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テンポラリー通信

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2011年 09月 17日

線の魔力ー点と線(1)

<札幌北区の住宅街に生まれ育った少年は線の魔力にとり付かれ・・>と、
藤谷康晴は自己紹介に書いている。
<線の魔力>とはなんだろうか。
彼は最近自らを、ドローイングマンと記す。
点と点を繋ぐものが、線でもあるだろう。
しかし<線の魔力>とは、そうしたドット(点)の支配の外にある。

2006年最初の個展では、その線が街路・建築物の直線描写に終始していた。
流れるような流線では決してない、都市の直線である。
表面的にはコマーシアルな衣装の流線はあっても、その構造的な線は
あくまで目的点への直線構造が都市の構造線の本質である。
その事を見抜き表現したのが、一番街高層建築物の細密描写であった。
そこには人を魅了し誘惑するショーウインドウの商品も、看板も、人も、ビルの
高さも、消去されていた。
裏通り・中通りの猥雑で人間的な曲線に満ちた世界を消去してきたのが、
表通りの高層ビル群である。
そこに商品が埋まり、華やかで消費の物欲に満ちた世界が広がる。
裏通りはその物品の搬入・搬出口となり、人よりも車と物が主役の路となる。
この表・裏通りを支配する線は、物流構造の直線世界なのだ。
消費財の蓄積構造体とは、最終的に消費に直結されるドット構造である。
街路はその直線で構成されている。
線の魔力に取り付かれた青年は、この直線の構造を徹底的に暴き出す。
その結果が、一番街の建築構造体だけを細密に描き抜く事だった。
都市のドット直線構造に縛られた内なる有機的な流線を解き放つ事。
線の魔力を知る藤谷の果敢な、ドット支配の直線構造との戦いが、
この後始る。
点と点を最短距離で結ぶ物流の直線構造支配。
それが、線から見た都市構造でもある。
新幹線・地下鉄・高速昇降機・高速道路・高層ビル群。
これらはすべてそうした直線構造の顕れでもある。
藤谷康晴の挑戦とは、そうした直線との戦いを対極としての流線の創造
に賭ける事で始ったと思える。
今回あれほどまでに嫌悪した高層ビルの高さにあたかも対峙するかのように、
「神の経路」と題した高さ3m余の作品を展示した。
これは、かって高層ビル群から等身大の目の高さを超えた部分をすべて
消去し切り捨てた、一番街細密画の逆をいくものである。
自らの目から天を目指し上昇してゆく、内側からの高さの回復・再生のように、
この作品はある。
この眼の高みへの視座は、祈りのような極めて人間的な行為に似ている。
流れるように縺れあいながら、ある高みへと向かうこの直線は、ドット(点)に縛ら
れたあの直線ではもう決してない。
<線の魔力>はこの時初めて、<自然>という名の<神>への視座を獲得しつ
つあるのかも知れない。
同時に今回の個展で初めて発表された「CELL」12枚の連作は、さらなる自由な
対峙と解放の流れるような美しい羽衣のような作品となっている。
3・11以降の<絆>という言葉に、一番深い処で触れているかのように、
この作品は私には感じられる。

*藤谷康晴展「覚醒庵~ドローイング伽藍~」ー9月13日(火)-25日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2011-09-17 13:24 | Comments(0)


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