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テンポラリー通信

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2011年 07月 07日

cultivateなきcultureー夏日幻想(21)

大震災以後、第一次産業の人たちの精神的強さ、真摯さ誠実さが際立つ。
それも本職の農業・漁業の分野に留まらない、ある基底的な真摯さである。
一方都市型の日常生活において、社会的に偉い方々のなんとも優柔不断
で無責任な言動が、目に余る。
昨日も九州電力の原発公聴会のやらせメールが明らかになった。
国会の議員先生方、原発協力の学者先生と、普段は権威あるかに見える
都市の人たちの小ズルイような、自己保身ばかりが目に付く。
仕事の現場が自然と向き合っている人たちの方が、はるかに謙虚で真摯
である。
そういえば、今回の津波被害にあった漁師の中に牡蠣の養殖の為、山に
木を植えていた人がいた。
再び山の人たちと協力して、海と川の繋がりを回復し漁場の整備にあたって
いるという。
この行為こそが、contemporary(同時代)の行為である。
海と山というtemporaryな状況を超えて、conという同時代の眼差しを保つ。
それに比して、都会の人間の方が余程temporaryな個別状況に閉塞している。
それは組織内の縦割り社会の中にである。
写真家のM佐藤さんが感動していた被災地のイチゴ農家の方は、ひとりせっせ
と汚れた写真を洗浄し、復元しているという。
他者の貴重な思い出を、見知らぬ写真の持ち主の為その行為を続けている。
この人が作るイチゴは、どんな味がするのだろう、とM佐藤さんは語る。
こうした第一次産業の人たちに比し、文化を担う人たちは謙虚に真摯に
自然・風土と向き合っているのだろうか。
電気的操作技術の機械とばかり向き合って、目の前の囲繞する風土と
少しも向き合っていない気がする。
先日発刊されたベーマー会会報3号で、ルイス・ベーマーが勧めた農産物
の報告書が収録されていた。
アマ・アサに始まり、ジャガイモ・エンドウ・タマネギ・メロン・トマト・アスパラ
・スイートコーン・キャベツ等あらゆる農作物を移植し、改良していた事が
分かる。
最初に実験的に栽培されたセロリ・ブロッコリー・レタス・ホウレンソウなど
はもう当たり前に今の食卓にある。
これこそが真の文化ではないのか。
カルチヴェート(cultivate=自耕する)事無くして、カルチャー(culture=
文化)もない。
今第一次産業の人たちが際立つのは、こうした文化の基底を黙々と生きて
いるからである。
芸術家や音楽家、詩人や小説家、そうした文化人といわれる人たちが、
この第一産業者のように、自然という名の風土と向き合うことを忘却して
都市的インフラとばかり向き合っていないだろうか。
メガポリス・メトロポリスの都市という囲繞環境のカプセル内で、ある高み
に安住したまま、あたかも大衆啓蒙のような思い上がった位置に居座る。
そんな文化屋が、真の謙虚さも真摯さもなく、アートにうつつを抜かして
いる。ネイルアートという爪化粧の呼び名に象徴されるような化粧が
芸術=アートという頽廃に落ち込んでいる。
されば「スイーツ・アート」などという造語も当然罷り通る事になる。
こんなものに比し、ベーマーが栽培したスイートコーンの方が、はるかに
文化である。
自ら耕す(cultivate)事なき文化(culture)の事を、アートと呼ぶのか。
そんな気がするのである。

*西田卓司展ー予定

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2011-07-07 12:56 | Comments(0)


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