野上さんの赤いリンゴ「赤色矮星」に南窓からの朝の光が
柔らかく入射している。
ふっと古い歌謡曲の歌詞が浮かんだ。
寺山修司の日本童謡詩集を引っ張り出し歌詞を確かめる。
赤いリンゴに唇よせて
だまって見ている青い空
リンゴは何にも言わないけれど
リンゴの気持はよく分かる
リンゴ可愛や可愛やリンゴ
(サトウ・ハチロー作詩)
この彫刻作品はきっと今年生まれた朝登君への、愛の形なのだなあ
とあらためて想った。
リンゴの形をした星とは、子供の未来への形象と目の前の可愛さとの
両方の父親の愛の形なのだと思う。
だまって見ている青い空
ここに星として輝く息子の遠い未来が、リンゴのような目の前の息子の
赤い頬の向こうに揺れている。
野上さんの父となった想いが、この小さな「赤色矮星」と名付けたリンゴ
の彫刻には、一杯に篭められている。
子は星。私から最も近き、そして遠き小さな恒星。
彼が最近のブログに載せた一文である.
<最も近き>存在、そして<遠き小さな恒星>の存在として、このリンゴ
の赤色矮星の造形がきっと生まれたのだ。
赤いリンゴの形をした野上さんの星が黒い床に美しい翳を落として、
展覧会も今日で終る。
この一点の作品が、彼の8年程の彫刻の軌跡を調和に満ちた豊かな
空間として赤い句読点のように、引き締めてくれた。
その為に二度会場を訪れてくれた多くの友人たちにも感謝を捧げたい。
昨日も朝一番に夜勤明けの眠い眼を擦りながら、Mさんが来てくれた。
そして野上さんのずっと若い後輩のSくん、壁男くん、Iさん。
さらには闘病中のPプロジェクトのO氏と続いた。
今日の最終日には、さらなる友人たちがこの可愛いリンゴ星を見る為に
来てくれる事だろう。
野上さん、これはみんなの君の息子君への祝いでもあるだろう。
おめでとう。
これからも悔い無き良い仕事を続けて下さい。
*野上裕之展「彫刻の軌跡」-10月14日(日)まで。
am11時ーpm7時。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503