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テンポラリー通信

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2012年 04月 08日

お裾分けー光陰・4月(5)

福島の川村龍俊氏から、はいじま のぶひこさんの絵本「きこえる?」
(2012年3月15日発行・福音館書店刊)が送られて来た。
切り絵のようにシンプルな色彩とフォルムだけで、さまざまな音が
響いて来るような絵本である。
そこには、「きこえる?」という問い掛けがトニカとなって流れている。
絵本で出来たレコードのように、耳を澄ましたくなる不思議な本である。
「はなの ひらく おと」「ほしの ひかる おと」「きこえる?いきを すう 
おと」「いきを はく おと」と、畳み掛けるように<きこえる?>を主調低音
にして、ほとんど単色をふたつ重ねただけのシンプルな画面が広がる。
作家はジョン・ケージを意識して、「音」なるものを主題に絵本にしたという。
しかし私には同時に、福島県の須賀川市で生活し昨年3月11日から
被災者手記を書き続けている川村さんのフクシマ体験が、この絵本の
音と絵の自然なトニカと重なって、「きこえる?」と問い掛けているように
感じたのだった。
「なみの よせる おと」「きこえる?」「きみの なまえを よぶ こえ」
「きこえる?」と、この絵本の最後は終るのである。

本が届いて間もなく、札幌に引っ越したばかりの瀬戸くんが来た。
今晩聞きたいライブがあると言う。
そのライブの歌手はギターの弾き語りで、ニューヨークの地下鉄で路上
ライブをしていて、Uチューブで見つけたという。
早速そのライブ映像をスマートフォーンで見せてくれた。
行き交う黒人や白人が聞き惚れて声をあげている。
地下鉄の雑踏音の中に澄んだ高い声が響き渡る。
ひた向きなニューヨークの尾崎豊という感じがした。
この人のライブが今夜札幌であるという。
まだ20代後半のこの歌い手は、瀬戸くんだけではなく私も思わず聞き
惚れてしまった。
そこへ家族で台湾旅行を終えたばかりの山田航さんがふらりと来た。
お土産と言って、ジョニーウオ―カーのグリーンラベルウイスキー、高級
お茶、マンゴーのドライフルーツを持って来た。
凄いなあ、と思わず呟いた。
ジョニ赤、ジョニ黒は知っているが、ジョニーウオーカーの緑は知らなか
った。滅多に無いよ、と言う。
先日瀬戸くんが、山田さんのお土産は台湾バナナかなあ、と言っていたの
を思い出してそう言うと、山田さんが生真面目な顔のまま、台湾バナナは
日本で購入できます、と言ったので思わず失笑した。
早速みんなで希少なジョニーウオ―カーの緑ラベルを開けて飲む。
つまみに同じお土産のマンゴーを食べようかというと、瀬戸くんがこれは
先ずムラギシにお供えしよう、と言った。
そうか、沖縄の真っ赤に熟れたマンゴーが死んだムラギシの遺品にあった
のを瀬戸くんは憶えていたのである。
遺作集でムラギシを知る山田、瀬戸両君の、今も彼を思う気持がすっと
私にも伝わってきたのだ。
そして棚のムラギシの遺影の前にマンゴーを捧げて、3人でウイスキーを
飲んだ。良い時間だった。

<きこえる?><きみの なまえを よぶ こえ>

*追悼・八木保次・伸子展ー4月中旬~予定。
 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2012-04-08 14:00 | Comments(0)


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