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テンポラリー通信

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2014年 05月 09日

界(さかい)という浮世(よ)-陽炎・皐月(7)

写真家の竹本英樹さんが写真集を出版するという。
それに添えて文章を依頼された。
感じている事を書いてみる。

空気や水といった透明な存在が私達の周りを満たしている。
その存在を意識するのは、空気が風として凝縮し、水が激流や
豪雨となって凝縮して顕われた時である。
台風や津波といった大災害ともなる時だ。
普段の日常においては水も空気もひたすら透明な存在として
地球の全てのものを包んでいる存在だ。
人間は世界を陸・海・川・空と分離して、その中に都市・国家
を造り世界を整理し細分化してきた。
人類の歴史とはその意味で全ての事物に境界を造ってきた歴史
ともいえるのだ。
分別・整理は他者(物)との関係性において、時に差別・区別を生む。
それは時に身分差別や人種差別を含む様々な差別を人類内部に生み、
さらに本質的には動植物を含めた世界との分離も生んできた。
空気や水という透明な物質に囲まれて、人類以外の生命との関係
性をどこかで遮断してきた歴史でもあるのだ。
空気や水が凝縮し濃く存在する台風や震災といった非常時になって
人はこの普段透明で有機的なものが全ての環境に深く関わって
存在している事に気づかされる。
都市・国家とは人類の発生・移動とともに編み出された遮断・仮設
の観念が生んだ世界整理の一方法である。

竹本英樹の写真は、この界(さかい)という透明で朧な空間(あわい)
を一瞬にして切り取っている。
人・事物・景色を象る輪郭は揺れて定かではない。
しかし構図の骨格は剛直であり、決して揺れてはいない。
界(さかい)という世が、空気や水のように人・事物・景色の輪郭
を囲繞している。
彼は界(さかい)という浮世を撮っている。
地球という宇宙に浮く稀有な星の生命ともいえる空気と水。
その透明で有機的な存在を分別と整理と遮断の仮設概念から解放して
深く濃く繋がる透明な共存存在として再構成しようと試みている。
それは界(さかい)という世界の保つ回路を回復せんとする極めて
ラデイカルな行為であると私は思う。

以上試論として書いてみました。

*八木保次・伸子追悼展ー5月11日(日)まで。
 am11時^pm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503 

by kakiten | 2014-05-09 13:53 | Comments(0)


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