テンポラリー通信

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2011年 06月 16日

圏谷(カール)の世界ー夏日幻想(7)

U字の世界を降りていく。
決して垂直な下降ではない。
緩やかな広い斜面は左右に広がり、目の上下にも世界は広がっている。
声が木霊する空間。遠くを走る人の背からも、声が聞こえて来そうだ。
こちらを見ている人はいない。向こうに向かって走ったり、歩いたり。
圏谷(カール)は緩やかにカーブして、お花畑のように人が点々と咲いている。
いや、走っている。
画面手前にひとりの後姿。背筋が伸びている。
この人物が起点である。
そこからプレリュードが始まり、フーガのように眼の音楽が奏でられる。
初日前日徹夜で描き上げたS百号。
この絵の圏谷には、そのU字の向こうは無い。
他の作品には、U字形の向こうに空が、海がある。
特にもう一点、1階左壁のF百号中央には、年配の男の後姿がある。
あれはきっと父親の後姿。
そしてU字の向こうは海。
しかし正面S百号の圏谷(カール)の向こうには、抜けるものはない。
父の背中も、山も、海もない。
「これから下りていこう」
このタイトルに一番素直に、描き上げたのがこのS百号である。
この絵が正面にきて、個展空間は収斂した。

久し振りの青空が来た。
昼の陽射しが射すまで、明るい翳が会場を包んでいる。
次第に午後の陽射しが注ぎ始め、このS百号を照らす。
燦々と光が溢れて、入ってきたDさんが歓声を上げた。
展示初日まで完成せず、展示を迷っていたこの作品。
最後に描き上げた圏谷(カール)世界。
氷河の侵食で削られた圏谷(カール)。
夢の傷痕の谷間。
今その圏谷は自立して、初夏の花園のようだ。

*「これから下りていこう/齋藤周」展ー6月11日(土)ー26日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2011-06-16 14:51 | Comments(0)


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