の部分を大切にしないで、何時如何なる文化がこの地に育つのか。
<移動>の<移>ばかりが、新幹線だ、リニアモーターだとスポイトの
中のスピード移送ばかりが拡大増幅して根となる<動・住・民>が希薄
となっては文化は物流に衰退してゆくだけとなるのだ。
熊の木彫りもまた同じである。
土産物として流通過程に大量生産される時、根は希薄となり消えかけて
いるからだ。

イヴェントが終わり夕食を食べに地下街を歩く。
もう大半が閉まっていて、目当ての店がやっていない。
ふっと思いついてエレヴェーターに乗りパルコの8階に上る。
そこの食堂街に目当ての店があった。
地上に近い所は閉まり、地上から離れた上層階のみが営業している。
これも<移動・移住・移民>の、<移>ばかりが肥大している都市
構造の反映そのものではないのかと思った。

*中嶋幸治展「風とは」-9月23日(火)-10月5尾地(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。27日(土)午後2時ー3時古館
 賢治&本間洋佑ライブ・無料。
*メタ佐藤写真展「光景」-10月7日ー19日

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 te;/fax011-737-5503
        
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by kakiten | 2014-09-25 13:32 | Comments(0)


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