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テンポラリー通信

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2013年 03月 19日

ひとり老狼はゆくー風の夢・弥生(13)

鮮やかな花模様の千代紙の台紙。
その上にある薄茶色の紙に丸筆で細かく描かれた荒涼とした線。
その中に、濃く黒い眼がふたつ開いている。
藤谷康晴さんの作品である。
花模様の千代紙は既製の市販のもので、それを台紙にして狼と
思える顔の両眼だけが細密な毛のような線の渦の中に明確に描
かれている。

  北方と呼ばれて永き地をひとり老狼はゆく無冠者として

この一首の保つ北の孤高なる老狼の生き方に、作家の心が反応
している。
この作品を見ていると、私は藤谷康晴の最初の個展を思い出す。
一番街のショッピングビル群から一切の看板・装飾物を排除し、
建物の構造体だけを細密に描いた作品である。
それも歩く人の眼の高さで構造体を切り、舗道と街路灯も含めた
眼の位置で繁華街のビル群を描いていたのだ。
建物を構成するパルコや三越といった情報は一切消えて、そこには
無機質なそれぞれの構造体だけが並列して描かれていた。
この都市から消費の衣装を剥ぎ取り、ただの無機質なビル構造体
として描き切る眼のテロともいうべき視点は、正に<無冠者・狼>の
眼とも思えるのである。
一般に市販されている千代紙、それは消費文明そのものを象徴する
花模様でもあり同時にその花模様と対峙するように無彩色に細かい
線が刻まれ真ん中に黒い両眼が開いているのである。
この眼は、藤谷康晴の絵画の眼そのものと思えるものだ。

 ひとり老狼はゆく無冠者として

藤谷さんは今だ老ではないけれど、間違いもなくひとりの<無冠なる狼>
としてこの一首に共震している。


*山田航歌集「さよなら バグ・チルドレンをめぐる変奏」展ー3月31日(日)
 まで。am11時ーpm7時:月曜定休。
:野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)・藤谷康晴(絵画)・中嶋幸治(造形)
 ・アキタヒデキ(写真・文)・森本めぐみ(造形)・高臣大介(ガラス)・久野
  志乃(絵画)・メタ佐藤(写真)・ウメダマサノリ(造形)・藤倉翼(写真)・森
  美千代(書)・竹本英樹(写真)+及川恒平(ソング)。
 :23日(土)午後5時~鼎談田中綾×山田航×及川恒平

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2013-03-19 13:30 | Comments(0)


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